第12回福井県科学学術大賞大賞受賞者
おいきしげとし 昭和61年 京都大学医学部生理学講座助手 昭和63年 米国コーネル大学医学部生理学生物物理学講座 研究員 門助教授 |
業績名 『イオンチャネルの分子メカニズム解明のための一分子研究 』
神経の情報伝達や心臓の拍動リズムの発生を担う、イオンチャネルの動的なメカニズムを分子レベルにおいて初めて解明しました。また、チャネルを人工的な細胞膜に埋め込み、実験を行う方法を開発しました。今後、医学分野においては、チャネルの異常に起因する高血圧や糖尿病などの診断や治療、腎疾患の治療のための透析膜の開発、工業分野においては、燃料電池の水素イオンを通す膜の開発・性能向上などに寄与することが期待されます。
≪研究の内容≫
イオンチャネルとは、生物の細胞膜上にあって、細胞の内外をつなぐ細孔(タンパク質)であり、ゲートの開閉により、カリウムなど特定のイオンの流れを制御する役割を持ちます。
生物の全ての細胞は、チャネルを流れるイオンにより、電気を発生させ、情報の伝達などを行っています。このような生体の電気活動の中で、脳や心臓の動きを体外から記録するのが脳波や心電図です。
老木氏は、チャネルがもつ普遍的な機能やメカニズムを明らかにするため、次のような課題に挑みました。
● チャネルの中をイオンはどのように流れるのか。
● チャネルはイオンの流れをオン・オフするときどのように構造を変えるのか。
● 流動する膜の中でチャネルはどのように動き回って機能を生み出しているのか。
実験、計算機シュミレーション、理論研究などの結果、チャネルの小孔の中でイオンは水分子と一列に並んで流れ、水素イオンの場合、流れる向きによって流量に差があることを初めて見つけました。またゲートの開閉時、チャネルは構造を大きくねじり、長さも変化させることを発見しました。さらに、膜の中でチャネルは1か所に留まるのではなく、離合集散を繰り返すことを発見しました。
これらの実験において老木氏は、人工的な膜をつくり、そこにイオンチャネルを埋め込むことにより、チャネルを流れるイオンの電流を正確に測定する、独自の実験手法を開発しました。
これまでの老木氏の業績は、国内外で高く評価されており、平成24年には文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受けました。また、Cellなど海外の科学学術誌に論文を掲載するとともに、Scientific Reports(Nature出版)などの専門学術誌の編集委員として世界中から集まる論文採択決定に参画しています。
今後、さらに研究を発展させることにより、イオンチャネルの欠陥のため発症する不整脈・高血圧・糖尿病などに対する新薬や腎疾患治療のための透析膜、チャネルの分子機構を参考とした抗がん剤や抗生物質などの開発が期待されます。
さらに、チャネルが特定のイオンだけを通す機能を応用することにより、燃料電池で使用される水素イオンを通す膜の開発や性能向上など生物学の領域を越え、工業分野に利用されることが期待されます。
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