講演Ⅱ 「地域で行う危機管理」

最終更新日 2008年4月18日ページID 004257

印刷

講師 京都大学防災研究所巨大災害研究センター  教授 林 春男

          林先生

講演概要

・ 有事の事態も災害の事態も起こってしまった後は、基本的には同じことである。すなわち防災のために行ういろいろな備えや、いざそういう事態が発生した場合のとるべき対応については基本的には同じである。

・ アメリカで起きた同時多発テロは、予想外の出来事であったが、その起きてしまった事実に対してどれだけ迅速かつ的確に対応できたかが問われた。ニューヨーク州、市、連邦政府が他の機関と連携して行った活動は、総じて精度の高いものだった。
・ その原因を調査したところ、米国、欧州諸国では、いかなる原因で発生する危機に対しても効果的な対応ができる危機計画というものをあらかじめ用意している。これを一元的な危機対応システムと言う。同時多発テロでは、このシステムの有効性を証明している。
・ 今、米国、ヨーロッパでは、そのシステムをさらに有効なものにしようと努力している。米国ではこれまで自然災害が各地で多発しており、広域的な対応が必要となること、また、欧州諸国では歴史的にもテロなどの問題があるという経緯から、全部共通の対応ができるシステムを現実的に考えている。

・ これに比べてわが国には、そのようなシステムはない。それに似ているものといえば、災害対策基本法を下敷きにしたものになる。日本も阪神淡路大震災等の自然災害を始め、サリン事件、SARS、BSEなどの危機が発生し、国民保護という新しい危機管理も出てきているが、これらの災害、危機事象を対処する所管省庁がそれぞれの事象ごとに分かれている。わが国においてもどのような危機が発生しても、効果的に対応できるシステムが必要であり、安心安全についても構造改革しなければならない。

・ 危機管理の第1の目標は、被害を出さないようにすることである。ただし、万が一起きてしまったら、効果的な対応をしていかなければならない。被害を出さないようにするのは、外務省等の役目であるが、国民保護の問題というのは、万が一被害が出たときに備えて、国民保護法制を整備して地域がどのように対応していくかということを考えていくものである。
・ ハザードと地域の防災力の兼ね合いにより被害を抑えられるかどうかが決まってくる。ハザードとは、物理的脅威の大きさのことであり、望ましかざる事が起きる原因のことを意味する。それゆえ、ハザードの強さだけで被害の大きさが決まるものではない。地域の防災力または危機管理能力が高いものであれば、被害は小さくとどめることができる。
・ そのために必要となるのは、まず、ハザードの理解を深めることである。国民保護に関して言えば、弾道ミサイルやテロの発生など国の対応では時間がかかるものについては、それらの規模や起こりうる事柄について、それぞれの地域で考え、知っておく必要があり、ハザードに関してやるべき対策である。一方、地域の防災力を強めることが、もう一つの対策である。

・ 武力攻撃事態について4つの類型が示されているが、そのうち弾道ミサイル攻撃とゲリラ・特殊部隊攻撃の2つのハザードについて気をつけていただきたい。起こりうる被害を想定して、それに対応する能力を地域全体に広げていく必要がある。
・ リスクについての考え方とは、ある程度のものに的を絞って対策を備えることにより、それ以外のものでも、応用して対応していこうというものである。リスクの大きいものに的を絞ることになるが、その大きさは、発生確率と影響度の積で決まる。先ほどの4類型は、影響度はどれも大きいものなので、発生度の高いものに的を絞って備えていけばよいことになる。そういう意味では、危機管理とはどうリスクマネージメントしていくかということになる。
・ イスラエルでは、弾道ミサイルを受け、死者2名、負傷者200名出たが、このほかに精神障害を受けた者が500名、ガスマスクの操作ミスによる死者が7名生じた。直接ミサイルを受けて負傷した人以外にも、それが引き起こす恐怖、対応のまずさにより、結果的に人を傷つけている。新潟の地震においても、ストレスやその後の対応の過程で命を落とした人

がいる。福井の計画では、こうしたところまで視野に入れて作っていけば、全国から配慮される立派な計画になると思われる。

・ 地域の防災力には、被害抑止力と被害軽減力の2つがある。冒頭に話した一元的な危機対応というのは、主に被害軽減力のことを指している。被害抑止力には、ハザードごとに違っており、それぞれの備えが必要である。ハザードごとに被害抑止力を高めると同時に、いざ被害が発生した場合において、その対応を一元的にしておくことが必要。
・ ハザードの被害が大きいほど、発生確率は低くなる。逆にいうと被害が小規模のものは、発生の可能性が高いという事である。被害抑止力というのは、このような発生しうる被害を無被害にするために備えるということである。多くは基本的に専門家がこれに当たっているが、こうした備えを越えて被害が生じた場合は、自分たちで被害を最小限に抑えていくしかない。

・ 弾道ミサイル攻撃やテロ攻撃への備えについては、自然発生の災害について備えていけばいいのではないか。土砂災害や大規模事故のような、いわゆる点で発生する災害とミサイルやテロが作り出す状況は共通している。必要なことは、こうした事態では、新しい状況が生じてくるので、その状況を的確に把握すること、また、そのなかで何をすべきか目的を決めて、その時使える資源をしっかり確認し、それを踏まえて何を行うべきかを決定し、組織を編成することである。
・ 自治体は、こうした事態を想定し、どこに対策本部を置けばいいのか、どこに施設を展開していけばいいのか、シミュレーションを行い、その結果を踏まえて、住民がするべき事は何かということをお知らせする必要がある。
・ 屋内退避とは、その時にいる環境を安全なものにすることであり、ミサイル等の有害物質の漏洩が起きた時の対応として行う。
・ 屋内退避の際は、
① 自宅や近くの建物の中に入る。
② ドアや窓を閉めて、ガムテープで目貼りする。
③ できるだけ高い所へ移動する。
④ 窓が少ない部屋を選ぶ。
⑤ バスやトイレなど水道があるところを選ぶ。
⑥ 警報が解除されるまで、屋内にとどまる。 
などの対処が必要である。水がある場所を選ぶことがポイントであり、水さえあれば人間は3、4日生きることができる。
・ 普段しておくこととして、壁の傷や割れた窓ガラスを補修しておく、換気口の場所や操作法を知っておく、ガムテープ、薬、ラジオ、通信機器等を用意することなどが挙げられる。

・ 災害が起きてから、その影響が地域からなくなるまでには、いくつかのステップがある。その中で災害発生直後の何をしていいのか分からない時期(失見当という。)を、短くすることが危機管理にとって重要なことであり、そのための計画として、国民保護計画を扱っていくことが重要である。
・ 次の段階となる命を守る活動においては、我々自身は命を守るために安全な場所に避難しなければならないし、消防や警察は、住民の安全確保に努めることになる。
・ 危険性が去った後は、社会の復旧、再建の段階となるが、国民保護の場合、被害を受けた損害は国が補償することとなっており、自然災害との大きな違いである。

・ 今後は、どのような危機に対しても一元的に対応できるわが国の社会風土に適した危機管理体制を作ることを目的にしていくことが必要であり、その有効性が証明されているアメリカや欧州諸国が持つ危機管理システム(ICS)のような標準的なシステムを持つことをぜひ検討していただきたい。

質疑応答

(質問1)
・ 自然災害と武力攻撃は、共通性をもっているとの御指摘があり、確かに災害時の経験に学ぶことが一番だと思うが、武力攻撃の場合は、1回きりの対応で、失敗したらもう終わりである。また、アメリカでは、「疑わしきは行動せよ」とされているが、有事のときは、素人判断ではまずいのではないか。

(林教授)
・ まず、有事というのは、すでに事態が発生しているということを認識してほしい。また、国民保護で何を守りたいのかというと、まず、自分や家族の命であり、次に国あるいは県のいろんな意味での実態活動、その次に自分の財産である。そういう意味では差異はない。小さな差異にこだわり、違う組織を作っても、現場で役に立たないこともありうる。それよりも大きな目標を実現できる1つの組織を持った方がコストパフォーマンスも高い。使える仕組みをどうやって磨くかということを議論し、追及していく方が適切である。

(質問2)
・ 具体的に起こりうる攻撃の想定としては、説明があった武力攻撃事態の4つと、緊急対処事態の4つを併せて8つの想定を具体的に考えればよいのか。

(林教授)

・ 起こりうる攻撃の想定としては、かなり遠くから飛来してくる危機と、自分たちの身近なところで突然発生する危機が考えられる。武力攻撃事態の4類型のうち3(弾道ミサイル)と4(ゲリラ・コマンドー)がこれに該当する。4(ゲリラ・コマンドー)がどういう場所で起こりやすいか示したもの、具現化したものが、緊急対処事態の1(危険性を内在する物質を有する施設に対する攻撃)と2(多数の人が集合する施設等に対する攻撃)であると考えてもらえばよい。この武力攻撃事態の類型の3と緊急対処事態の類型の1と2について、一番真剣に備えておくべきものではないかと考えている。 

アンケート
ウェブサイトの品質向上のため、このページのご感想をお聞かせください。

より詳しくご感想をいただける場合は、kikikanri@pref.fukui.lg.jpまでメールでお送りください。

お問い合わせ先

危機管理課

電話番号:0776-20-0308 ファックス:0776-22-7617メール:kikikanri@pref.fukui.lg.jp

福井市大手3丁目17-1(地図・アクセス)
受付時間 月曜日から金曜日 8時30分から17時15分(土曜・日曜・祝日・年末年始を除く)