「第47回関西財界セミナー第3分科会」での知事発言要旨

最終更新日 2010年2月4日ページID 007942

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 このページは、平成21年2月6日(金)、国立京都国際会館で行われた「第47回関西財界セミナー第3分科会」で、知事が「地方分権改革と道州制の是非について」というテーマで発言した内容を若干表現を加え、文章としてまとめたものです。

 Ⅰ 道州制の課題について
 Ⅱ バランスのとれた国土政策について
 Ⅲ 大都市問題について 
 [質疑応答] 

 地方分権、これからの地方自治、国と地方との関係、枠組みの問題としての道州制論などを中心にお話します。

【Ⅰ 道州制の課題について】 
210206発言要旨写真1 地方自治の枠組みの問題ですが、国民の考えが大事だと思います。日本世論調査会が実施した「道州制に関する世論調査」では、6割以上の人が賛成ではありませんでした。

 福井県も独自に、東京、大阪、名古屋などでアンケートを行いました。その中で、都道府県については「親しみがある」、「きめ細かな行政ができる」という意見があり、「広い自治体だと地方分権につながらない」という意見もありました。概ね、現在の制度を充実すべきという考えだと思います。

 国民は直感的に、新しい道州制の枠組みが自分たちの生活を豊かにするものだとは感じていない、あるいは大きな自治体になると無理が生じるのでないか、ということを意識しているのだと思っています。

 また、日本を10いくつかのブロックに分けるということは、その大きさはヨーロッパでいうところの大航海時代の国と同じくらいになります。日本は幸いにしてといいますか、戦国時代の織田信長以後、一つの国家に統一されました。経済規模で比較すると、関西圏は、ヨーロッパではオランダ、あるいはそれ以上の国などに匹敵する地域でありますが、日本は、ヨーロッパの諸国と比べて国家として統一されているわけですから、こういう中で、国を新たに独立的な州や道に分けることは、現代のグローバル化する時代の中で、歴史的に見ても、向かうべき方向が違うのではないかと理解すべきです。

 地域間の切磋琢磨や競争というものはある面で大事なものですが、あえてそういう対立を引き起こす必要はないと思います。
 アメリカなども、もともとあった「州」という単位を、いかに「連邦」として統一するかということが、連邦主義者いわゆるフェデラリストの政治的に大きな努力目標でした。これは、フランスやイギリスと対抗するために、小さな州を統合して、何とか国家を成り立たせたという歴史であります。このような歴史から見ると、現在の日本の道州制論は方向が違うのです。

 次に、地方分権と道州制との関係ですが、道州制はともかく地方分権をなんとしても行うべきで、今まさに、国においてもまた、地方においても、厳しい努力を積み重ねているところです。
 特に、「分権」と「集権」は相反する言葉ですが、現実の政治の場では「分権」と「集権」とは静かに相対立しているわけではありません。むしろ、日本でも世界においても、日々、人々の意識や行動において「集権」の力が働いているのです。それは何故かといいますと、国というものはまとまって何かをしなければなりませんから、おのずと国民も、むずかしいことは考えず、すぐに国に対して様々なことを求めがちですし、国もそれに応じて動こうと考えるわけです。こうしたことから、どうしても集権的な圧力が、日々いわば重力のように国にはかかっているのです。このような力学を、しかし、絶えず分権的にバランスを直さなければなりません。すなわち、より柔らかな形で国の制度を国民のためになるように、「分権」の努力を絶えず積み重ねていかなければならないのです。これは分権の節目節目の決定と同時に、地方自治の永遠の課題です。

 今回の様々な分権の課題については、100%実現することはないかもしれませんが、その場合にも、次の段階では実現されるよう、日本全体で絶えず分権に向けた努力をする必要があると考えています。これが、私の国家と地方の間の分権のイメージです。

 残念なことに、道州制は、過去の歴史を見ても、中央集権的な方向の発想から提起されています。今回の区割りの案の提示の仕方からも分かるように、地域とは関係なく地図を眺めたような中央集権になりがちだと思います。

 現在、都道府県で出来ない、あるいは都道府県が受け皿となりえない、そのような仕事は基本的にないと思います。大阪や京都、兵庫のような都市圏の府県、あるいは福井県のような小さい県でもそうですが、国の仕事で地方自治体ができないものはないと思います。自治体は、必ず事務事業を責任を持って実施するものですから、現在の都道府県制という仕組みの中で、分権を実現できると思います。決して、都道府県は、能力や意欲、情熱に欠けるものではないと思います。

 さて、東西の対立、あるいは「資本主義」と「社会主義」という対立軸がなくなりましたので、人々の気持ちの中に、「何か制度を改革しなければならない」という意識と、政治的な制約がないので安易に行動に移そうとする傾向が、残念ながら生まれがちです。

 ここで注意しなければならないことは、空想的な改革主義に陥ってはならないということです。絶えず現実を見て、まずは「どこが本当におかしいのか」、「どこを直せば国民のためになるのか」、という議論をすべきです。

 その上で「どのように改革を進めるのか」ということが大切になります。その場合にも、道州制論の考え方には、どうしても理想主義でロマンチックなところがありますので、惹かれる方もおられますが、しかし、自分の身近なところから考えてどういう意味があるのか、住民のためにはここはじっくりと構えていなければなりません。将来はどうなのか今は何を行うべきなのか、ということを考えるのが我々の務めであると思います。

 また、大きな地域になると、地域間の格差が一層進むと思います。これは、北海道と九州と比べて、中心地と周辺地域と比較をすればよく分かると思います。北海道はより問題点が出ています。格差是正ということは非常に大事なことであり、広域化という方法では、格差のない社会をつくることは困難ですし、また東京一極集中の解決にもつながりません。逆に、より深刻な姿で大きな州間の対立を生むことになると思います。

 民主主義の観点で言いますと、道州制の下で、民主的な選挙を行うこともまた非常に困難だと思います。福井県のような小さい県でも17日間かけて選挙活動を行います。人口が数百万あるいは一千万を超えるような地域で、果たして選挙や政治にどのようにして民意を反映できるか、想像してもすぐにわかるような困難な問題です。

 そして、政治の統治システムとしても難しいところがあります。例えば、大都市のある府県の実態を見ると、そこの知事は非常に苦労していると思います。やりようがない状態かもしれません。政令指定都市の市長も同様で、困難な問題なのです。だから、大都市のような大きさでは改善をしないと、民主的な統治は無理ではないかと思っているのです。これは、都市の自治体の努力にかかわるのです。

【Ⅱ バランスのとれた国土政策について】 

 本日、参加されている産業界の皆さんにもお考えいただきたいのですが、これからなすべきことは、新たな国土政策ではないかと思います。

 「企業の立地についてどうすべきか」、「雇用を確保するにはどうするのか」、といったことは地方でも行うことができます。しかし、地方と都市など国土政策のあり方を今一度考え直し、「今後、東南アジアと日本の地方がどういう関係にあるべきか」など、グローバル化の時代において国土政策を考えなければならないと思います。

 その手段として、企業と行政の間には、まず「税制」という明確なつながりがありますので、これを上手く活用することが大切です。

 また、これは企業の皆さんからは通常見えないかもしれませんが、今回のような不況になると、自治体と会社や市場との密接な関連が実はあからさまになり、その根っこが分かるようになります。地方と企業は、社員の生活などを通して直接に結びついているのです。市場は勝手に立てないのであって、人と国土の基盤が要ります。

 わが国においては、教育、介護、様々なインフラ整備など、様々な分野での投資のバランスが今ひとつ取れていないということが全般的にいえると思います。まさに景気、経済対策を含め、この国土に対する投資の地域間のバランス、あるいは省庁間、同一省庁の部門間の投資のバランスを、これから5年、10年の間に、これをなんとしても変えなければならないでしょう。例えば、道路と鉄道の関係、農業だと様々な作物に関する予算と土地改良など基盤整備のバランス、などがその例といえます。これらを見直さないと、わが国は決して良くならないと思います。

 そして、関西エリアでは特に重要なことですが、関西ではこれまで中心地をイメージして戦略を立てがちであるということです。つまり、「梅田駅をどうするのか」や「空港をどうする」、「ベイエリアをどうするのか」などに目が行きがちだということです。

 しかし、もう少しエリアを広げて、例えば北陸でいいますと、福井県の原子力発電と関西との関係、あるいは北陸新幹線をどうするのかということを考えないと、関西の力は広がりを持たないと思います。他の周辺の地域との関係も同様です。

 東京と比較すると、関西での地域間の時間距離は、東京での2倍かかります。これを面積でいうとπr2ですから、関西では同じ時間で、東京の4分の1か5分の1しか地理的にはカバーできないという実力が実態なのです。この状況をなんとしても、国土政策の一環として、交通ネットワークの整備によって見直すべきだと思います。

【Ⅲ 大都市問題について】 

210206発言要旨写真2 道州制問題の根本には、いわゆる大都市問題があります。この大都市問題は、今述べましたように大都市の皆さんに自治的に考えて欲しいことであり、私としてはここであまり深入りはさけますが、例えば、府県と指定都市、東京と特別区など、これらの間の役割の重複を避けて無駄をなくすという問題があります。また、大都市での住民自治の問題として、残念なことに、大都市においては選挙の投票率や租税の徴収率などはそんなに高くないと思います。

 福井県は学力とか体力が日本一高いところですが、これに比べて大都市は低く現れがちです。これを解決するには、政策の向きを変えて自らの足元に改革のベクトルを当てると、地域の自治の圏域を細かく区分して、大都市の中でもそれぞれの地域の特性を活かした政治を行わなければいけません。

 あまりにも人口が集中して、多くの住民が政治に参加しにくく、また良い行政サービスも受けていないといった現状であると思います。これを何とかして直す必要があります。すなわち大都市改革です。大都市に住む皆さんが考えなければならない問題です。域内の大都市の問題点をそのままにして、外に膨張して問題を解決しようとしても、都市圏のデモクラシーも日本の地方自治も良くなるはずがなく、支持も受けられないと思っています。

 いろいろ申し上げましたが、世の中に道州制論のような「万能薬」などというものは決してありません。しかし、一つひとつの問題を解決する「特効薬」はあるかもしれません。「一つひとつの問題にしっかりと対応する」、これがこれからの地方自治における有効なアプローチではないかと思います。

 [質疑応答]

Q1 まず道州制から入るべきという考えもあるが、いきなり道州制にすることの問題点などがあれば、意見を伺いたい。

(西川知事)
 ご意見のように道州制のシステムが、最初にあると考える必要は全くない。次のことはよく念頭に置く必要がある。道州制は、これまでの小選挙区制、郵政民営化とも、さらに分権論とも全く次元を異にする議論である。それは統治構造の問題であり、それも住民の日々の生活にかかわる制度問題であることを認識する必要がある。ただの制度を論じるような訳にはいかないのである。
 福井県でも独自に30人学級を導入するとか、子育てについても(3人目以降の保育料や医療費の無料化など)既に工夫してやっている。教育や医療、介護などの分野では、国の制度をアレンジすることによって、都道府県が大きな役割を発揮できると思う。


Q2 産業政策など広域的な意思決定を、国でやろうとすると全国で格差が大きいが、近畿や関西というエリアでは早くなる。関西州は停滞感を脱却する良いイメージだと思っているが、意見を伺いたい。

(西川知事)
 産業政策を広域でと言うとき、それが具体的に何を指しているか想像してみないといけない。関西というエリアで互いに協力できることはあるとは思う。ただし、福井県・和歌山県・滋賀県・徳島県と、それぞれ大阪府との連携についてはパターンが違うと思うので、関西全体を一つのエリアとして論じるより、個別に一つ一つ積み上げて実行すべきことを実行するということだと思う。
 景気対策についても、有効求人倍率など地域の実態がそれぞれ違うので、各府県で行った方が、具体的に物事が見えてよいと思う。つまり産業政策を広域という実質的な中味に何があるのかということを自省すべきだろう。


Q3 明治以降から続いている日本の中央集権制度が、ここに来て制度疲労を起こしていると強く感じる。また、1800ある基礎自治体、特に町村は道州制になるとどうなるのか。基礎自治体を強くしていかなければならないという観点から伺いたい。1つめは、中央集権の制度疲労についてどう見ているのか。2つめは、福井県においては市や町をどういう方向に持っていきたいとかんがえているのか。3つめは、現実の中で広域連合についてどう考えているのか。以上、3点について教えていただきたい。

(西川知事)
 中央集権の問題については、感覚的に「制度疲労」だと安易に論じても始まらない。節目節目の分権を着実に進めていくべきだと思う。まさに、いま行おうとしている分権の成果を着実に上げていくことで、地方分権は進んでいくと思っている。他に道はない。
 基礎自治体については、市町村で「できること」と「できないこと」がやはりあると思う。例えば、義務教育、介護、子育てなどについては一部なら市町村でできると思うが、産業政策や医療全般、教育のさらに広い部分、災害対策などは、まさに都道府県レベルが努力すべき分野であると思う。
 府県と市町村との関係で言えば、国の様々な制度を地方自治体にとって使いやすくなるよう意見をすることや、市町村を含めて住民を様々な集権的な力から守る努力をすることが都道府県の大きな役割であると思う。さらに、日本全体のネットワークの整備は、都道府県間の連携も必要であり、国の理解を得ながら進めるべき、われわれの仕事だと思っている。
 広域連合は、一律にはやりにくいと思う。個別の事柄において連携し、その効果が目に見えるように実行力を上げていけばよいと思う。


Q4 関西経済同友会が2006年に道州制の提言をした当時、ゆとり教育など中央政府の政策が現実の課題からずれる度合いが激しくなっているという問題意識があった。中央政府がこれまでどおりの政策を進めるのなら、道州制くらいの制度改革をして、一定の権限を地方が持たないといけないと考えるが、意見を伺いたい。

(西川知事)
 グローバル競争がますます進む中で、国の主要な分野の教育を含めて政策や戦略、国家のあり方をどうするかは、国政の問題点を国政の場で論じ解決できなくて何だろうか。みんなでよくするように考えなければいけない。まずは、国の仕事ぶりを国として良くしなければ、われわれの生活は決して良くはならない。
 国で直すべきところを粘り強く直したらよいのであって、別の枠を変えても変わるものではない。大阪府、京都府、そして圏域の県など地方がそれぞれで良い政策を行い、これを国にアピールし、改革を進めるということが、わが国を良くする近道ではないかと思う。


Q5 現在の制度疲労の根本は、「政策は中央官庁が決めて、それを実行するのは地方自治体」という枠組みではないかと思う。これを変えなければならないと思うが、意見を伺いたい。

(西川知事)
 日本の制度は様々な分野において複雑に構築されているため、一律に割り切って言えないところがあるが、地方への重点バランスをとったシステムに変えていくことが、これからの流れである。
 例えば、医療でも教育でも一定の範囲で、国全体で統一のシステムである必要がある。この種のものを地方が決めるというのは一種の観念論となる。教育は、学習指導要領や教科書など、基本的なことは国で決めなければならないが、そのほか大体は地方自治体で完結できる。また医療の基本である診療報酬の基本は国で統一すべきものだと思う。
 しかし、こういった分野でも、行政の中味については地方分権的なやり方を取り入れることができるはずであり、地方が自立する方向で事柄を改善していけると思う。



 

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