福井県高等学校長協会での講話

最終更新日 2010年8月31日ページID 012848

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 このページは、平成22年8月31日(火)にユアーズホテルフクイで行われた、福井県高等学校長協会平成22年度「知事と語る会」での知事講話をまとめたものです。

 県高等学校長協会でお話する機会をいただきありがとうございます。
 時間も限られていますので、冒頭で、これからの福井県の教育を考える上での課題について申し上げておきたい。
 一つは、公立と私立がいかに自立性を持ち、また、いかに相互に関連をもってバランスよく発展するかということ。
 もう一つは、普通科と職業系との関係です。職業系の学校にも必ず課題がありますし、もっと良くなるきっかけがあると思います。
 これらの課題については、今後議論を重ねてまいりたい。

 今日は、あらかじめ校長にアンケートをお願いしました。「担当教科は何か」、「担当教科の教授法のポイントは何か」、「その教授法の改善として今後何をすべきか」、「自校の先生の授業を何回見たか」、あとは一般的な質問ですが「学校運営について具体的に創意工夫をしていることは何か」、「さらに今後どんなことに手をつけたいか」という内容です。
 授業観察の回数についてはかなりバラつきがあるようですが、少し考えていただきたい。
 というのは、例としてこれからいかに学力を上げるかという議論の中で、かつて問題のあった大分県はいくつかの提案をしています。
 一つは、一時間の中で授業を完結してしまうということ。どこまで進んだのか分からないような授業をやめ、一時間で完結させるという改善を、学力向上のためにしていこうということです。二つ目は、一時間の授業の流れを分かりやすく板書する、すなわち板書の構造化です。その上で、ノートを丁寧に書くよう指導し、ノートとの一体化を図るのです。三つ目は、習熟の遅れがちのグループに対する指導の強化です。そして、これらを徹底する方法として、校長が先生の授業をもっと見なければならないと言っています。最後に四つ目として、先生が互いに授業を見せ合うこと。これも大事なことです。これは県外の例です。
 昨年もこの場で自校の先生の授業を見て欲しいと申し上げましたが、学力向上を目指す他県の小中学校でも、やはりそこをポイントにしているようですね。つまり、校長にとっての現場とは、自分の学校というあいまいなものではなくて、先生の授業だと思います。そして、何より大切なことは校長として助言をすることです。
 蓮如上人は、お弟子さんや農民の門徒に対して、「モノを言え。モノを言わぬは悪きことなり」と言っています。黙って上人の説教を聞くことは悪いことであると。つまり、何かを言うことで助言ができたりします。それは、横の関係でも言えることです。それから、あまり深刻にならずに、心軽く何でも言い合いなさい、ということを云っておられます。教育にも通じると思いますので、皆さんの学校現場でも応用してください。

 さて、今日はいくつか気になることを申し上げたい。
 まず、小中学校で福井県は学力が日本一ですが、福井県の高校はセンター試験の結果を分析すると、一桁の順位ではあるものの最上位ではないということです。この結果をどう考えるか。校種を問わず、学力を上げられる可能性があるのかどうか、について考えてほしい。
 そこで、考えられることがいくつかあります。最近新聞などを見ていると、世界選手権的な大会が載っています。例えば、世界物理オリンピック、化学や数学、生物、それからディベートやIT大会もあります。世界レベル、あるいはオールジャパン的なコンペティションです。
 福井県の生徒では、第6回全国物理コンテスト「物理チャレンジ2010」では藤島高校の柏君が銅賞を受賞しています。囲碁では、藤島高校が全国大会で4位に入賞しています。それからスポーツの分野では、私学が頑張っています。しかし、まだまだ十分にはエントリーの努力さえされていないように思います。全国あるいは世界レベルの大会に挑戦することにより、自分たちの学校、ひいては福井県全体の教育の在り方を見直すことができるのではないかと思います。挑戦をすることを通じて、いろんな能力を上げていくということが一つの手法としてあるのではないかと思います。
 毎年、NHKのラジオ第二放送で「夏休み子ども科学電話相談」という番組が夏休み中ずっと放送されています。全国の子どもたちが、昆虫、宇宙、岩石、恐竜など様々な分野の質問をし、専門の先生が入れ代わり立ち代り答えるという番組です。私も時々聞いていますが、福井県の子どもたちからは質問がありません。そこで、今年は小学校の先生に、質問のある子がいたら相談させてみてはどうかと申し上げました。そうしましたら、今年は何人かの福井県の子どもたちが電話相談していました。子どもたちにとっては、先ほどの高校生の世界選手権と同じです。挑戦するわけです、そして、電話できちんと喋り、ありがとうと言う。それで子どもたちが変わると思います。小学校の話ではありますが、高校でもその種の議論をしてほしい。

 もう一つは、具体的に高等学校での話です。
 生徒にとって数学ほど嫌なものはない(?)と思います。因数分解まで習ったと思ったら突然三角関数が出てくる。級数や対数を始めたと思ったら、微分・積分や確率など、ばらばらに脈絡なく出てくる。私自身、高校生のころ数学に関して、何のためにこんな調子でやらなければならないのかと思っていました。
 また、問題集の答えに例えばsin2θと書いてあるだけで、なぜそういう答えが出てくるのか分からない。そこで詳しい答えを生徒に予め渡したらどうかと数学の先生に申し上げたら、答えを写し授業を聞かなくなるので駄目ということです。私の考えにほとんどの数学の先生は賛成されないかもしれません。
 しかし、やさしい答えを作成し予め渡しておくと、時間に余裕が出て、数学の歴史や高校でなぜ因数分解を学ばなくてはならないかなど、違うタイプの授業ができます。例えば、ギリシャ時代からデカルトやライプニッツ、オイラーなどいろんな学者が工夫して順番に学問が発達した歴史について教えてくれるといいのではないでしょうか。そのような授業が子どもたちの社会性や歴史性、全体性、鳥瞰性を育成し、問題が解きやすくなったり、何が問題なのか、また解ける解けないのかが分かったりするようになるのではないかと思っています。

 また、英語の入試形態もずいぶんと変わってきましたので、教育法も変革しなければなりません。福井県はセンター試験の成績はそんなに悪くありませんし、リスニングについてもALTの若者を生徒数に対してたくさん配置し、しかも配置した年代も早いため成果が表れています。しかし問題なのは、あくまでも受験英語としてのリスニングの成績が良いのであって、中学校あるいは高校卒業レベルの普通の英会話ができるということについては、あまり成果が上がっていません。昨年から、試しにラジオの基礎英語を聞いていますが、基礎英語Ⅰでもはじめて聞くと半分しか分かりませんでした。しかも、そのほとんどはやさしい単語でした。ともかくやさしい英語を聞く力、話す力は重要です。今後ますますグローバル化するため、企業のみならず、普通に生活していても、世界中の人々に英語で話すという能力と活かす勇気を身に付けることが大事かと思います。何年も勉強しても基礎英語が分からなかったように、子どもたちはおそらく分かっていないと思いますし、分からないから話せないのでしょう。聞いたり話したりする教育を強化するのは、今後の福井県の中学校、高校の英語の大事な課題かと思います。

 話はやや脱線しますが、鶴見俊輔さんという人がいます。戦前ハーバード大学に入学し、戦後日本に戻り評論活動をしていました。この人の評論に次のようなことが書いてあります。彼は中学校時代にoften(時々、しばしば)を習ったのですが、クラスの中に「オフテン」と読んだ同級生がいて、先生からオフテン・ボーイと言われていたそうです。しかし、後にアメリカから南アメリカまで旅行した際に、オーフンとオフテンと言う地域の数を比べると、オフテンの方が多かったそうです。そこで、発音はさまざまであり、あまり一本にこだわって教えるというのは大きな間違いで、子どもは大まかに問題を理解し、聞き取り、話すことができればいいのではないかと書いています。
 発音は大事です。日常的にトレーニングを行い、大まかに理解し、高校を卒業したら英語が話せるような教育を是非行ってほしいのです。NHKのラジオ講座などももっと思い切り役立てて、いまの教育方法が最善と考えず、いつも一歩前進していただければと思っています。

 時々新聞に、理科に関する記事や中学校用の理科問題が載っています。例えば、光の屈折について、空中から水中に入ってきた場合はより水の側に曲がり、水中から発した場合はより水面に近い方に曲がると書いてあります。これについてどう思いますか。これを覚えなくて済むようにするためには、光の屈折の原理について、もう少し高いレベルで教えた方がいいのではないかと思っています。高いレベルでより低いレベルのことを教えると、暗記しなくても分かるようになるのではないでしょうか。つまり、光が違う物質のところを通過するときに、曲がってしまう原理ですね。このことについて、「これはもっと上級で学ぶ内容だが、知っておくと丸暗記しなくて済む」というような教え方をしてほしいと思います。なぜこんなことを言うかというと、福井県は学力・体力日本一ですから、少しレベルの高いことをしても、子どもたちは耐えられると思うからです。

 さきほど校長会長の話では、高校の先生の努力を生かすためには教育環境をよくしなければならないということでした。福井県は生徒に比べて先生の数が多い県であると言われてありがたいのですが、それならば、先生には今私が言ったことをやってほしいのです。校長の心が子どもたちに伝わり、子どもたち自らが判断できるようにして、子どもにとっての修羅場(受験やスポーツ試合)で頑張れるようにしてほしい。福井県の子どもたちは頭が良く、優れていると思います。真面目で一生懸命やりますが、自分で積極的に世の中を切り開いていく力が高いか、というと疑問です。偏差値はそんなに高くなくても、自分の進路を自分で考える力を高校3年間で少しでも身に付けることが重要だと思います。そして、学歴や偏差値が高いというだけでは世の中では評価されませんので、いろんな技術、ツールを子どもたちに習得させ、世の中を渡ってもらうというのが高等学校の務めかと思っています。

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