福井工業大学「地域共生学」 「ふるさと」のために何ができるか

最終更新日 2010年2月4日ページID 006191

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 このページは、平成20年6月18日(水)、「地域共生学」として、「『ふるさと』のために何ができるか」という演題により福井工業大学で行われた知事の講義概要をまとめたものです。

200618講演写真1 本日は、「地域共生学」の講義の中でお時間をいただきました。そこで、地方自治やふるさとづくりについて話をしたいと思います。質問も時々しますから答えてください。

 みなさんの手元に「『ふるさと納税』に関するアンケート」があると思います。講義の間に設問に答えてください。予備知識がないといけませんから、「ふるさと納税」について簡単に説明します。

 まず、税金の話ですが、みなさんは現在でも消費税やガソリン税などを納めています。しかし、大学を卒業して就職すると、さらに所得税や住民税、家を持ったら固定資産税などを納めることになります。

 仮に、みなさんが東京で就職して、個人住民税を東京に10万円納めるとして話をします。東京に納める税額10万円のうち、その1割分である1万円を「福井で18歳までお世話になったから」ということで福井県に寄付してもらって、東京には差し引き9万円を納税する、だからみなさんの負担額は変わらない、という制度が「ふるさと納税」です。

 アンケートの質問には、「ふるさと」というのはどんなところか、という項目もあります。ほとんどの方は出身地を答えるのでしょうが、「友達がいるところ」を応援したいということでも結構です。どうぞ回答をお願いします。

 続いて、ブランドハンドブックをご覧ください。
 ここには、福井のことをわかりやすく記載してありますので、ぜひ読んでください。そして、その内容を友人に紹介してください。
 例えば8ページには、さまざまなデータの全国ランキングが掲載されています。
 「社長輩出数」をご覧いただくと、福井県は人口当たりで社長になっている人の割合が全国一高いということがわかります。帝国データバンクの調査で、福井県は30年近く第1位です。みなさんにもチャレンジ精神を持って、福井でがんばっていただきたいと思います。
 「住みやすさ」も福井県は第1位です。県外出身のみなさんにも、この住みやすい福井で暮らしてみようかと思っていただければよいと思います。
 「食べ物のおいしさ」という項目があります。ある旅行雑誌が調べたところによりますと、福井県が第1位にであったということです。
 「自動車所有台数」第1位も福井県です。福井県での暮らしには車は欠かせないということだと思います。そのほか、お米をたくさん食べ、犯罪が少なく、女性の社会進出も盛んなところです。みんなで一生懸命働いて、地域をよくしようとがんばっている県であります。

 冊子の前の方に戻ると、「健康長寿な福井」と書かれています。みなさんはまだ若いので関心はそれほどでないかも知れませんが、元気で長生きの県です。

 さて、この「地域共生学」には、今年度は111名の学生が受講され、そのうち県内出身の人が57人、県外出身の人が54人と聞いています。

 そして、福井工業大学の卒業生の就職についてもお聞きしたところ、県外出身の方はほとんど県内にとどまっていないようです。

 今年3月に卒業して就職した人が合計で480人だそうです。そのうち、県外出身者で福井県内に就職された人は4%ぐらいしかいません。逆に、福井の出身の人で県外で就職した人は12%くらいです。

 県内出身者は就職も県内で、県外出身の人は就職の時には郷里に戻ったり、京都や大阪などに出たりしているのだと思います。みなさんには福井県を第二のふるさとと思っていただいて、少しでも多くの人に福井で就職してほしいと思っています。

 みなさんは今年20歳ぐらいの人がほとんどだと思います。みなさんが生まれた年は1988年ころ、景気もよく「金余り」といわれた時代でした。
 瀬戸大橋や青函トンネル、東京ドームなど完成した年で、日本がまだ大きなプロジェクトを進めていた時代です。

 みなさんが生まれてからこれまでの20年間で登場したものといえば、携帯電話やコンビニかなと思います。みなさんもお持ちの携帯電話は、今や1億345万台にも達しているそうです。また、コンビニは全国で何店あると思いますか(質問)。全国に4万店以上もあるということです。
 このように、みなさんが生まれた頃から20年間でも大きく変わっているものだということがわかります。

 最近、さらに問題なのが、ここ5年くらい前から中国、インド、ロシアなどが急激に発展していることから、資源や食料などが相対的に少なくなっているということです。こういう問題に立ち向かっているのが、国であり地方自治体なのです。
 一方で、地方と大都市との格差も拡がっています。
 農業をどうするかという問題もありますし、また限界集落という言葉も広く使われるようになってきています。
 こうした中で、福井県や他の都道府県なども含めて、これから日本がどうなっていくのか、みなさん考えていただきたいと思います。

 今、みなさんが記入しているアンケートは、4月に立命館大学でも実施したもので、そのときには500人以上の学生から回答をいただきました。

 「あなたにとっての『ふるさと』を決める決め手となるものは」という質問について回答結果を紹介しますと、「自分が生まれ育った場所」と答えた人が72%、「両親あるいは祖父母の出身地」と答えた人が15%、「自分が現在住んでいる場所」が8%くらいでした。

 さきほどもお話ししましたが、福井県は出生率も高く、失業率も低く、あまり大きな犯罪はない、罪を犯してもだいたい半分は捕まるというように、福井県は安全・安心で、暮らしやすい県です。

 「人口当たりの社長の数」について話をしましたが、逆に低い県は、埼玉県、千葉県、神奈川県の順で、東京に通勤するサラリーマンが多く住んでいる県だといえます。

 ちなみに、現役プロ野球選手が多い県はどこだと思いますか(質問)。大阪などが多いと思いがちですが、人口当たりで比べると、実は第1位は佐賀県で、第2位が福井県だそうです。
 今夏の北京オリンピックに出場する男子バレーボールの選手にも福井県の方がおられます。荻野選手と清水選手のお二人で、この福井工業大学の付属高校の出身です。

200618講演写真2   次に、「ふるさと納税」について話をします。
 ふるさと納税は、正しくは「税制」のことです。さきほど、ふるさとに寄付をすると話しましたが、わかりやすくするために「ふるさと納税」と呼んでいます。このようなことを頭に入れていただいて、これからの話を聞いてください。

 大都市と地方との関係からいえば、最近、大都市圏の人口が増えています。それは、地方から大都市に就職などで人口が移動しているからです。
 さきほど出生率の話をしましたが、地方は出生率は高く、大都市は出生率が低い傾向があります。平成19年の合計特殊出生率も、福井は1.52ですが、東京は1.05、大阪は1.24と、とても低いのです。
 しかし、なぜ大都市に人口が多いのかといえば、社会移動で人口が増加するからです。戦後まもなく集団就職があり、これが高度経済成長を支えました。また、バブル景気の頃、そしてバブルは崩壊しましたが、さらに大都市への人口移動が進んでいます。大都市の人口が最も増えた年も、高度成長期のまっ只中の昭和37年でした。この年は三大都市圏で65万くらい増えたそうで、現在も10万人程度増えていると思います。

 これまで知事として、縁結びや子育て支援策を進めてきました。3人目以降の子どもについて、生まれる前の妊婦健診費から3歳までの保育料や医療費を原則無料化しています。このように、女性が妊娠されて、子どもが生まれ、高校を卒業するまでの間に、自治体が児童福祉や教育などで、いくらかけていると思いますか(質問)。だいたい1人当たり1,800万円くらいなのです。福井県の高校を卒業した人が毎年3,000人くらい県外へ出られますが、就職するときにはそのうちの1,000人くらいしか福井へ戻ってきません。残りの人は、福井県以外に就職して税金をよそに納めることになるので、この費用を取り戻すことはできません。
 こういう問題があるので、育ててくれたふるさとに何らかの形で補てんする方法がないかというのが、ふるさと納税を提案した理由の一つです。寄付をしていただくと、個人住民税として納める額の1割くらいは戻ってきます。私自身は3割くらいがよいと思っていたのですが、研究会の中で1割ということになりました。
 つまり、教育や子育ての費用を負担するところと税金の帰属が乖離しているということが、ふるさと納税を行う背景にあると考えてください。

 ふるさと納税として寄付をする「ふるさと」については、本当は、自分の育ったところとして厳密にしたかったのですが、「自分の育ったところ」と一口に言っても、それぞれ違うと思います。例えば、福井県で生まれ育って、高校から滋賀県に引っ越したという人もいます。
 このように、「ふるさと」の範囲を特定できないものですから、法律上は自由にしてあります。

 ところで、みなさんは何回くらい引越しをしましたか(質問)。実際に福井に移り住んでみて、以前住んでいたところと比べて、福井のことをどう思いますか。
 私は、ここ40年近くで17回引越ししました。その中でも、やはり福井県の生まれということもあって、福井県をふるさとだと思っていますし、よいところだと思います。
 このふるさと納税という制度を発展させていくと地域間での競争が起こるのです。私が、このふるさと納税を提案した趣旨は、例えば、福井県と滋賀県とでどちらがよい行政をしているか納税者に判断してほしいということです。よい行政をしないと寄付がもらえません。
 これから地方分権も進み、地方自治体の競争も活発になりますが、実際には、どちらの自治体がよい行政をしているか計る手段はありません。ふるさと納税を導入すれば、どこがどれだけ寄付を受けたかわかりますので、一つの尺度になるでしょう。

 そして、「納税者主権」という言葉を心に留めておいてください。みなさんの中には、これからサラリーマンになる人もいると思います。これからサラリーマンになると、所得税や住民税は会社が天引きします。すると、みなさんは、税金を納めていることや税金の使い道を意識することなく人生を過ごし、「納税者」としての意識が生まれないかもしれません。
 しかし、ふるさと納税のような仕組みを作ると、住民が税の使い道に関心を持つようになります。
 現在、各地方自治体はホームページでPRしたり、寄付をもらったら何に使うかを明示しています。極端なところでは、「寄付をしてくれたら特産品を贈る」というところまであって、それは少し違うのではないかなと思っていますが、これも、みんなで自治体を宣伝しようという新しい動きだと思います。
 わかっていただきたいことは、「よい行政をしているところに寄付が集まる」ということが、ふるさと納税の精神だということです。納税者が自分の好きな自治体を選ぶということは、自治体がよい政策を行おうという競争が起きるということなのです。

 最後ですが、「寄付の文化」がこれから拡がっていくかも知れないと期待しています。
 日本全体で1年間の寄付金はいくらぐらいだと思いますか。だいたい5,700億円くらいだろうと思います。一方で、アメリカはどうでしょう(質問)。アメリカの場合は30兆円と桁が2つほど違います。日本は少なすぎると思いませんか。わが国の国民も豊かになっているのですから、もう少し寄付文化が発展しなければいけないと思います。
 ふるさと納税制度は、「寄付」という行為に対して税制で応援する制度であります。これによって、日本に寄付文化を広めようとするものなのです。

200618講演写真3 その他ということで、「道州制」の話をします。

 「道州制」という言葉をみなさんお聞きになったことはありますか。区割りを記した日本地図が何通りか新聞などに掲載され、こんなふうにすると日本はよくなるなどと紹介されていたのをご覧になった人もいると思います。

 例えば、中部地方全体で州を作って、愛知県と滋賀県、福井県などが一緒になると、州都はどこになるでしょうか。おそらく名古屋でしょう。そうなると、福井や大津はさびれ、名古屋は今より少しよくなるかなと想像します。日本全体では、東京に人が集まりますが周りはさびれ、州都にも少しは集まるでしょうが、地方がよくなるということはないと思います。

 現在、福井県の県議会議員は40人ですが、これが州議会になると、福井からは5人程度、滋賀も少し多いくらいになり、地域の代表が少なくなります。行政改革が進むのでよいと思う人もいるでしょうが、地域の意見は反映されにくくなります。経済的な観点からだけで善し悪しを判断するのでなく、民主主義の観点からも議論する必要があると思います。

 日本に10程度の独立した州を作り、日本を連邦にした方がよいという議論もあります。
 アメリカ合衆国は、その名(United States)が示すとおり50の独立した州からなる国です。アメリカはイギリスから独立する時、各州はひとつひとつ国でした。しかし、イギリスとの戦争に勝つには州が、どうしても1つにまとまらなければならないということで、州の独立性を守りながら、1つの国になったのです。

 逆に、日本という1つにまとまっている国をさらに細かく分けてしまったらどうなるでしょう。国力が低下し、中国や韓国、ロシアなどに負けてしまうと思います。こういうことからも道州制は、目指すべき制度ではないと思っています。

 地方を取り巻く問題はいろいろあります。みなさんにも、自分が住んでいる地域のことにもっと関心を持ってもらいたいと思います。大都市は、確かに人口は多いのですが、選挙での投票率からもわかるように、住民の行政に対する関心は低いと思います。
 地域行政や日本のことを考える、そういうきっかけに「ふるさと納税」がなればよいと思っています。



 

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