福井工業大学特別教養講座「地域共生学」~地方を元気にする発想~

最終更新日 2010年7月28日ページID 014604

印刷

 このページは、平成22年7月28日(水)に福井工業大学で特別教養講座「地域共生学」として、「地方を元気にする発想」という演題により行われた知事の講義概要をまとめたものです。

220728講演写真1 今日は主に歴史の話をしたい。
 昨年、私は「『ふるさと』の発想」という本を出版しましたので、夏休み期間中にでも読んでください。今年の群馬大学の入試問題にこの本の中から問題が出されました。「新しいふるさとは成立可能と思うか、それとも成立不可能と思うか。どちらかの立場を明記し、その立場に立つ理由を600字程度で述べよ」というもの。今日の話の主題もそのようなところにあります。

 皆さんがよく聴く歌の歌詞には、ふるさとのような言葉は出てこないと思います。また、地名や場所も出てこなくて、部屋の中なのか、公園なのか、山上なのかはっきりしない。抽象的な話が多いのです。

 私たちの時代の歌はいつも場所がはっきりしていました。東京の真ん中、田舎、ご当地ソングもありました。また、相手もはっきりしていました。今は、特に若い人を中心に、ふるさととか、ある場所とか、自分の出身地とかの観念が非常に薄くなっている、弱くなっている時代です。福井県の人であれば、福井県への気持ちが言葉に出てきません。

 一人ひとりが個別化、孤独化している時代です。つながりが私たちの時代に比べて弱い。皆さんは昔から日本はそういう状態だと思っているかもしれませんが、それはここ10~20年の傾向です。だから、一番世の中を反映している日本のポップスを聴くと、非常に抽象的です。「君が傷ついた」、「はっきり言ってほしい」、「言ってほしくない」など、よく分からないことを言い合っている歌が多い。

 言葉には変遷があります。皆さんのお母さんの時代には、男性は女性のことを「君」といい、女性は男性のことを「あなた」と言いました。言葉の移り変わりは人間関係の変化を示すので、そのようなところにも関心を持っていただきたい。

 この本の中で、これからは「地域」や「つながり」を重視しなければならないということを書きました。今は学校でもばらばらだし、まちも皆違うことを考えている、また事件が起きても誰が亡くなったのか分からない、このようなことが非常に多くなっています。

 こういう世の中を何とか皆で変えていかなければならないというのが私の関心事であり、行政的にも何とかしなければならない。皆さんもこれから就職すると思いますが、人間関係や地域のつながりがしっかりしていないと就職もうまくいかない、そういう時代です。

 さて、これからは地方と都市との関係について話をします。今、福井県の人口は約82万人で、嶺北には67万人、嶺南には15万人いますが、歴史を少し遡った1600年の関ヶ原合戦の頃の福井県の推計人口は、越前で14万人、若狭で3万人、合わせて約17万人でした。当時の日本の総人口は約1200万人なので、全国の1.4%ぐらいの人が福井県に住んでいたことになります。それに対し、現在の福井県の人口は、日本の総人口が約1億2千万人ですから、0.6%ぐらい。相対的な感覚の話になりますが、戦国時代の福井県には、現在の2倍以上の人が生活していた感じであります。

 更に時代を遡り、平安時代を見ますと、源氏物語を書いた紫式部は国司であった父親とこの福井の地に来ました。紫式部の父親は県召除目で別の国の国司に任命されそうになったため、和歌を詠んで天皇に越前に行きたいといったところ、願いがかなって越前の国司に任命されたのです。当時は、今の県に当たる国を大国、上国、中国、小国の四段階に分けていましたが、越前国は6か7あった大国の一つであり、人口が多く、そして生産力もたくさんありました。

 一方、江戸時代の東京である「江戸」の話をしますと、関ヶ原の合戦の100年ほど後の享保年間には、江戸のまちに130万人ほどの人が住んでいました。当時の日本全体の人口は2,600万人くらいと推測されていますので、全国の約5%の人が江戸に住んでいたことになります。江戸といっても、現在の東京23区よりもかなり狭いので、人が相当集中していたようです。人口密度を調べると、町人地の場合、70,000人/k㎡。現在の東京23区の人口密度は約14,000人/k㎡ですから、5倍ぐらいになります。

 このような江戸のまちに、地方から奉公や働きに出る人がたくさんいましたが、江戸では人口が増えませんでした。これだけ人が密集していると、住宅環境や生活環境が悪化し、災害や伝染病などの被害が拡大し、多くの人が亡くなったのです。しかも、当時の男性は半分しか結婚していなかったので、子供も生まれません。

 当時の江戸の町人の男女の比率は、女性100に対して男性182と、倍近くありました。この話を現代に当てはめるとどうだろう。今でも東京にあまり人が集まると、人口は増えないと思います。

 福井県に住んでいれば、ある程度結婚もし、出生率も高くなります。人が生涯に生む子どもの数、これを合計特殊出生率といいますが、平成21年の調査では、東京都が1.12に対し、福井県は1.55です。結婚している人の割合も、東京都は全国平均を下回っています。江戸のまちと同じ傾向で、現代においても厳しい状況です。私は、こうした大都市に人が集まる、あるいは地方が疲弊している状態を改善するために、ふるさと納税等、様々な提案を行っています。

 福井県では、毎年3,000人の学生が県外の大学に進学し、4年後には1,000人しか戻ってきません。2,000人はそのまま県外で就職するのです。

 皆さんは、生まれてから高校卒業までの18年間で受ける児童福祉や教育費用の総額が、一人当たりどれくらい必要かご存知ですか。1,600~1,700万円です。そして、社会に出て、いよいよ税金を納めてもらおう、福井に貢献してもらおうと思った矢先に県外に出て行ってしまう、これは正直言って切ないことです。せっかく大きく育て上げたのにと思うと、何か大都市から一言あってもよいだろうとも思います。

 それなのに、大都市が地方を養っている、つまり大都市で得られる税金を地方に配分してあげている、都市に資源を集めて都市が発展すれば地方への分配が増え地方のためにもなる、という発想があります。これは大きな間違いです。地方が大都市へ人材だけでなく、電気や水も供給しているのです。関西地方で消費される電力の半分は福井県から送られています。滋賀県の琵琶湖の水も関西の人々の7割を潤しています。

 お米もそうです。昔は米穀台帳というのがあり、これを示さないと、ご飯が食べられなかったのです。今はそういうふうに目に見えるものがありませんので、大都市に自然に人が集まって、職場を提供して、食わせていると思われています。

 このように、人材やエネルギー、食料は、すべて地方から供給されているのです。大都市が勝手に自立しているわけではありません。

 私は、最近、東京や大阪を経由しないで、地方同士が互いに連携し、地方を元気にするために活動しています。今年1月、全国の11の知事とネットワークを通じて、地方独自で頑張っていこうという「ふるさと知事ネットワーク」というものをつくりました。この11県の間でそれぞれの自慢の農産物をお互いに売ろうではないかという試みを始め、その第一弾として、先月末に、山形県のさくらんぼを福井県で、また福井県のウメやミディトマトを山形県で販売しました。これら11県が連携して、3つのことを進めようとしています。

 一つは民間団体あるいは産業界、大学同士で横に連携をすることです。皆さんも、夏休みに東京に行くのではなく、青森や熊本に遊びに行って、大学同士で連携してください。

 二つ目は、11県あるのでそれぞれの県がリーダーになって、自分のやりたいテーマを決めて、それに参加する他の県のグループが一緒になって、いろいろな勉強するということです。

 その中の一つとして、福井県がリードしようとしているのが、希望学に関係して、地方の声や希望をどのようにして指標化できるかという研究です。全11県が参加しています。

 現に、フランスのサルコジ大統領は、GDPの計算方法を見直し、余暇の長さや医療の充実ぶりなどの「幸福度」の要素を加味すべきとの新しい考え方を示しています。この研究では、現在幸せかどうかを測る「幸福度」の視点を超えて、国民一人ひとりが将来に「希望」を持って、具体的な「行動」につなげていってもらえるような生活実感を伴った新しい指標を開発しようとしています。これはかなり難しいかもしれません。ブータンの幸福度とも関係するかもしれませんが、希望度は未来に向けてのものです。こういう新しいやり方を考えていこうということです。

 三つ目はもっと大事なことですが、地方の共通の課題をまとめて、メディアや場合によっては政治に提案していこうというものです。

 新幹線をまず整備しなければならないとか、中部縦貫自動車道の利活用、地方に企業を誘導する政策、あるいはこの大学もそうですが、地方の大学と東京、大阪の大学との連携、東京や大阪の大学の学生や先生を地方にどのように来てもらうか、そういう提案などをしています。

 週末には全国学力テストの結果が公表されます。福井県はこれまで全国で1、2位であります。学力テストというくくりですが、実際は学力・学習状況調査。学習状況というのは子供たちの生活実態で、「朝は何時に起きますか」、「朝ごはんは食べていますか」などの質問で、その中に「希望はありますか」というものがあります。

 「希望がある」と答えた生徒は6割ぐらいしかいません。その割合は、福井県では小学生が低く、中学生になると少し上がってきます。何故だろうという疑問がおきます。福井県のように生活の心配がそれほどなく、3世代同居率も高く、安心で、学校も楽しいという県で、なぜ子供たちの希望が少ないのか、それは研究に値します。

 またこの中に「学校の先生は子どもたちに希望のことを教えていますか」という先生への質問もあります。小学校ではほとんど希望を教えていません。中学校になると割合教えています。

 こうした状況を背景に、福井県では「希望」というものを研究することにしました。「希望学」という学問です。皆さんも希望ということを考えてほしい。

 全国的に希望が高い県もあります。子供たちが「希望がある」と答えた割合の高い県を調べてみたところ、鹿児島、宮崎、高知、山口。これらの県は子供たちの学力は割合低い、そして豊かさもそれほど高くないのですが、なぜ希望は高いのか。吉田松陰、西郷隆盛、坂本竜馬がいたから高いのか、あるいは気候風土が関係するのかもしれません。また、厳しくても朗らかに夢を持って生きようとする県民性なのかもしれません。

 それに対し、福井県のように豊かなのに、変に落ち込む県もあります。研究するには面白い。ただ我々行政としては、もう少し教育現場で福井の良さや歴史に触れると良いと思います。

 皆さんはNHK大河ドラマの「龍馬伝」を見ているかもしれません。竜馬は福井藩の松平春嶽公のところに、海軍操練所の設立資金として何千両かを借りにきました。これに対し、春嶽公は「日本が良くなるのならそれでいいのだ。気にしないで有効に使ってくれ」と太っ腹の話をされました。当時は、日本の国を良くするために、田舎同士でお互いに助け合い、日本を良くしようと頑張っていたのが分かります。幕末のような時代がもう一度来るといいと思います。

 司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という歴史小説がありましたが、一体竜馬はどこへ向って行ったと思いますか。実は福井へ行ったのです。何をするために竜馬は福井に行ったのかということですが、由利公正に会いに行ったのです。彼は金融や財務の専門家でした。

 当時、由利公正は謹慎中でしたが、謹慎から解放し、江戸で新しい政権の金融、財務をやってほしいということで、救い出しに福井に来たのです。そして、福井の殿様といろいろなやりとりをして、数日後に京都に戻り、暗殺されます。220728講演写真2

 これもやはり地方同士で、いろいろな交流をし、日本を良くしようとしたこと。つまり、由利公正を救い出すことによって今の憲法に当たる五箇条のご誓文も出来たわけであり、それから金太政官札という日本のお金をつくったのも、また銀座をつくったのも由利公正。また、由利公正は初代の東京府知事の仕事をし、地方自治に関わっています。

 歴史を勉強すると、こういうおもしろい話がたくさんあります。皆さんもぜひ勉強してほしい。

アンケート
ウェブサイトの品質向上のため、このページのご感想をお聞かせください。

より詳しくご感想をいただける場合は、までメールでお送りください。

お問い合わせ先

(地図・アクセス)
受付時間 月曜日から金曜日 8時30分から17時15分(土曜・日曜・祝日・年末年始を除く)