自治体の借金 PART 2・起債制限比率
前回の課長からの説明で、福井くんもだいぶ自治体の借金のことを勉強したみたいです。今日は自分から、質問に来たようです。
【福井くん】
課長、また、教えていただきたいことがあるんですけど。いま、お時間よろしいですか。
【課長】
ずいぶん改まって、どうした。ちょっとならいいよ。
【福井くん】
実は、この前、課長から地方債や一時借入金のことを教えていただいてから、私なりに勉強してみたんです。地方財政法で、いろいろと制限があるということで、法律や規則を読んでみたんですけど、その中で「起債制限比率」というのが出てきて、これがさっぱりわからないんですよ。
【課長】
うん、「起債制限比率」がでてくるなら、勉強したというのもあながち嘘でもないようだね。教えてあげよう。
まず、勉強したんなら、「起債」はわかるよね。
【福井くん】
もちろんです。地方債を借りることを「地方債を起こす」というんですよね。これを略して「起債」です。
【課長】
そのとおり。その起債なんだけど、前回起債することができる経費は制限されているという話をしただろう。実は、起債することができる経費であっても、無制限に起債することはできないんだ。
理由は前回も言ったとおり、後年度に過度な負担を先送りしたしてはいけないからなんだけど、では、その年度の起債の金額が、「過度」かどうかはどうやって判断すればいいと思うかな。
【福井くん】
そうですねぇ、基本的には歳入と歳出のバランスがとれていればいいんですから、その年の歳入と、将来の歳入の見込みを予測して、人件費や公債費などの比率が高すぎないかどうかを見ればいいんだと思います。
【課長】
うーん、50点だね。もちろん、地方債は後年度に負担を求めるものだから、後年度の歳入見込を立てるのは必要だし、経常的に必要となる人件費などの経費も分析する必要がある。
しかし、その年度だけの起債を分析するだけではだめなんだ。地方公共団体は、毎年公共施設整備の財源として、地方債を起こしているだろう。ということは、新たな起債をする年度にも、当然、過去の起債の負担をしているんだ。
つまり、未来だけでなく、現状の分析をしっかりした上でないと、後年度の負担が過度かどうかは判断できないんだ。この過去の起債の現状を示す客観的な指標の一つが「起債制限比率」だよ。
【福井くん】
なるほど。過去に起こした地方債による現在の財務状況を示すということですね。では、先ほど、私が言ったような将来の予測を示すような指標はないんですか。それがあれば、完璧じゃないですか。
【課長】
確かにそれがあればわかりやすいんだけど、今のところはないんだ。サラリーマンが新しくローンを組むときなんかも、同じだよね。現在のローン返済額や給料などの収入額については、把握できても、将来の給料の額やローンを変動金利で借りた場合の将来の利率の予測は難しいよね。
地方公共団体で言えば、将来の税収の予測をすることは、将来の景気の変動を予測するということと等しいから、難しいことはわかるだろう。経済学者や証券会社のアナリストでもその年の景気の変動をピタリとあてることはできないからね。
【福井くん】
そうですね。やっぱり難しいか・・・。ところで、その「起債制限比率」ですけど、課長がおっしゃるような現状分析というには、ちょっと中身が難しすぎてわからないんですよ。
【課長】
ちょっと、脱線しちゃったね。「起債制限比率」だったね。地方債の返済額、一般的には「元利償還金」という言い方をするんだけど、この元利償還金の影響を示す指標に、もう一つ、「公債費比率」というのがあるんだ。
【福井くん】
えっ、まだあるんですか。「起債制限比率」だけでも脳味噌がショートしそうなのに・・・。
【課長】
でも、順番に説明した方がわかりやすいから、我慢してくれよ。これも勉強だろ。というわけで、公債費比率なんだけど、簡潔に言うと、経常的に各団体が収入とすることができる歳入額に対する、その年度の元利償還金の支払に充てられた額の割合を示しているものなんだ。
一般的な家計でいうと、給料のうちのいくらが住宅や自動車のローンの支払に充てられているかを示しているといった感じかな。
【福井くん】
でも、計算式を見ると、そんなに単純じゃないですよ。
【課長】
だから、「簡潔に」と言ったじゃないか。もちろん、もうちょっと複雑なんだけど、地方公共団体の歳入に地方交付税というものが大きな割合を占めているのは知っているだろう。
【福井くん】
それぐらい知ってますよ。所得税や法人税といった国税の一定割合を財源として、地方の公共サービスの実施が地域によって格差が生じないように、国が分配する制度ですよね。
【課長】
おっ、なかなかやるじゃないか。そうだね。どうしても所得税や法人税といった税金は、人や企業が集中する都市圏に集中してしまうから、税収が生じたところの地方公共団体の財源としてしまうなら、われわれのような地方の団体にはほとんど税収がなくなってしまう。
だから、そのような税源の不均衡をなくすために、このような地方の財源を保障する制度が必要なんだ。
【福井くん】
で、その財源保障制度と、公債費とどんな関係があるんですか。
【課長】
あんまり急いじゃいけないよ。これから説明してあげるから。
この地方交付税なんだけど、当然これを配分するため基準が必要だろ。その基準として、基準財政需要と基準財政収入というのがあるんだ。
公債費との関係ない部分は省略するから、単純に言うと、「基準財政需要」というのは、その団体の標準的な運営に必要な経費を算定したもの、「基準財政収入」というのは、その団体の標準的な収入額を算定したものだね。
この2つの差が、その団体の標準的の運営を行うのに足りない金額ということになるから、ここを地方交付税で補填しているという仕組みだ。
さて、ここからが公債費に関係する話なんだけど、この「基準財政需要」の算定基礎の中に、公債費の一部を算入することが認められているんだ。人口の少ない過疎地域での公共施設の整備や、天災での被害を復旧する経費を起債した場合、その元利償還金の一定割合を基準財政需要に算入できるんだよ。
【福井くん】
なるほど、公債費の一部に財源があらかじめ保障されているんですね。
【課長】
そのとおり。そこで、公債費比率に戻って、そのようにあらかじめ保障されている財源については、さっきの公債比率の計算式の分母と分子の両方から引いてしまって、算定の対象外にしてしまっているんだね。
加えて、その年の元利償還金に特定財源を充てることもあるから、これも分子から引いているんだ。分母の方にはそもそも特定財源が含まれていないから、分母からは引かないというわけさ。
【福井くん】
わかりました。要約すると、標準的な収入に対して、交付税や特定財源といった財源が充てられない公債費がどのくらいあるのかを示したものが「公債費比率」ですね。でも、公債費の現状分析ということなら、この公債費比率だけで充分じゃないんですか。起債制限比率がどうして必要なんだろう。
【課長】
よし、及第点だ。実は、地方公共団体の財政運営上、地方債の元利償還金だけが、「公債費的」なものではないんだ。
何があるかというと、公の施設をつくったり、それらをつくるための土地を取得するために、地方公共団体が直接その事務を執行しないで、様々な公社といった団体が替わってその事務を執行する場合があるんだ。
この場合、その公社に対して地方公共団体が何年かにわたってその経費を負担していくんだけど、仕組みとしては、後年度に分割して施設建設などの負担を求めるから、地方債に近い形態だよね。
しかし、これは、直接地方公共団体が借り入れたものではないから、公債費比率の算定につかった元利償還金にはあたらないんだ。だから、まずこれを公債費比率の分子に足すんだ。
それともう一つ、さっきの基準財政需要なんだけど、公債費比率で除いた経費は元利償還金の一部が算入されているものだけだったよね。実は、これ以外にも様々な公債費が実際の元利償還金の額ではなく、標準的な期間で借り入れたものとして、理論的に発行額に応じた額が算入されているんだ。これも、実質的には財源保障がなされているよね。だから、この額も分母と分子の両方から除く。
この結果、出てくる値が、起債制限比率だね。
【福井くん】
つまり、その年の元利償還金の額から、単純に出てくる値が「公債費比率」で、より実態に近い形で公債費比率を修正したものが「起債制限比率」ということですね。つまり、起債制限比率の方が、現状分析の指標とするなら適格ということですね。
【課長】
そういうことだね。ところで、ここまで説明しておいて、いまさらなんだけど、その参考書を貸してもらえないかな。
【福井くん】
えっ、どういう意味ですか。
【課長】
やっぱり去年のか。実はね、今年(平成18年)から、起債制限比率よりもさらに、各団体の財政状態を示す指標として「実質公債費比率」というのが導入されたんだ。
これまでの起債制限比率では、地方公共団体のいくつかの会計のうち、普通会計だけを対象にしていたんだけど、もう一つ非常に大きな会計として公営企業会計というのがあるんだ。上下水道や介護サービス施設の会計なんだけど、その会計も含めて、その団体全部の財政状況を反映しようというものなんだ。
民間企業でいえば、これまでは単独決算のみを対象としていたのが連結決算としてグループ全体を把握しようというような感じだね。
【福井くん】
じ、実質公債費比率ですか。
(PART 3につづく・・・)
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