内外情勢調査会知事講演~ふるさと福井の「営業」戦略の展開~

最終更新日 2009年8月3日ページID 024014

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 このページは、平成21年7月31日(金)にユアーズホテルフクイで行なわれた、内外情勢調査会の「ふるさと福井の『営業』戦略の展開」と題して行われた知事の講演をまとめたものです。

 最近、岩波新書から『「ふるさと」の発想 ―地方の力を活かす― 』という本を出すことになりました。皆さんに支援をいただいて知事に就任して以来6年ほど経ちますが、そうした経験がこの本になったということです。深く皆様方にお礼申し上げます。書き切れなかったものも随分ありますが、参考にご一読願いたいと思います。
 今日は、この本で時間を割いてお話ができるかと思ってきたのですが、実はうまくできないということがわかりました。なぜかというと、これは読み物用に書いたものです。初めての経験ですが、書いた文章に基づいて、皆さんの前で少しでも楽しく話そうとすると、残念ながら非常に困難だと分かりました。本当は皆さんの前でお話しできるようなものを文章にしてあれば、ここで話せたのですが。
 話し言葉と文章にすることとは随分違うことであり、しかし今日はこの話も少しはしたいと思います。必ずしもこのとおりのことをしゃべれませんので、違う話も交えながら、「ふるさと」と「福井の営業」ということでお話しします。

(全国植樹祭の開催)
 まず初めに、6月7日に、天皇皇后両陛下のご臨席のもとに開催された第60回全国植樹祭についてです。おかげをもちまして直前に雨も上がり、天気にも大体恵まれ、成功裏に終わることができました。県内外から約2万2千人の参加、県民総参加を得ることができ、お礼を申し上げます。
 一乗谷朝倉氏遺跡を中心として、ほかに県内4つの地域会場で開かれたのですが、一乗谷については、平成16年の福井豪雨で被災した地域でもあり、水害からの復興という大きな意味がありました。また、中世末の歴史的な空間で植樹祭を実施したのは、これまでにあまり例のないことです。全国に放映されましたが、ちょうど雨上がりの天候の具合が雰囲気がよく、すばらしい光景だったとの声もいただいています。
 さらに、質素ながらも極力活発に、お金の無駄な使い方をしないで、ボランティアなど県民の参加を得て進行したことも、福井らしさが表れた大会となりました。
 高校生が司会をしたのは、60回に及ぶ全国植樹祭の歴史の中でも初めてのことでした。これからは、森づくり、まちの緑化、花いっぱい運動など、こうした長期的な課題につなげていくことが重要であり、そうした意味で一つの大きな経験になりました。こうしたことを、だいぶ先になりますが国体や、後ほど申し上げる来年のAPECエネルギー大臣会合など、大きな行事やイベントなどに役立てていきたいと考えています。


1 ふくいブランドと営業戦略
(ふくいブランドを発信する好機)
 さて、今日のテーマは「ふるさと福井の『営業』戦略の展開」ということであります。福井ブランドとその営業戦略についてお話をします。
 今ほど申し上げた全国植樹祭も一つの機会でしたが、次第に福井県も地味ではありながら、知名度やイメージも向上し、福井県の先進的な政策などについても知れ渡り始めています。
 今まさに、さらに次の段階にステップアップする時期ではないでしょうか。折しも経済的な環境がこのような状況ですし、政治的な局面も大いなる転換期にあります。かなり世の中が変わると思いますので、その時期に新しい方向性を出す必要があり、福井県としての営業戦略を展開すべき局面に立ち至ったと考えました。
 その背景をややくわしく申し上げますと、まずハード面の整備見直しがあります。北陸新幹線や中部縦貫自動車道、舞鶴若狭自動車道という高規格幹線道路です。もちろん、これらの整備促進については、政局の影響もあるとは思いますが、そのような影響が極力ないようにしなければいけません。首尾よくいけば、こうしたハード面の整備が、ここ3年から5年で大体の整備が終わり、あるいは長期のものも方向も出てくるだろうと思っています。関西圏はもとより、中部圏や首都圏との人やモノの流れが飛躍的に高まる可能性が現実味を帯びてきているわけです。
 さらに、ソフト面での好機が到来していることがあります。福井県が提唱した「ふるさと納税」の実現、全国の学力テストや体力テストで本県の子どもたちがトップレベルの成績を上げたことは、皆さんもよくご存じです。昨年まで放送された連続テレビ小説「ちりとてちん」、南部陽一郎先生のノーベル物理学賞受賞、そして米大統領選における小浜市の応援や福井県産のメガネが話題になるなど、福井県が国内外から注目されました。
 こうした成果や話題性もあって、昨年11月には、福井県が「小学館DIMEトレンド大賞」特別賞を受賞しました。今年6月には「ベストファーザー イエローリボン賞」も、県民の皆さんを代表していただきました。
 こんな風に、ハード面、ソフト面の両面で、全国に打って出る環境が整いつつあるわけです。そこで、こうしたブランド戦略なども次の段階に行くことが必要になるということです。こうしたことが背景にあるとご認識いただければと思います。

(高速交通体系の整備の意義)
 ハード面の関連で、道路の話に若干話を戻します。阪神・淡路大震災の時に、私は国で防災活動の関係の仕事をしていました。大震災以来、北陸自動車道や、まだ全体が高速道路に完全にはつながっていませんが、若狭の国道27号などでは、全国のナンバーのトラックが走っています。高速料金の低料金化の効果があるといえます。
 私は車に乗ると、前の助手席に座るようにしています。ちょっと日が当って暑いのですが、前から来る車のナンバーを大体見るようにしています。最近特に九州ナンバーや、東北のナンバーのマイカーなどが加わり、遠くのあちこちからの自家用車が自由に走れる時代になったと実感します。こうした人の動きを考えると、もちろん新幹線や高速道路の課題がありますが、これをきっちりと早く、その間のルートが欠けているところを整備することが重要ではないかという実感を抱いています。

(「平均の力」の意義)
 ソフト面の関連で「ふるさと納税」の最近の動きを申し上げると、初年度の去年1年間で、福井県は市・町共同で7,000万円あまりの寄付をいただきました。この大きさの額は、今の世の中では、誰からでもそう簡単にいただけるものではありません。大変ありがたく思っています。ふるさと納税の件数も、人口当たりで日本一多かったということです。今年もまた、それに劣らないようにしなければいけません。
 全国学力・学習状況調査や体力調査においてトップレベルになっているのも、これは「平均の力」という意味で極めて重要です。甲子園である高校が優勝したというのとは少し意味が違うのです。平均力というのは、もっと長い経過を経て初めて可能な数字です。ある町のある水準が高いということは、極めて重要なことであり、一朝一夕によくなるわけではありませんから、平均力が学力や体力でよいということは、福井県の素晴らしさを表していると思います。しかし、大事なことはここから次の突発力が生まれることが必要です。

(観光営業部の設置)
 福井県が様々な分野で話題をさらっているのも、県民の皆さんが頑張っていただいたことが結果に表れているわけです。観光営業部を設置した真意は、まさにこういうことです。この部局は観光と営業だけをやるわけではありません。観光の営業をするということでもありません。正しくは、観光などを含めた「営業全体」をやるということだと思ってください。つまり、営業力を強化することが中心であり、その中に観光も含まれているということであり、「売り込む」ということを考えているわけです。
 観光という名を冠した局や部は都道府県レベルでもあります。市町村ではもっと早くからそんな取組みがあったかもしれません。しかし、「営業」という名が付いた部は県レベルでは初めてのことです。極端に言えば、明治以来なかったのではないでしょうか。庁内で議論していた時にも少し躊躇したのですが、やはりそうした名を付けて職員の尻込みや躊躇をなくす。内に実力をつけて外に売り込むために動き出す時期ではないかと思ったのです。
 県庁の玄関には、いま恐竜の骨格が展示してあります。県庁内のことではありますが、あれは恐竜博物館の職員がここに置かせてほしいということで設置したようですが、こうした自主的な形の営業活動を年間を通じてやっていくということです。そうしたことを、一つひとつ地道に大きいものも含めてやっていきたいと思います。
 観光営業部ができて4か月ほどですが、その活動成果も少しずつ出てきています。一つは、来年開催される予定のAPECのエネルギー大臣会合です。APECは、アジア・太平洋地域の持続的な経済発展を図るための重要な会議であり、日本を含めた太平洋を取り巻く21か国・地域が参加するかなり大きな国際会議です。この誘致も営業の一環であり、競合する自治体もあったわけですが、本県での開催が決まったことは、営業の大きな成果だったと思います。
 「営業」を所管する部として観光営業部があるわけですが、他部局も営業を全然しないでよいということではありません。まず観光営業部がリードしながら、他部局も営業的なことを率先して行うように模範を示すということです。こうして全体に営業力を高めていくことが目的ですが、うまくいくかどうかはこれからの営業次第、職員の努力次第です。
 これまで何となく、県職員の場合、こんなことまでやっていいのか、ここまで踏み込んでいいのかと躊躇するところが、仕事の上であったと思います。「営業」という言葉を使って仕事をすることのメリットは、先ほど述べたように、思い切ることができなかったところを、営業なのだからということで一足踏み込めるようになるという意味があります。県民の皆さんも、県庁や市役所があんなことまでやるのか、営業ということなら仕方がないか、といった気持ちを持っていただくという意味もあると思います。
 こうしたことをやるとどうしても失敗がつきものですが、営業ということならまあ許せるか、次の成功のためにやってほしい、頑張れといった雰囲気も出てきます。こうしたことを営業というマインドに入れこみ積極的に売り込み、前向きにプロジェクトを進めてほしいと願っています。
 これは全体から言えることですが、公務員というものは、お互いに説明や解説はよくします。しかし、そこから行動に移すとなると、これはなかなか進まない面があります。説明や解説ばかりしないで行動に移すということが極めて重要です。いろんな研修をしたり、あるいは民間の皆さんと共動営業や売り込みをしながら実力をつけなければ仕事は進みません。

(APECエネルギー大臣会合の誘致)
 APECエネルギー大臣会合の誘致について、営業の最初の成果として申し上げました。敦賀や嶺南を中心にエネルギー研究開発拠点化計画を進めていますので、そうした意味合いもあって、福井県でこの大臣会合が開かれることになったわけです。これは本県にとってかなり背伸びが必要なことでした。まず宿泊施設をどうするのか、同時通訳体制をどうするのか、IT設備はどうなのかなど、いろんな課題があります。背伸びをしてクリアしながら物事を変えていくことですから、一度成功すれば次のプロジェクトをやることも可能になると思っています。
 この大臣会合に向けての関連行事として、9月にはエネルギー政策や国際交流などをテーマに「APECエネルギー大臣会合開催記念フォーラム」を若狭湾エネルギー研究センターで開催する予定です。このフォーラム以降も、市町や経済界等の協力も得ながら、さまざまな事業を展開し、開催機運を盛り上げていきます。

(恐竜ブランドの展開)
 こうした催しやイベントの誘致も大事ですが、福井の魅力をアップするためには、観光地の「目玉づくり」に向けた投資を積極的に進めたり、歴史・文化など本県の持つ魅力を広く紹介し、また、メディアなどに売り込んでいくことが重要と考えています。
 特に大切なのは、福井のメジャー・ブランドである「恐竜」です。現在、全国のホテルや東京の百貨店などに恐竜のPR企画を働きかけているところです。その成果の一つですが、大阪の「ホテルユニバーサルポート」で恐竜博物館の巡回展を開催することになりました。今月7月26日から明日8月1日まで開催しています。
 また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに共同企画の実施を働きかけたのですが、「福井県恐竜博物館から恐竜化石がパークにやってきた」というスペシャルイベントをUSJパークで共同開催することとなりました。8月6日から16日まで、フクイラプトル全身骨格などを展示するほか、実際に触れられる恐竜化石を展示したり、フクイラプトルを背景にしたフォトスポットを設置します。USJには、夏休み期間中に一日に3万から4万人の方が訪れるということで、PR効果はかなり大きいでしょう。
 恐竜博物館は、来年にちょうど開館10周年を迎えます。この機会に、恐竜博物館にもっとたくさんの方に来ていただきたい。そこで、目玉となるような展示物を置こうということになり、世界最大級といわれるカマラサウルスという草食恐竜の全身骨格化石を購入し、特別料金で回収しようとしております。
 首都圏でもいろんな戦略を展開しています。今月7月1日から、JR新宿駅構内で観光PRを実施しており、東京・高尾駅間に恐竜ラッピング車両を運行させています。7月20日からは、恐竜ラッピングバスを名古屋から運行し、夏休み期間中の誘客の拡大を進めているところです。恐竜ブランドの話題づくりを進めて、「恐竜王国ふくい」の魅力を全国に広げていきたいと考えています。

(福井の歴史・文化の売り込み)
 こうした営業活動は、広い意味で言えば、福井のプライド、アイデンティティを大事にしようということです。そうした点では、福井の歴史・文化を売り込むことも一つの柱になります。今年は安政の大獄150年に当たる年であり、橋本左内、梅田雲浜両先生がこの大獄で難に遭ったわけですが、こうした歴史の紹介をやっていきます。
 幕末福井の優れた群像を広く知ってもらいたいため、松平春嶽公、橋本左内、由利公正などについての講演会をシリーズで開いているところです。その皮切りとして、千代田区の協力を得て、今月7月から9月まで、区立千代田図書館で「幕末福井のあらまし」という企画展示を開催しています。千代田区はかつて福井藩が幕府から上屋敷を拝領していた地であり、そうしたつながりもあってのご協力です。明日8月1日にも、県立図書館で、本県と交流のある荒川区のふるさと文芸館副館長による講演を予定しています。
 2011年の大河ドラマは、「江(ごう)~姫たちの戦国~」という、本県と深い関わりのある、お市の方とその三人の娘が登場するドラマとなることが決定しています。北の庄落城の話はご存知の方も多いと思いますが、次女に当たるお初(常高院)は、その後も小浜藩主・京極高次の正室として若狭に住んだ方です。大坂冬の陣の際には、秀頼の母である姉の淀殿と秀忠の正室である妹の江の間に入って和議の斡旋に活躍しており、墓所も小浜の常高寺にあります。せっかくの機会ですから、できる限り多くの場面に福井が登場するように積極的に働きかけていきたいと考えています。
 来年の大河ドラマの方は「龍馬伝」です。龍馬は、松平春嶽や由利公正との交流もあり、福井と重要な結びつきがあり、同じように福井をPRするきっかけにできればと考えています。
 余談ですが、こうした偉人の肖像はできるだけ若い頃の肖像を使うようにしています。橋本左内先生はこれ以上年をとりようがありませんが、食育の元祖である石塚左玄なども、年をとられた頃の写真もありますが、二十歳代の写真を見ますと、大変格好いいのです。ああした写真を使えば、食育も大分進むのではないかと思っています。肖像はすべからく若々しい頃のものがいいのではないでしょうか。
 郷土の偉人の関連で言えば、本年11月に、旧県立図書館に「福井子ども歴史文化館」を開館する予定です。今申し上げた春嶽や公正などの福井の歴史上の人物はもちろん、白川静先生をはじめとする先人・達人の業績等を通して、子どもたちが郷土の歴史・文化を楽しみながら学んでもらえる施設となるものです。この子ども歴史文化館には、先ほど申し上げた南部陽一郎先生をご紹介するコーナーも設置します。
 今年4月に大阪大学で、ちょうど帰国中の南部先生とお会いする機会を得ました。その際に、コーナー設置や先生の名前を冠した「南部陽一郎記念ふくいサイエンス賞」の創設などについて協力を依頼し、了承をいただいたところです。
 その際に、先生に、福井の子どもたちに向けたメッセージをいただきたいとお願いしました。すると、翌5月に、2枚の色紙にしたためられたメッセージが先生から届きました。一つの色紙には「個性を持って生きよう」と日本語で書かれています。もう1つは「Boys and girls Be ambitious!」と書かれています。クラーク博士の言葉に「and girls」が付いているということです。
 南部先生が書かれた‘ambitious’という言葉ですが、この名詞形は‘ambition’です。これはクラーク博士的な表現としては「大志」と訳されているようですが、南部先生の気持ちとしては、これはきっと、「福井県の子供たちよ、希望を持って行動をしてほしい」という意味の‘ambition’ではないかと思います。そうしたつながりを持って、‘hope by action’イコール‘ambition’ではないかと思っています。ですから、我々行政も、希望を持ちながらアクションをすることが大切ではないかと思います。そして、県民の希望を叶えるという気持ちで行動したいのです。

(大学との連携プロジェクト)
 この関連で言いますと、グローバル化の時代の中で時代に遅れないように、大学や研究所、専門家といった人たちと幾つかの共同研究を行っています。彼らと十分なコンタクトを持ち、福井県のような地方にあっても、最先端のレベルのプロジェクトや政策を進められるようにしなければならないと考えています。
 その1つに、「希望学」という研究があります。「希望」は英語でいえば‘hope’ですが、希望の問題を扱う必要があるということであり、健康長寿などいろいろありますが、我々日本人、あるいは福井県民が将来をどう希望するのかという問題にかかわることです。ふるさと活動なども、希望というものがなければ、行動ができません。ふるさとをよくするとか営業といったこともできないわけです。この研究は東京大学と連携して始めており、数年経過しています。
 これには研究フィールドが2つあり、1つは福井県です。もう1つは岩手県の釜石市です。釜石市は経済状況が厳しい都市の例です。鉄鋼業が盛んだった頃はすごく豊かだったと思います。衰退をし、地域をどう盛り上げていくかという非常に厳しい局面で頑張っています。福井県はそうではなく逆に全国的に比較して恵まれていますが、別の意味で希望の研究フィールドになる地域なのです。
 子どもたちの学力・体力テストではよい成績を上げていますが、この中で学習調査も実施していて、子どもたちに「あなたは希望を持てますか」という質問をしています。残念ながら、福井県の児童・生徒は全国の中でも必ずしも高いグループに入っていません。恵まれているから、希望などということにはあまり関心を持たないという見方もないではありませんが、そこは学問的に考えるべきであり、将来どうなのだろうとか、元気を出してやっていこうという希望がなければいけないのです。その点は子供も大人も同様ですから、この希望学というのが、むしろ福井の地で勉強しようとすることに意味があり、二、三年やっていますが、さらにこれからもう3年ぐらい政策的に進めていきたいということです。
 希望学を研究している担当の先生による希望の学問的定義は、英語表現になっていて、‘Hope is a wish for something to come true by action’ということです。つまり、何かを行動をもって実現をする願いだという定義です。ここには‘action(行動)’という言葉が入っています。ある思いを持って、行動によって事柄が実現するということであり、ふるさとの営業というものも、‘action(行動)’を伴うものです。民間の企業も行動を生みますし、思いや志があります。
 ちょうどAPECエネルギー大臣会合などのイベントも、世界の結びつき、物事のレベルを上げていく一つのプロジェクトです。さらに言えば、これからはアジアの時代、また、原子力が重要になる時代ですから、こうしたプロジェクトを通して、継続的に発展させていくきっかけになるのではないか。大学などの専門学術機関との連携が大事になるのも、こうした視点からなのです。
 さらにもう1つは、同じく東京大学の高齢社会総合研究機構と提携して、進めていることですが、「ジェロントロジー(総合長寿学)」という研究です。大学の方はこれから福井県を研究のフィールドにしたいということですが、もう1つ、千葉県の柏という東大のキャンパスがあるところも対象にしています。ここは比較的恵まれた地域ですが、高度成長時代に、地方出身の方が大都市に働きに出て、東京には住めないので千葉県の柏に移り住むといった土地です。まさに団塊の世代が移り住み、次の世代の子どもたちは今後どうしていくのかといったことが課題になっているような独特の環境にある地域です。この対照的な福井と柏の2つの地域を研究フィールドにして、これからの医療、介護、心の問題などを総合的な長寿学として捉え、住んでいる場所で健康的に年をとるという意味で「エイジング・イン・プレース」というスローガンを掲げ、住み慣れた場所で自分らしく老いるという目的の研究をやっていく。福井県は、地方のふるさとであり、農業があり、3世代同居や共働きが多いといったいろんな条件の中で、コミュニティが充実した日本のモデルといえるものです。そこで、総合長寿学を研究するフィールドを提供して共同で進めていきたいということです。

2 「ふるさと」政策の展開
(ふるさと帰住の推進)
 これまでお話ししてきた「ふくいブランド」の売り込み、先進施策を展開する目的は、福井の暮らしやすさ、住みやすさを高めることはもちろんのこと、「ふるさと福井」に皆さんが誇りを持てるようにしたいと思うからです。
 知名度をアップさせたり、観光誘客を促進することも大事ですが、福井出身者の帰住を促進し、他県の人たちにも第二のふるさととして来てもらうようにすることも、ふるさと福井を元気にしていくための重要な課題です。「ふるさと納税」のように寄付という形での貢献だけでなく、実際に住んでもらう「新ふくい人」をできるだけ多く誘致することも「営業」の重要な政策です。
 そこで、本年を「ふるさと帰住」スタートの年と位置付けて、多くの人に福井で暮らしてもらいたいという気持ちを持ってもらえるよう、県の施策や魅力を全国に売り込んでおります。
 まず、県外学生の県内企業への就職によるUターンを進めるため、5月に「ふくい雇用セミナー」を実施しました。これにあわせて、東京・名古屋方面や関西方面からの無料Uターンバスを運行しました。初回は150名の利用があり、まずまず好評だったようです。来年1月にも「ふるさと魅力発見フェアー」を開催する予定ですが、その際もUターンバスを運行するつもりです。
 大学に対しても働きかけることが重要だということですから、本県出身学生の多い金沢大学や富山大学で「Uターン就職セミナー」を行い、立命館大学でも「Uターン就職相談会」を開催しました。
 県外から「第二のふるさと」として福井に移住する「新ふくい人」を呼び込む施策もいろんな形で行っています。
 まず、「ふるさとワークステイ」は、県内の農山漁村に滞在し、農作業や地域景観づくり、環境保全活動などのお手伝いをしてもらい、地域の人々との交流を深めながら、その地域の生活や文化、自然を体験してもらう事業を行っています。
 平成20年度は、東京、大阪などの都市圏から、若い世代の方を中心に248人もの参加があり、「普段、ビルの中にこもりきりの自分にとって、日の下で体を動かすことはすがすがしかった」、「人との出会いも大きかった」といった意見が聞かれるなど好評でした。
 また、地域の団体が主体となったエコ・グリーンツーリズム体験ツアー等の企画・実施を支援し、都市圏からの誘客をしています。20年度の体験モデルツアーには、7,636人の参加がありました。県全体でのエコ・グリーンツーリズム交流人口は年20万人にのぼっています。市民農園や田舎暮らし体験の拠点となる農家・漁家民宿の開業も推進しており、20年度は新たに10軒の農家民宿が開業しています。
 さらに、銀座の「ふるさと暮らし情報センター」に福井県ブースを開設したほか、都市圏住民を対象とした就農相談会、社会人対象の企業説明会を行うなどしています。
 こうした施策の結果、行政の支援による事例だけ数えても、県外から本県に移住した「新ふくい人」は、20年度で197人となっています。19年度は170人でしたので、右肩上がりで増加する傾向にあるといえます。これからも滞在型交流の施策や情報PRを強化して、都市の住民の方が何度でも訪れ、やがては福井を終の棲家となる「ふるさと」として選んでもらえるようにしたいと考えています。

(「ふるさと」の発想)
 私の新著『ふるさとの発想』の中で、都市と地方との関係、ふるさとに対する人々の見方や意識の変遷などを論じながら、私なりのふるさと観を示しました。
 この本は福井県の営業用に作ったものではありませんが、この中には、福井県内のすべての市町の名前が入っています。さらに、全国の都道府県の名前もここに入っています。全都道府県の住民の方に興味を持っていただき、福井県について知ってもらえると同時に、全国の地方が活発になって欲しいという仕掛けになっています。
 そこで、少し話題を転じて、「ふるさと」の話を参考に申し上げたいと思います。「ふるさと」といえば、どんなことを発想するでしょうか。
 私は、「ふるさと」はほぼ3つの段階があると考えています。1つは、明治、戦前から高度成長の時期までに当てはまるもので、石川啄木的な「ふるさと」です。それと井沢八郎の「ああ上野駅」のようなタイプの「ふるさと」でもあります。つまり、田舎から大都市へ出てきて、早く田舎に帰省したい、お盆になったら帰りたい、田舎が懐かしい、お母さんはどうしているだろう、何か送ってくれないだろうか、そうしたクラシックな概念の「ふるさと」です。これが第一段階の「ふるさと」であり、私が小さい頃の歌謡曲は大体そうした「ふるさと」を歌い上げていたと思います。地方からみると、要は別れの歌ばかりです。「別れの一本杉」や美空ひばりの歌もそうでした。しかし、私の本で述べている「ふるさと」は、そうした「ふるさと」ではありません。
 2番目の「ふるさと」の観念は高度成長から、それがほぼ終わる頃に出てきました。これは「ディスカバー・ジャパン」の発想です。自分が生まれ育った特定の「ふるさと」ということではありません。山口百恵さんの「いい日旅立ち」にもあるように、日本の「どこかに」私のふるさとがあるということであり、カタログ的に選べるものなのです。「商品的」なふるさとになったわけです。「観光的」なものともいえます。ブランド的でもあります。五木ひろしさんの「誰にもある」ふるさとも分析的に種類分けするとこれに当てはまります。
 私が本の中で論じているのは、次の3番目の「ふるさと」になろうかと思います。これはもう少し複雑でちょっと説明しにくいのですが、最初のふるさとはどちらかといえば直線的なものです。私が福井の出身だから、福井に両親がいるから帰りたいという直線的なふるさとであり、センチメンタルなものです。次の「いい日旅立ち」や五木ひろしさんの「ふるさと」はもっと平面的です。日本列島のいろんなところに行けるとか、誰にもそれぞれのふるさとがあるという客観的な見方にもなっているわけで、地理的、平面的なものです。
 しかしこの3番目の「ふるさと」は、三次元的なもの、もっと立体的なものなのです。活動的なものともいえます。福井県の中で、それぞれの市町で、みんなが活動をするということです。その活動というのも、内部における活動と外に向けて何をするかといった、立体的な活動の「ふるさと」を描いているということです。
 フーテンの寅さんに出てくるような「ふるさと」はすこし分類しにくいのですが、2番目と3番目の間にくる「ふるさと」なのです。葛飾柴又は東京と言えば東京です。寅さんは四十作を超える映画がありますが、どこの町なのかというほど田舎らしさがはっきりしているわけではない「ふるさと」です。寅さんは行ったり来たりしていますから、そうした「ふるさと」なわけです。
 次にくる立体的な、活動的な「ふるさと」は、人々が自らの町をよくしたいとか外にどう働きかけるか、といった活動を基本にした「ふるさと」です。自覚的で自由なものです。そうした「ふるさと」をこの本の中で提唱しています。そうした意識でこの本を読んでいただければありがたいと思います。

(都市と地方の関係)
 もう1つ申し上げたいことがあります。昨日、道州制の件で他県の知事の意見もまとめて兵庫県知事とともに国に要請をしましたが、現在、日本全体で大都市と地方が対決しているような構造にどうしても観念しがちです。地方は大都市に養ってもらっているとか、地方交付税という形で仕送りをしてもらっているといった議論もあります。日本をてっとり早くよくするには、大都市にできるだけ投資をして、そこで効率的に収益を上げ、そこから上がったお金を効率の悪い田舎にすこし配分すれば、彼らは農業をやったり、ふるさとを守ってくれるのではないかという一方的な見方です。私は、こうした発想を何とか打破する必要があるだろうと考えました。分析をしたのですが、地方と大都市の関係はそう単純ではありませんし、今の財政制度のいろんな見かけの姿によってそうした状態が生じていると思います。大都市に税金が集まっているように見えますが、これは仕組みによって集まっているわけです。交付税も本来は地方のお金です。単に国家予算上、そうした組まれ方をしているということだと思います。
 もっと大事なことは、例えば原子力で言えば、これは福井県などの地方がいろいろな苦労をすることによって、事業者も供給を一刻も止めることなく全体として義務を果たしている。こうして地方が電気事業を守りながら、大都市に電気が供給されるようにしています。こうした恩恵を受けて大都市の生活や生産が成り立っているのであり、これは目に見えませんので十分理解を得られていない。ちゃんと料金を払っているからよいではないかと言うかもしれませんが、その料金の根拠は一体何なのか、それでいいのか、万一止まったらどうなるのか、自分たちで自給できるのかという議論になります。これは原子力だけでなく、水やお米などについても当てはまることです。
 昔は米穀台帳というものがありました。私は京都で学生時代を過ごし、大学の寮に4年間いましたが、米穀台帳を持っていかないと学食がもらえませんでした。下宿していた人も同じだと思います。今はそんなものは要りませんから、もう目に見えないものになってしまいました。
 人材もそうです。福井県では毎年およそ3,000人が東京や大阪に出ていき、戻ってくるのは1,000人足らずです。約2,000人については、福井県が子どもの18年間にわたって、1人当たり約1,700万円かけて教育をして、都市圏に送り出しているわけです。こうして投資した分が戻ってきているかといえば、戻っていない。これは、大都市がいわば地方の負担のおかげで繁栄をしているということになります。地方が大都市に支えられているとか、仕送りをしているなどという考え方はおかしいのではないかよく認識してほしい、とこの本に書きました。むしろ今は田舎の人たちが、都市圏で学生をしている子どもたちに仕送りまでしているではありませんか。
 ですから、道州制などについても、こうした議論が当てはまると思います。大都市、例えば府県と政令指定都市との間で、かなり仕事が重なったり、あるいは不必要な競争のようなことがあるようです。財源を有効に使っているのかという点についても問題なしとはしません。そうした問題は、本当に都市の中で自ら解決しないとうまくできないと思います。選挙の投票率や税の徴収率の低下、あるいは医療水準や犯罪発生件数など、いろんな問題が大都市にはありますが、それが上手に解決できていない現状にあります。つまり大都市の地方自治はどうなのかということが検討の対象となります。そうした問題をそのままにしておいて、どうにもならないから、これをさらに大きくして、都市に人を集め、ある圏域をつくって、これこそが地方自治の発展だという議論はおかしいのではないかと思うのです。
 全国の町村会は道州制には厳しい反対の意見です。それは彼らの実感としてそう考えているということですので、道州制のような観念的な議論を軽々にすべきではないと申し上げているわけです。「ふるさと」をみんなで盛り上げていこう、みんなで発想していこうといったことを本の中で実例として挙げていますが、そうした事例はまさに地域の人々の実感としてあるわけで、道州制のような観念論とはまさに相容れないものなのです。

(つながりの共存社会)
 さらに、そうした背景として、もう1つ申し上げれば、今、一人ひとりの個人が、大人であれ子供であれ男性であれ女性であれ、孤立している状況にあるという認識が背景にあります。福井県に住んでいると大都市ほどではありませんが、日本全体としては、孤立感が強くなっている。みんなで仲よくしているように見えて突然何が起こるかわからない、隣近所でいつもおつき合いしている気持でいるけれど、それでもわからないことが多いという状況です。世界の果てで起こった、よその国のことと思っていたら、1週間もしないうちに自分が食べた物に影響していたとか、いろんなことがあります。そうでありながら非常に不安で孤立した状況にあり、人と人とのつながり、あるいは地域と地域との結びつきが断絶しているということが社会全体の状況としてあります。これを何とかして、自治体や政府の仕事として、結びつきを復活させ、新しい形で強化しなければならないという思いがあります。つながりを復活して、つながりの共存社会をつくろうという場所が「ふるさと」だといったことを述べています。
 ところで、人々が断絶している理由としては、1つにはグローバル化があると思います。これは引き続き、今回の経済不況から立ち直ったとしても、グローバル化の波は続くでしょうから、グローバル化の中で孤立していくリスクはこれからも出てくると思っています。
 もう1つは会社の問題です。今日は企業の皆さんも参加されています。福井県に立地している企業であれば、そんなことはないと私は思っていますが、会社と個人との関係が、かなり感覚が離れているといったことが起こるわけです。昔は会社でも社員旅行や運動会などがありましたが、最近は、そうした活動が復活している会社もあるようです。しかし「会社人間」という言葉が昔ありましたが、今は死語になりつつあります。社員と会社が相互に信頼できる社会というのは重要ですが、それがいまや全般的に失われつつあります。
 3つ目の原因としては、我々の日常生活に最も近い家族、あるいは町内会などのコミュニティですが、これらについても、福井県では幸いしっかりしているところが多いので、学力や体力の成績がよい、あるいは犯罪が少ないということがあります。しかし、これは日本全体では深刻な問題になっています。そうしたものを、何とかして支えるつながりをつくる、これが「ふるさと」をつくることではないかと思うのです。これも、国全体でいきなり大きくやるようなことは国家主義的な性格になります。みんなで責任を持ってやれば、自由主義的になります。ですから新しい「ふるさと」という形で、地方から物事を考えていこうではないかということを書いています。
 私はここで、こうした深刻な状況を表す言葉として、個人の「個」と「化」をつなげて「個化社会」と表現しました。個化社会からいかにつながりを再生し、つながりの共動社会をつくるかです。これはとりもなおさず、新しい「ふるさと」をつくっていくということであり、この「ふるさと」はかなり立体的な構造をしているもので、内向きなのか、外向きなのかなどいろいろありますが、みんなで頑張ってつくっていこうではないかということです。具体的な内容は書物を読んでいただきたく思います。
 

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