全国自治体政策研究交流会議パネルディスカッションでの知事発言要旨

最終更新日 2010年2月4日ページID 006694

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 このページは、平成20年8月21日(木)、盛岡市民文化ホールで行われた全国自治体政策研究交流会議での知事の発言部分の趣旨を要約したものです。大会には、自治体学会会員、自治体職員など約700人が参加し、「分権時代における地方の自立」をテーマとしてパネルディスカッションが行われました。
 青山彰久 読売新聞東京本社編集委員をコーディネーターとして、西川知事のほか北川正恭 早稲田大学大学院教授、本田敏秋 岩手県遠野市長がパネリストとして参加し、それぞれご意見を述べられました。
 Ⅰ 地方分権改革について
 Ⅱ 政治主導の分権改革について
 Ⅲ 目指すべき地域政策について
 Ⅳ 終りに  

【Ⅰ 地方分権改革について】 
200821発言要旨写真1 福井県知事の西川でございます。
 今日、会場に来る前に盛岡市内の様子を拝見しました。それぞれ、みなさんがんばって、街づくりの問題に取り組んでおられるという気がいたしました。
 
 先ほど、ご当地岩手県の達増知事とお話した際に、現在の都道府県あるいは市町村は、江戸時代、藩政時代、さらに遡ると、奈良、平安の時代からの制度であると伺いました。これが信長の時代に国家統一されたとのことであります。一方、現在のヨーロッパの小さな国とかアメリカの州は大航海時代の発想で作られた政治組織の枠組みではないかということをうかがって、目から鱗が落ちたような気がいたしました。
 
 さて、私は現在2期目でありますが、1期目からマニフェストで選挙を戦いました。今回の選挙でもマニフェストを掲げております。最初のマニフェストが「福井元気宣言」、2回目は「福井新元気宣言」という名前です。最近、全国の自治体のスローガンやマニフェストを見ると3分の2ぐらいに「元気」という言葉が使われております。はじめのうちは、政治の世界では「元気」という言葉はほとんど使われていなくて、俗っぽく聞こえるので使うのを迷いましたが、今では「元気」が、当たり前にマニフェストやスローガン、まちづくりなどの言葉(キャッチフレーズ)として使われています。このように、いろいろな政治の言葉、仕事の仕方が年を追うごとに進化していると思います。

 マニフェストについては北川先生(北川正恭 早稲田大学大学院教授)からアドバイスをいただきましたが、当時、マニフェストで選挙をしてよかったと思っています。これによって、住民のみなさんとの関係や議会との関係など様々な点で、わかりやすい政治ができていると思います。 

 そこで、コーディネーターの青山さんから問題提起のあった最近の全国知事会の動きですが、三位一体の改革に対しては期待が大きく全国の知事の議論も活発でした。しかし、結果としてまったく十分な成果があがっていないということで、いまのように元気がなくなっているということかもしれません。
 しかし、全国知事会あるいは各団体の活動のエネルギーが絶対的に下がっているわけではありません。知事会の議論の仕方が日常化してきたというか、飽和状態になっているのかもしれません。そういうことで、新しい段階の動きが必要ではないかという認識もあります。

 そこで、私の考えを数点申し上げます。
 私は全国知事会では憲法問題特別委員会の委員長をしていますが、日本の地方自治は、憲法上、地方自治の本旨に基づいて行うこととなっています。他の権限に比べて、憲法上で地方自治が保障されているわけではなく、法律の範囲内ということであります。このような政治的限界があるという基本問題があると思います。
 憲法問題はかなり政治的な議論であり、他の条項とも関連して問題は多いのですが、憲法改正あるいはそれに至らなくても実質的に憲法保障により近い現実が出来るような、議論なり考え方のレベルアップをする必要があります。この問題は基本的な制度論であり、政府という制約の中で、国民的な理解を深め、制度改正にもっていく、そういう議論をするのが一つの大きな流れかと思います。

 2点目は、できることから地方が提案し、実行に移すということであります。私は、「ふるさと納税制度」という新たな税制を提案し、この5月から全国で実施されています。特に、知事という存在は、国と基礎的自治体の間にあるため、地方自治のことを政府に訴えうる立場にあると思います。私も、なんとかして地方発の制度改正ができないかと思案し、実行に移すことができました。
 この「ふるさと納税」は、地方のいろいろな制度を考えるにあたり、おもしろい制度であると思います。住民が納税地を選べる、自治体がよい政治を競争しあえる、寄付という文化を広められる、あるいは住民が納めた税の使い道を監視できるという特徴があります。このような新しい自治の制度、こういうものを自治体から進めていくことが重要ではないかと思います。
 このように、できることを具体的に行い、少しでも良くしていく、そういう動きが必要だと思います。それが二つ目の大きな流れだと思います。

 最後に3点目ですが、地方自治や地方分権は永遠の課題であり、絶えず手を緩めずに努力することが必要です。そして、ここ数年のように一定の(議論の)政治的な山をつくっていくというか、政治運動、分権運動のようなものが必要だと思います。
 この夏休みに、イギリスの政治学者でありジャーナリストでもあるオーウェルという人の1945年前後の著作を読みました。ちょうどイギリスが第二次大戦に勝利したイギリスが、今後どのように世界の中で生き延びるのかという議論がありましたが、60年余り前のそのとき、すでにイギリスでは中央集権的傾向を改善する、あるいは少子化問題が論じられています。
 その中で、オーウェルは、中央集権はイギリスでも強まっていく流れがあるが、分権はみんなが絶えず努力し工夫して、その傾向を強めていくことが大事であり、可能だと書いています。その中で、教育、国民教育、地域を重視するというか、あるいは地域のプライドと自信を高めていくということをしないと、分権もできないといったことが書かれています。それは「郷土教育」とでもいうものでしょうか。
 以上、憲法的な基本的な制度論、できることから地方が提案すること、大きな国民的、地方的な運動など、これらを粘り強く進めていくことが当面の、そして永遠の課題であると思います。

【Ⅱ 政治主導の分権改革について】 

  私自身、マニフェスト政治を進めています。そうすると県議会もマニフェストで選挙をしようということで、昨年の統一選挙ではマニフェストによる選挙が始められるようになりました。つまり、首長が新しい姿や政策を進めていくと、議会もそれに応じて変わっていくということだと思います。また、その逆もあるかもしれません。

 全国の首長の活動がどれくらい有権者に支持されているかということが新聞などに掲載されたりしますが、知事や市町村長が支持されると議会も支持されますし、また、議会が支持されないと首長も支持されないという結果が出がちだと思います。
 つまり有権者や住民は、両方を総合的に見ているのが実際のところであります。従って、政治に携わる以上、われわれは住民に支持されるよう努めなければならないのですが、議会と一緒に力を合わせないと総合的な住民の支持につながらないということは事実であります。昨年は、北川先生のマニフェスト検証大会で、福井県議会のグループが大賞をとられました。
 
 最近は、議会も年に1つは条例を提案するという動きがあり、これは結構なことだと思っていますが、議会は他に行政をチェックするという機能も果たしております。しかし、この議決機関として条例を制定する役割と、行政のチェック機関としての役割の間で、切磋琢磨できる部分として何があるかということであります。面倒で、大変なことではありますが、そこを埋めていくこと、それ自体が地方自治と言えるのではないかと思います。いろいろやってみて、ひとつずつ良くしていくことが、地方自治がよくなることと思うべきです。

 その一つの分野としては、新しい計画やプロジェクトなどについて、議会がチェックし問題点を指摘することも重要ですが、平常時でも継続的に議会や行政が一緒になって勉強して取り組んでいくことが大事であり、それが住民の期待でもあると思います。単純に形式的な良し悪しの議論をするだけでは地域はよくなりません。そういう分野が、新しいフロンティアではないかと思います。

 議会自体が、組織なり仕事の進め方なりを見直すことも必要だと思います。
 私は「座ぶとん集会」という住民の方々との対話の集会を何回も(1期目は150回を超えるくらい)行ってきました。何人かの方が集まっていただければ、少人数でも、遠いところへも。出かけて話をしてきました。福井県議会でも多少そういう動きが出てきたようです。議会も住民との対話を重ねれば、議員という別の立場で住民の声を聞くことができます。そして、それぞれが意見を出し合って良いプロジェクト、計画を作っていく、そういうことが新しい動きとしてあるのではないかと思います。このような活動を行っていく中で、議会も(仕事の進め方等について)見直すべきところが見えてくるのではないかと思います。

【Ⅲ 目指すべき地域政策について】  

 福井県の場合は、地方政府という意味で、福井県政府と言っています。自分たちでできることはする、他の自治体によい影響を及ぼすこと、国の制度の改革につながることなどを言う、通常やるべき仕事に加えて、改善していくという心構えで仕事を進めています。
 例を挙げますと、これからの重要課題である子育て支援に全力で取り組む中で、「3人っ子応援プロジェクト」を実施しています。福井県は共働き率が高く、三世代同居率も高いという特徴があります。3人目以降の出産を応援することで、少子化対策になりますし、あまり財源も必要とせず、その上効果も高いということで始めています。これは、全国の自治体にも広がり、国の政策にも影響を与えていると思います。
 
200821発言要旨写真2 それから「結婚」の問題があります。結婚は、普通は行政の仕事ではないですし、「ありがた迷惑」、「余計なお世話」ということでもありますが、少子化問題の基本は結婚にあります。そこで、そういう常識を変えていかねばと決断し、敢えて福井県は結婚の応援をしています。世話好きのお母さんたちが年に50組以上の結婚をとりもっていますし、自治体でいろんな出会いの場をもうけています。これも全国に広がっていると思います。
 
 座ぶとん集会で、お母さんたちから話を聞くと、(子育てについて)お金をたくさんほしいというよりも、例えば、自分が風邪をひいたときに子どもの一時預かりをしてほしいとか、はしかの下の子どもを病院に預かってほしいとか、2時間ぐらいの時間の都合がつくと子育てしやすいといった声が多いのです。そこで、福井県では、そのようなサービスを充実させました。
 ただ最近そういう政策も、やや飽和状態になってきたかとも思います。良いことをすると、他の自治体も行います。どのようにして次の段階に展開していくかが、最近の悩みの種です。狭い世界でものを考えてはいけないと、そういうことを今考えています。

 次の時代の新しい公共サービスとして、具体的に考えている分野についてですが、ひとつ例を挙げますと、これからは農業問題が重要だと思っています。環境や教育、福祉、高齢化対策と関連付けて農業問題にいかに対処するかが新しい分野の例だと思っています。

【Ⅳ 終わりに】 

  分権というものは、単純ではなく、政治、行政、権限、財政など、いろいろなレベルのことで、これを絶えず総合的に進めなければなりません。特定のことだけでは解決できないと思います。
 国民は、ある事件や事柄が起きると、国に制度を改正してくれとか、制度を作ってくれとか、国から指示してくれと言います。このような流れを直して、地域で解決できるようにすることが必要だと思います。
 これからの地方の究極のテーマは、人を地方にいかに戻すか、交流を深めるかということです。そのための政策、例えば税制や企業に対するインセンティブなどをしっかりやっていかなければなりません。国土政策にしても、国全体の高速道路や新幹線などでまだ抜けているところがあります。こういうことをきちんとやらなければ、このグローバルな時代に日本は勝ち残れません。これが自治体として最大のテーマであり、これに取り組んでまいります。



 

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