第7回福井県科学学術大賞受賞者-2
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むらまついくのぶ |
業績名 『α1アドレナリン受容体の表現型薬理学の確立と排尿障害治療薬への応用』
薬は、注射や皮膚への塗布、口からの飲み込み等、さまざまな形で体内に吸収されますが、その効果が発揮される部位は様々です。このうち、細胞表面にある受容体と呼ばれる分子を標的とした薬は、薬と受容体の組合せが正しいかどうかが効き目の大きな鍵を握ります。今回、新たな受容体が発見され、適切な薬と正しく組合せる道が開かれたことにより、病気で悩む多くの患者の症状の改善に寄与することが期待されています。
≪開発研究の内容、成果≫
尿に関する悩みを抱える患者は多く、福井県内も、尿失禁の患者が女性を中心に推定約10万人、前立腺肥大に伴う排尿困難の症状を持つ65歳以上の男性が5~6万人いると言われており、これら治療薬の開発が長年求められてきました。村松氏は福井大学医学部(旧福井医科大学)において、昭和63年以来、この治療薬の開発に取り組んできました。
ほとんどの細胞の表面には、特異な三次元構造を持つ分子、「受容体」が存在しています。受容体は、ある物質をキャッチするとその情報を細胞内部に伝えます。その結果、細胞内の特定のタンパク質や遺伝子が働き始め、細胞から酵素やホルモンなどが作り出されたり、筋が収縮するようになるのです。ちょうど鍵が鍵穴に納まるように一つの受容体には特定の物質しかキャッチされないようになっています。
村松氏は、尿道を制御する受容体に着目しました。この受容体が特定の物質をキャッチすると尿道が開いたり、締まったりする作用があることがわかっており、薬がこの受容体に結びつけば排尿障害の解消につながります。しかし、従来の薬では、十分な効果が上がらなかったことから、村松氏は、既知の受容体とは別の受容体が存在するのではないかと考えました。その存在を確認する技術が見つからなかったことで、新たな受容体の存在は長く否定されてきましたが、約四半世紀にわたる研究により、村松氏は従来のα1A という受容体とは異なるα1L という新たな受容体を発見するとともに、その存在を確かめる技法を確立しました。その結果、新たな受容体を標的とした新薬の開発が進んだのです。
既に、男性に特有の前立腺肥大に伴う排尿困難を治療するための薬「シロドシン」が平成18年に、日本、そしてアメリカで販売されるとともに、現在ヨーロッパなどでも承認されています。また、お腹に強い力が加わった場合に膀胱内部の圧力が高まることで尿失禁が生じる「腹圧性尿失禁」は、女性の半数が経験するといわれるほど頻度が高く、また重症化すると外出が困難になるなど生活の質を著しく低下させる病気ですが、村松氏は新たな受容体α1L と結びつく新薬の開発を産学官の連携により進めており、既に企業や大学と共同で特許を取得するに至っています。
現在、この分野では満足な治療薬がなく、新たな受容体をターゲットとした新たな薬の開発は女性にとって大きな福音になることが期待されています。村松氏は、これらの成果を各種論文に発表し、その一部は外国の有名な学会誌(英国薬理学会)に掲載されました。また、国内外で招聘講演も多く、長年の研究の成果の普及にも努めています。
新薬の受容体の関係
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