立命館大学知事リレー講義 「ふるさと」のために何ができるか~ふるさと貢献のシステムづくり~

最終更新日 2010年2月4日ページID 005562

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 このページは、平成20年4月24日(木)、全国の知事が地方行政の現状や課題を語る「知事リレー講義」の一環として、「ふるさと」のために何ができるか~ふるさと貢献のシステムづくり~という演題により立命館大学で行われた知事の講義概要をまとめたものです。
 同大学の学生、社会人など、約650人が聴講しました。

 Ⅰ はじめに
 Ⅱ 暮らしの質の向上
 Ⅲ 大都市圏と地方
 Ⅳ ふるさと納税

 [質疑応答] 

 【Ⅰ はじめに】

200424講演写真1 みなさんこんにちは。
 このリレー講義も今年で4回目になります。1回目、2回目は11月、昨年は6月であったと思います。今回は随分早い時期で、みなさんのやる気も感じられます。

 4月になり、福井県庁にも今年83人の新採用職員をお迎えしました。そのうち立命館大学出身の方は2名いらっしゃいます。事務系の方が1名と技術系の方が1名だと記憶しています。福井県庁には立命館大学出身の方が50名おります。その中でトップの人は、安全や防災を担当する部長で、ずい分と助けられています。

 立命館大学出身者といえば、白川静先生がいらっしゃいます。日本の漢字研究の第一人者で、立命館大学名誉教授でもいらっしゃいました。

 この白川先生は漢字の成り立ちについて解説をされた方です。例えば、「告」という文字があります。これを中国の漢字学者は「『牛』という文字に『口』を合わせた会意文字である」といいました。日本でも最近まで「牛の角に縛りつけた棒が危険を告知すという意味から」などと語られています。
 白川先生は、この「告」について、「『口』はサイといって神に祈る祝詞を入れる器のことであり、木の小枝にサイをつけて神前に掲げ、神に告げて祈ることをいう」と解説されました。
 漢字の意味をしっかりと理解し覚えやすい、この白川文字学を福井県の小学校で進めています。しかし、小学校で教えようと思うと、小学校ではこれら1006文字を学ばせると定めた学習指導要領の規制を突破しなければなりません。
 何とかこれを突破しようと国に構造改革特区の申請を行いました。すると、何十年間もだめだとされていたにもかかわらず学習指導要領を超えて教えることは、児童の負担に配慮すれば、特区申請しなくてもよいですよという回答がありました。
 白川文字学を小学校で教えられるようにしたのは、実は福井県なのです。

 【Ⅱ 暮らしの質の向上】

 ところで、福井県とはどんな県だと思われますか。

 先週、福井県内でもプロ野球独立リーグが開幕しました。新潟、富山、石川、群馬、長野そして福井の6県のチームが参加しています。福井県のチームの名前はミラクルエレファンツといいます。
 なぜ、ゾウかと言えば、福井県の形がゾウの顔を横から見たところに似ているということがあります。そして、室町時代にゾウが初めて日本に上陸したのですが、その地が福井県のあの小浜市だったのです。

 先日、高校生や大学生を対象に、県の位置を選ばせる調査を行ったところ、宮崎県と愛媛県の正答率が低かったということで話題になっていました。
 今回、正答率が低かったところに福井県が入っていませんでしたが、それは対象からはずれていたからです。

 何年か前に、帝国書院が小学生を対象にして、白地図に都道府県名を記入させる調査をいたしました。その結果、正答率が1位だったのは北海道で、2位は沖縄県でした。
ところで、福井県は47位でした。福島県や福岡県など似たような名前の県があることも一因かと思います。総じて、近畿地方の県は知られていませんでした。これは、面積が小さな県が多いからだとも思います。

 でも、福井県はがんばっている県です。
 例えば、出身地別の10万人当たりの社長数は26年連続で全国第一位です。1世帯あたりの自動車の保有台数も全国第一位ですし貯蓄額も上位です。
 出生率がまっ先に上昇に転じた県ですし、共働きの比率も失業率の低さも全国第一位と、さまざまな意味で住みやすい県です。
 ただ「住みやすい県」と「住みたい県」とは違います。福井県をさらに「住みたい県」にすることが、私の知事としての仕事であると思っています。

 前々回の統一地方選挙からマニフェストが導入されています。ローカルマニフェストといいますが、マニフェストは今や政治家にとって必要不可欠な公約となっております。 私自身も1期目の「福井元気宣言」、2期目の「福井新元気宣言」というマニフェストを掲げて選挙に臨みました。

 私の頃は、「元気」という言葉は、政治の世界になじみのある言葉ではありませんでしたが、人にわかりやすい、そしてまさに必要な言葉だということで「元気」を使いました。
 今回の「新元気宣言」には「笑い」という言葉を入れましたが、これも私が政治用語として用いた最初の知事ではないかと思います。ちりとてちんの放映もありましたが、健康づくりに「笑い」を取り入れることが良いと思ったということもあります。

 2日ほど前に、第2回目の全国学力調査が実施され、秋ごろその結果が発表されるようです。昨年の調査結果では、福井県は秋田県と並んでよい結果でした。知識を詰め込むだけではダメで、地域や家庭などいろいろな条件がそろわないと、子どもの学力は伸びないと思っています。

 しかし、その時にあわせて実施した子どもの学習状況調査の結果によると、「将来の夢や目標を持っている」と答えた子どもの割合が全国平均を下回っていました。これは、何とかしなければならない問題だと思っています。
 最近、大学の新しい学問で「希望学」というものがあるようですが、「希望学」に取り組む大学の先生が、福井県でフィールドワークを開始されています。

 【Ⅲ 大都市圏と地方】

200424講演写真2 本日は、ふるさとへの貢献について話をいたしますが、その前に大都市圏と地方の現状について話をいたします。これが「格差社会」などの議論にかかわるからです。

 最近、大都市から地方に対して、地方の自覚を促すような論調が多く出されていますが、果たしてそうなのでしょうか。
 例えば、関西地方で消費される電力の半分は福井県から送っています。滋賀県の琵琶湖の水も関西の人々の7割を潤しています。
 このようなライフラインにかかわるつながりが、地方と大都市との間で、目には見えないけれどもあるということを、まず知っていてほしいと思います。大都市は、このような地方に対して、十分なリターンをしているのかということです。

 また、人材はどうなのでしょうか。
 福井県の高校を卒業した子どもたちは県外の大学に出て行くのですが、毎年県外の大学に出る人が3,000人で、4年後に戻ってくるのが1,000人です。毎年、2,000人くらい減っています。
 その一方で、福井県では3人っ子づくりを応援しています。3人以上のお子さんがいる家庭では、3人目以降の子どもの3歳までの医療費や保育費が、福井県では無料なんです。妊娠されてからの健診費も無料にするなど、福井県では行政が一生懸命応援しています。さらに、これ以前、結婚も応援しているのですよ。さて、若い人たちが高校を卒業するまでの間に、子ども人当たり1,600万円から1,700万円くらいかかります。
 そして、社会に出て、いよいよ税金を納めてもらおう、福井に貢献してもらおうと思った矢先に県外に出て行かれてしまう、これは正直に言って切ないことです。せっかく大きく育て上げたのにと思うと、何か大都市から一言あってもよいだろうとも思います。

 10日ほど前に、国が発表した都道府県の推計人口によりますと、東京都の人口が1979年以来28年ぶりに総人口の1割を超えたそうです。
 また、東京、名古屋、大阪の三大都市圏の人口の合計も5割を超え、経済活動の活発な東京都、愛知県、神奈川県など都市部に人口が集中し、その一方で、地方が減少するという傾向が明らかになりました。

 みなさんは、ルソーのエミールを読んだことがありますか。その中にこのような話があります。
 2つの国があって、これらは人口も面積も同じです。一方は大都市に人口が集まっている国で、もう一方は人口がバランスよく分散しています。両国が戦うとどうなるでしょう。必ず、バランスがとれている方が勝つと主張しています。詳しい理由は書いてありませんが、わかる気がします。

 この頃のフランスは、最も中央集権的な国でした。パリで話をつけないと、何も進まない、埒があかない状況でした。今でもそうでしょう。これも、一つには何でも国に任せればよいという国民性があります。このような話からも、日本はバランスのとれた国にしなければならないと思います。

 【Ⅳ ふるさと納税】

 私はこれまでに計算したところ17回引越しをしました。それぞれ思い入れがありますが、それでも「ふるさとは?」と聞かれたら福井県と答えます。
 現在、ふるさと納税制度が国会に上がっています。地方税法の改正法案ですが、現在、この法律は宙に浮いた状態になっています。

 ところで、みなさんは税金を納めていますか。消費税や、車を運転する人はガソリン税、このほか酒税、タバコ税などを納めていますが、これらはみな間接税というものです。

 直接税は、みなさんが働くようになってから、個人住民税を納めることになります。

 人が生涯に受ける行政サービスと税負担について考えますと、たいていの場合は、生まれてから高校や大学を卒業して就職するまでの間は、税を負担せずに行政サービスを受けます。
 そして、就職して働いている間は、行政サービスに見合う以上の税金を納めていただきますが、退職するとまた行政サービスのお世話になります。

 先ほど机の席のところでお話をした人は岡山県出身とお聞きしましたが、彼女が東京で勤めた場合にどうなるかということで、「ふるさと納税」をご説明します。東京で働いて個人住民税を10万円納めるなら、そのうち1万円を岡山県に寄付していただきたい。そうすると、東京で個人住民税を納めるときに納税額から差し引いてくれる制度が、ふるさと納税制度であります。

 ふるさと納税は、納税者が自ら納付先を決める、いわゆる「納税者主権」を実現するものです。
 ふるさと納税制度が実現さえすれば、誰かが福井県にきっと納めてくれるだろうと手をこまねいている訳にもいきません。福井県では、すでにインターネットのサイトを持っています。「ふるさと福井応援サイト」というもので、ここではボランティアなど、お金以外での応援の形も紹介しています。

 ふるさと納税が始まると、地方自治体の間の競争が起こります。それぞれの地域がやっていることを、納税者が比較をすることになるからです。そして、税の使い途に関心を持つようになります。こういうことが可能になるということが、ふるさと納税の画期的なところです。

 ただ、ふるさとに対して1割しか納められない。私は、検討会で3割くらいと主張いたしましたが、1割になりました。また、手続の面でも改善の余地があると思っています。いわば、まだ発展途上の制度でありますが、まずは成立して、日の目を見ることが大事だと思っています。

 ふるさと納税には、寄付の観点も盛り込みました。
 寄付は、世界的にはアングロサクソン系のところが寄付が盛んであるような気がいたします。2006年の寄付金額を見ると、計算方法はいろいろあるでしょうが、アメリカは30兆円を超える規模であるのに対しまして、日本ではわずか6千億円足らずです。

 アメリカのマイクロソフト社会長のビル・ゲイツ夫妻が創設した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の資産総額は日本円で3兆円、年間助成額が1,000億円を超えるそうです。一方、日本では、一番大きな財団でも年間助成額が10億円ですから、2桁もの違いがあります。

 公と民の間にあるところの、公益といいますか新しい分野が寄付によって開かれます。
 「赤毛のアン」など新大陸の少女文学を読んでいても、村のチャリティーや奨学金など寄付文化が根付いているということを感じます。
 わたしは、ふるさと納税が日本に寄付文化を根付かせるきっかけになってほしいと思っています。

 ふるさと納税制度の意義は、納税者主義を実現すること、住民による税金の使い途の監視がなされること、日本に寄付文化を醸成することにあると思っています。

 [質疑応答]

(問)ふるさと納税が実現した場合に、寄付したい「ふるさと」が2か所あった場合、両方に寄付することは可能でしょうか。
(答)可能だが、個人住民税の1割だから、そんなに多くの箇所には分けられないと思います。ちなみに、福井県に寄付していただいた場合は、県と市や町で分けることにしています。 

(問)納税者が自分の意思を反映させることができる「ふるさと納税」は画期的な制度だと思います。このほかにもそのような例があるのでしょうか。。
(答)千葉県市川市に「1%支援制度」というものがあります。これは、市内だけの話になりますが、個人市民税額の1%分を市民の自主的なまちづくりに支援できるものです。
 このように、自身のまちづくりのことを考える取組みがなされていますが、大都市と地方との間には、法人二税などで見かけ以上に大都市にお金が集まっている現状があります。これを何とかしなければならないと思っています。

(問)ふるさと納税が導入された場合に、どの県が多く集められるかということについて、それは北海道と沖縄県だろうという結論になりました。両県とも観光地として有名だからです。知事は、よい施策をしているところが応援を受けるべきだというお考えでしたが、これについてはどう思いますか。
(答)本当は「ふるさと」を出身地に限定したかったのですが、納税の条件として厳密に証明することが容易ではないので、納税者が選択するところを「ふるさと」と認めることにしました。検討会では、地方自治体が地域の魅力を高めるための継続的な努力を行い、納税者の自覚を促すことが書かれています。5年や10年はかかることかもしれませんが、取り組まなければならない課題だと思っています。

200424講演写真3 (問)地域を二分するような選挙が行われた場合に、選挙に負けた方が、ふるさと納税を濫用し自分の市に個人住民税を納めないということが起こらないとも限らないが、これについてはどうでしょうか。
(答)ふるさと納税は1割が上限になっていて、9割は居住地に納めることになっているので、基本的に問題にはならないと思います。

(問)ふるさと納税は納税者に選択権を与えるものなので、一方の地方自治体はふるさと意識を醸成させることが必要だと思いますが、そのための施策としてどのようなことを考えていますか。
(答)福井県としては、ホームページを充実して、福井県が行っている行政施策をPRしています。私自身も、福井県の施策が全国のモデルとなるように、政策で全国をリードできるように行政を進めているところです。



 

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