自立と分散で日本を変えるふるさと知事ネットワークシンポジウムパネルディスカッション 知事発言要旨

最終更新日 2010年10月1日ページID 012872

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 このページは、平成22年7月30日(金)に憲政記念館(東京都千代田区)で行われた、「自立と分散で日本を変えるふるさと知事ネットワーク」シンポジウムパネルディスカッションでの知事の発言要旨をまとめたものです。
 パネルディスカッションには、西川知事のほか、パネリストとして荒井正吾奈良県知事、平井伸治鳥取県知事、坂田一郎東京大学大学院教授、コーディネーターとしてプロデューサーの残間里江子さんが出席しました。

 Ⅰ ふるさと知事ネットワークについて
 Ⅱ 福井県の魅力や元気について
 Ⅲ ふるさと知事ネットワークの共同研究プロジェクトについて
 Ⅳ 福井県で進める希望学プロジェクトについて
 Ⅴ 高齢者の活躍について
 Ⅵ ふるさと知事ネットワークの今後の活動について

【Ⅰ ふるさと知事ネットワークについて】 

 皆さんこんにちは。福井県知事の西川一誠です。今日は、憲政記念館にお集まりいただき、ありがとうございます。
220730発言要旨写真1 ご紹介いただいた「自立と分散で日本を変えるふるさと知事ネットワーク」という名前については、初めは9県、今は11県で活動していますが、皆でいろいろ考えているうちに長い名前になってしまいました。名前はあまり厳密に考えていただかなくても良いと思います。
 今日は「NPO法人ふるさとテレビ」のご協力もいただきながら、会場の皆様とともに「ふるさと」や「地方」について一緒に考える機会をいただきました。
 こうして壇上から拝見しますと、私と同年代あるいは先輩の世代の方々が多いように見受けられます。おそらく、地方と言いますか、田舎から東京に出てきた方が大勢いらっしゃると思います。
 「大都市と地方は対立している」という考え方がよく主張されますが、日本の総人口が減り、グローバル競争が強まっている中で、あまり対立という議論をしても始まりません。地方と大都市がうまく連携することで、日本が直面する様々な課題を解決し、日本の成長の道を切り拓いていかなければならないと思っています。都市と地方が互いに助け合ったり、切磋琢磨したりしていかなければなりません。
 ここ数年、「大都市にもっと投資を集中させないと日本再生の道はない」という主張が一部に見られます。私はこの考えは逆だと思います。バランスよく地方が発展していかなければ、わが国の発展はありえません。
 我々が主体的に活動するところに「ふるさと」があり、「ふるさと」が元気になってはじめて国全体の活気も出てくると思います。今日は、こういった思いも込めて、日本の将来を考えていきたいと思います。
 昨夜、東京の福井県人会の総会がありました。県人会の皆さんは、自分の「ふるさと」が取り上げられると、「ふるさと」が身近に感じられ、うれしいと言っておられました。その代表例が、NHKの「大河ドラマ」や「連続テレビ小説」だと思います。この2つのドラマについて、面白いデータをみつけることが出来ました。
 過去10年間の「大河ドラマ」のうち6つが「ふるさと知事ネットワーク」の参加県が舞台となっています。今年は皆さんご存じの「龍馬伝」(高知県)ですが、「利家とまつ」(石川県)、「武蔵」(熊本県)、「功名が辻」(高知県)、「風林火山」(山梨県)、「天地人」(山形県、新潟県)があります。また、「連続テレビ小説」では、「ゲゲゲの女房」(島根県、鳥取県)、「だんだん」(島根県)、「ちりとてちん」(福井県)があります。
 来年の大河ドラマは「お江」であります。浅井三姉妹の一人「お江」が主人公であり、次女の「お初さん」は小浜藩の初代藩主となる京極高次に嫁ぎました。
 蛇足になりますが、「龍馬伝」では、福井藩主松平春嶽が坂本龍馬に五千両を貸しています。現代の金額に換算すると、大きく見積もって10億円、小さく見積もって5億円であります。幕末は江戸で金策したのではなく、地方同士が互いに連携し、知恵やお金、そして人材を集めていたと思っています。
 「ふるさと知事ネットワーク」ですが、一言でいえば、代表者がいません。私は世話役をしておりますが、代表ではなく、連絡係であります。
 今日は、奈良県知事、鳥取県知事に来ていただきましたので、十分な議論をしたいと思います。「ローカル・アンド・ローカル」(「地方と地方」という意味ですが)で、ゆるやかな「ネットワーク」をつくっています。民主党も「地域主権改革」を掲げて頑張っておられますが、「地域で物事を良くしていく」ということを進めています。簡単に活動を3つ申し上げます。
 1つ目は、みんなで「新しい地方の生活モデル」を作ること。2つ目は、各県の得意分野や特長を活かした研究を進めていくこと。3つ目は、「ローカル・アンド・ローカル」で多様な連携をすること、これは大学、商工団体、民間団体、メディアが様々な形で連携するという意味です。この3つ、うまくいくかどうかは、我々の努力にかかっています。それぞれの県の出身の皆様が、地域を良くしたいと思うことから物事が出発します。

【Ⅱ 福井県の魅力や元気について】


 コーディネータの残間さんには、「団塊の世代」の方々を中心に、新しい大人のネットワークのグループを結成し、田舎での農業体験や伝統文化のツアーをコーディネートしていただいております。今年2月27日から3月初旬にかけて、椎名さんと「勝山左義長」をご案内いただいたということで、感謝申し上げます。「勝山左義長」は、雪の降る中で浴衣を着て太鼓をたたいて踊る不思議なお祭りです。「恐竜」の産地である「勝山」の最も明るい冬のお祭りです。
 今日は「ふるさと」という言葉がキーワードになると思います。「ふるさと」という言葉には、いろいろな漢字が当てはまりますが、この言葉が新聞で登場するようになったのは1980年代後半であり、それから一気に2倍ぐらいに増え、現在も増え続けています。ちょうど「団塊の世代」の方が、50歳代を迎えた頃から増え始めており、そういう方々が将来について考えることもパワーとなっていると分析しています。
 私は昨年7月に「ふるさとの発想」という本を岩波新書から出版しました。ふるさと「ブーム(Boom)」ではなく「ムーブ(Move)」、具体的なアクションに展開できることを期待して本を書いたわけであります。
 先程、来賓の石破先生(自由民主党政調会長)が東京駅での寝台列車「出雲」の話をされました。石破先生は岩手ではなく鳥取の方ですが、石川啄木的と言いましょうか、特別にそういう話をされたのだと思います。クラッシックな感じの望郷の思いの時代の話です。それから時代がしばらくして、これは福井県出身で日本を代表する歌手の五木ひろしさんの「ふるさと」という歌が出ました。誰にでも「ふるさと」があるという歌です。つまり、地方にも東京の方にもさまざま「ふるさと」があるということです。それから、福井の出身ではありませんが、山口百恵さんは「日本のどこかに私を待っている人がいる」と歌っています。かなり「ふるさと」が、選択的、普遍化してきていると思います。そういう時代を経たわけですから、今はどんな「ふるさと」があるのかということですが、「新しいふるさと」があります。例えば、福井県出身で埼玉県の住まいであれば、「そこの市に自分の『ふるさと』をつくろう、そして、生まれた福井も応援しよう」ということです。そういう動きが「新しいふるさと」だと思うので、それぞれが自分の「ふるさと」をつくるということを進めてほしいと思っています。
 福井県の小浜市は、一気に活躍したわけではなく、時間をかけて活動している結果だと思います。NHKドラマ「ちりとてちん」の舞台が小浜であり、自分たちはできると感じ、オバマ大統領と同じ名前というだけで応援するという動きをしました。行動を具体的に進めることで地域の動きが出てくることが、これからの「ふるさと」だと思います。具体的な行動という中で、どのようにそれぞれの魅力を出していくかということであります。
 私が7年前に知事に就任した当時の話ですが、小学生対象の日本の白地図で都道府県の場所を指し示す都道府県認知度調査では、福井県は全国最低の47位でした。北海道や沖縄は1位か2位、東京も高いと思います。滋賀県も琵琶湖があるので高いと思いますが、おそらく、奈良県や鳥取県もそんなに高くないと思います。私はこれでは駄目だということで、いろいろなことを行ってきましたが、現在は、それでも30位代の半ばぐらいです。
 ちょうど今日、今年の学力テストの結果が公表されますが、福井県の小中学生の学力は、4年連続で中学生が全国1位、小学生が全国2位で、学力は総合でトップクラスです。また、体力テストでは、福井県は断トツ1位であり、福井県は、学力・体力が日本一高い県であります。
 しかし、毎年、福井県から約3,000人が東京や大阪などの大学に進学しますが、4年後には約1,000人しか福井に戻ってきません。残りの2,000人は、東京や大阪などの大都市で働き、そこで税金を納めるのです。地方自治体としては、0歳から18歳まで子どもを育てるため、保母さんや先生の給料、医療費の無料化などで約1700万円の費用がかかっています。これでは割に合わない、何とか変えなければならないと思い、福井県から「ふるさと納税」制度を提唱し、福井県を応援して欲しいと申し上げているわけです。
 今日は奈良県知事、鳥取県知事がお見えですが、福井県だけでやっていても力にならないので、一緒になって盛り上げていきたいと思っています。

【Ⅲ ふるさと知事ネットワークの共同研究プロジェクトについて】

 共同研究プロジェクトは、それぞれの県庁の職員が何回か集まり、自分の県の研究テーマは何が良いか、どの県の研究に参加するかということを決めました。
 福井県は「ふるさと希望指数」(ローカル・ホープ・インデックス:LHI)の研究をします。この研究には、他の10県すべてが参加いただいています。
 「ふるさと希望指数」は、GDPなどの経済指標とは異なります。また、民主党がつくると言っており、フランスのサルコジ大統領もEUで進めたいと言っている「幸福度指数」とも異なります。ブータンでも「幸福」ということが行われていますが、「幸福」は今の幸せということであり、「希望」は将来のことであります。福井県は「幸福」ではなく「希望」に挑戦しようということです。

【Ⅳ 福井県で進める希望学プロジェクトについて】

(コーディネータから「福井県では東京大学と希望学の共同研究(福井と釜石での調査)を実施しているが、LHI研究と関係がありそう」との発言を受け)
 「ふるさと希望指数」は希望学に大いに関係しています。岩手県の釜石市は高度成長時代には鉄鋼で発展しましたが、現在は疲弊していると言われています。その中での希望との関係を調査しています。
 一方、福井県は学力・体力が日本一、年収800万円以上の世帯が4割以上で所得が日本一高い、人口当たりの社長の輩出率が日本一、失業率が日本一低い県であります。幸福の観点では「幸せ」であるが、希望としてはどうなのかという比較をする調査をしています。先程紹介した学力テストの際に、子どもたちに「将来に希望を持っていますか」という調査をしたところ、福井県は40位ぐらいと低い結果となりました。恵まれているからそういう気持ちが低いのか、本当に希望が弱いのかを調査しています。
 ちなみに希望が高い県は、鹿児島県、宮崎県、山口県などです。福井県では「希望」という違った切り口で物事を考えていこうとしています。

【Ⅴ 高齢者の活躍について】

 福井県は健康長寿県であり、三世代同居が全国2位と高いので、おじいちゃん、おばあちゃんに孫教育を期待しています。220730発言要旨写真2
 また、コシヒカリ発祥の地でもあり、農業は70歳になっても80歳になっても出来ると思うので、農業の担い手としても重要であると考えています。私も近所に畑を借りて、家庭菜園をやっています。今の時期は、ウリ、トマト、ナス、キュウリなど二十数種類を育てています。さらに、皆さんは地域コミュニティーあるいは自治会などにおいても重要な役割を担っていただいており、そうしたことが学力や体力を高くしていると考えます。

【Ⅵ ふるさと知事ネットワークの今後の活動について】


 我々は今日、自立的な話をしましたが、分散ということが課題として残っていると思います。そこで、どうすれば、シルバー、大学生、子ども達など大都市の人が、ふるさと(地方)に動くかという工夫を研究しなければなりません。私はその一つとして、「単身」ということを気にしています。約50万人の単身者をどうするかという問題をどう解決していくかを考えなければならないと思っています。
 また、日本では、企業の本拠が極端に東京に集中していますが、地方にいかに移していくかという研究もする必要があると思います。その他、平井知事がリーダーになってやられていますが、高速道路・新幹線などのミッシングリンク、こういう問題も残っていると思います。
 今日のシンポジウムを本当は東京以外の地方でやりたいと思っていましたが、次回は是非地方でやりたいと思います。バランスを考えながら、地方の自立と分散について、着実に進めていく努力をしていきたいと思います。

 なお、他のパネリストの主な発言要旨は次のとおりです。

奈良県:荒井知事
【ふるさと知事ネットワークの意義について】
 日本の大きな問題として、都市と地方が対立する可能性があります。中国や韓国では、発展したところと後発的なところとの経済的な格差、所得格差、それが気持ちの格差になることがトップの政治課題とされています。日本では、そうはなっていないが、実はいろいろな面で格差が広がっているのではないかというのが、ふるさと知事ネットワークの底流にあると思います。
 西川知事が付けられた「分散」という言葉には、大きな意味があると思います。地方はよく「分権」と言いますが、権限を地方に移しても豊かになるのかどうかが大きく問われなければなりません。豊かさのもと、栄養素を分散させらないかという意識があるのではないかと思います。
 馬力のある拠点が地方に分散しなければならないと思います。
 文化の拠点や産業の拠点、研究所が地方に分散すれば、日本はもっと幸せになり、高齢化社会の模範の国になるのではないかと思います。

【ふるさとの魅力や元気について】
 奈良県では、今年で710年に平城京が遷都されてから1300年ということで、「平城京遷都1300年祭」を開催しており、歴史を素材にしてお祝いし、楽しもうということで進めています。
 奈良の歴史は、実は、関東の人から愛していただいており、奈良県に来られる宿泊客の40%は関東の方です。
 奈良には、国宝が280ありますが、国宝を超えるような皇室のものが1万点あることから、奈良県民は国宝には見向きもしない傾向があります。国宝があるからと言って所得が上がるわけではないですが、地域の誇りを確認することも行政の役割だと思っています。

【共同研究プロジェクト:効果的な健康づくり施策検討プロジェクト】
 私が知事に就任した時に起こった周産期の搬送事件を契機に、奈良県は「健康づくり」を県政の重要事項としてプライオリティを置いています。奈良県では年間1万2千人ぐらいの出産があり、そのうち120件ぐらい救急搬送があります。当時、奈良県内で受け入れられる病院が少なく、約4割が大阪の病院に搬送されていました。いろいろと取り組んだ結果、ここ1年足らずに、県外搬送は激減し、昨年では1件だけになりました。努力をすれば、効果があることを実感しました。
 健康づくりの観点でいろいろと調べた結果、長野県は医療費が少なくて平均寿命が長い県ですが、違った指数で、「都道府県別自立調整健康余命」という統計があります。これは、例えば、ある女性が65歳になると、あとどれぐらい健康で長生きできるかという指数で、ふるさと知事ネットワークの参加県はだいたい上位にランクしています。
 どのように工夫すれば、健康長寿が延びるのか。県のサイズだといろいろな手が打てるので、健康づくりの共同研究のリーダーとなりました。
 また、自慢ではありませんが、自殺率は奈良県が最低です。健康で長寿の地域にしたいと考え、健康寿命を延ばすことを1つの大きなアジェンダにしました。
 奈良県では、持統天皇吉野の旅ということで「歩く奈良」を職員の発想から提唱しました。これは、1年間で職員自らが、候補地3,000キロを週末に歩いた結果、ストーリーがないと歩きにくいとの実感に基づいたものです。そこで、歩いていると歴史を理解できるという手法を取り入れました。


鳥取県:平井知事
【ふるさとの魅力や元気について】
 現在、鳥取県を舞台とする「ゲゲゲの女房」がNHK連続テレビ小説で放送されています。鳥取県は、水木しげる先生のふるさとであり、奥様の布枝さんは隣の島根県がふるさとです。
 このドラマを契機とし、世界で初めて空港に「米子鬼太郎空港」という妖怪の名前(愛称)をつけました。その他、米子近くの境港に、「水木しげるロード」というところがあり、ここに妖怪のブロンズ像を置いています。ブロンズ像の設置には、最初は反対の声もありましたが、今では139体にまで増えました。現在、商店街では、多くのお客さんでにぎわい、全国の商店街活性化のモデルとなっています。
 世の中の価値観が変わってきて、地域・田舎の魅力がクローズアップされる時代がやってきたと思うところがあるんです。

【共同研究プロジェクト:「森林吸収量の市場取引制度」研究プロジェクト】
 11県の知事が集まり、この国の価値観・生き方を変えていかなければならない時期が来たと思っています。
 鳥取県では、環境を守る活動がいろいろと立ち上がっています。鳥取砂丘の落書きが、一時話題になったことから、「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」を策定しました。その結果、落書きが減り、今では、砂丘の草を抜きボランティアをするという観光客もいるほどです。
 また、地球環境の問題に貢献するため、国内の森林活動などにより吸収される二酸化炭素量をクレジットとして認証するJ-VER制度の認定を、全国で初めて取りました。
 これからは、自然環境の良いところが企業などからも評価されると思います。鳥取県のでは、本県の環境政策が気に入ったとのことで、電気自動車の製造工場を鳥取県につくろうという会社も現れ、来年から生産を始めようという動きもあります。
 そのような環境先進県鳥取県の一つの象徴として、森林吸収量の市場取引についてやってみようとプロジェクトを立ち上げました。

【外の人たちの地域づくり】
 ここ3年ぐらい、最近、移住、IJUターンが増えています。去年でガラッと変わりました。景気の動向もあると思いますが、価値観の転換もあると思います。神戸で喫茶店をやっていた人が、鳥取に来て、喫茶店を営んでいる。別に儲けようとしているわけではなく、自分の生き様としてやっているような感じがします。このように人生にも、いろいろな価値観があると思います。私たち地方が、これから自立して歩んでいくときに、受け皿として都市との新たな連携の形を目指すべきではないかと思っています。 



 

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