職場のトラブルQ&A ~賃金と損害の相殺~

最終更新日 2020年3月27日ページID 000402

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 わが社の従業員が営業中に、不注意により会社の車を破損してしまいました。その修理代金の一部を従業員の給料から差し引こうと考えていますが、問題ないでしょうか。

 労働基準法上の賃金支払の原則によれば、賃金はその全額を支払わなければならないとされており、社会保険料や税金などの法的な控除や、労使協定に基づく控除以外のものは認められていません。
 したがって、使用者が労働者に債権を有しているから(この場合は社用車の損害)といって、一方的に賃金の一部と相殺することは許されません。この点について、最高裁も「労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者の労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されない。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない。」と判例で示しています。
 なお、故意または過失によって権利の侵害を受けた場合には、現実に生じた損害について賠償を請求することは禁止されていないので、使用者が労働者に賃金を全額支払った上で、別途、車の修理代を請求することは可能です。
 その場合でも、労働者の負担割合について裁判例では、会社の指揮命令により業務を遂行し、その過程で生じた過失による損害の全てを労働者の責任とするのはあまりにも不均等との認識により、労働者の一部責任に制限する考え方が一般的です。

解説

 労働基準法第24条第1項では、賃金の支払いについて、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」として「全額払いの原則」を規定しています。ただし、「全額払いの原則」の例外として、法令に別の定めがある場合や、労働者の過半数を代表する労働組合または代表者との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができるとされています。
 しかし、同条では相殺という言葉を使っていません。賃金からの相殺について、最高裁の判例では、「労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり、労働基準法第24条第1項が、賃金は同項ただし書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも、上にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない。」として、相殺禁止の趣旨も含むとしています(最高裁判決 昭36.5.31 日本勧業経済会事件)。 

参考

 

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