講演Ⅱ 「国民保護法制とその意義」

最終更新日 2008年4月18日ページID 004264

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講師 拓殖大学国際開発学部 教授 森本 敏

      森本先生

講演概要
 

・ このように一つの法体系を、県ごとにフォーラムを開いて国民に浸透させなければならないということ事態が、この法律自体の難しさを物語っている。これは明らかに国民意識の変化、その背景には、日本が置かれている内外の情勢の流動的な不安定さがあるに違いない。
・ この法律が国会で通過したことも歴史的な事件であるが、来年以降、国会で制定される予定の緊急対処事態法が成立すれば法体系としては完了する。すなわち、今や国民保護や有事法は、法体系を議論するときではなく、どうやって実施するかを考えることが、重点事項となってきている。

・ 今回、中国の潜水艦が日本の領海を侵犯した。政治的意図または軍事的意図があったのか、今一つ読めないが、いずれにせよ日本が中国に配慮して、対応を控えめにしていたというのは嘘で、中国自体が今回の対応に困惑しているのではないかと思う。この件が日中会談でどう取り上げられるか注目される。
・ 中国は、2008年のオリンピックと、2010年の上海万博を経済的発展の大きな基礎として位置づけている。中国共産党は、2020年にはGDPを2002年の4倍に増やすことを党の最大の目標としている。
・ しかし、先月から中国は不安定な情勢であり、各地で暴動等が起きている。経済発展の継続と治安維持といった安定の重視のためには、アメリカとの関係がベストでなければならない。なぜなら、アメリカからの投資と米中貿易が経済発展の基礎であるからである。
・ このほか、失業率、犯罪率の増加、労働者の不満、環境汚染の問題、最も深刻な問題としてエネルギー不足の問題がある。現在9基持っている原子力発電所を10年以内に25基増やそうとしている。インターネット上では、今世紀末までに1,000基増やすという情報が流れているが、原発は、海に面した沿岸に立地しなければならず、日本海の向こう側に建設される事が予想される。そうなると日本海周辺は、ずらりと原発が立ち並ぶことになり、日本海の環境が今後どうなるかということを深刻に受け止めざるをえない。
・ 中国のエネルギー問題は、これからの日中間の悩みの種である。
・ 台湾のナショナリズムがここにきて高まっており、アメリカが台湾の動向を警戒している。アメリカが台湾側について、中国と覇権を争うという単純なシナリオでは、物事は動かないと思っている。

・ 中国と同様に重要な問題である朝鮮半島についても、そう簡単なものではない。今回の日朝実務者協議については、その実態が報道されていないが、いい情報でないものを持って帰るのではないか。拉致問題の解決については相当長く苦しむことになる。先月アメリカの議会で北朝鮮人権支援法が通り、脱北者を支援できるようになった。こうしたアメリカの北朝鮮に対する政策に日本は影響を受けると思われる。

・ 昔の戦争は、戦闘員が被害を多く受けていたが、第2次世界大戦において戦闘員と同レベルで一般市民が被害を受けるようになり、現代の戦争では、戦闘員より一般の市民の方が、10倍、20倍も被害を受けている。
・ 日本において、いかなる国家の危機があるのかという事を考えたとき、3つのケースが考えられる。まず第1は、今回の台風23号や中越地震のような大規模な自然災害で、人間の不作為によるものである。第2は、人間の作為によるものであるが、国際法でいう武力侵略とはみなしえないものである。例えば、テロや内乱、暗殺、不審船、弾道ミサイル、炭素菌のような生物兵器を使ったテロなどがある。第3は、有事法制による武力攻撃である。
・ 日本の法律は、今挙げた3つのうち最初の2つについては、国内法で完備されているが、残りの1つについては法体系がなかった。このため、第1段階として1999年に周辺事態法を整備し、日本の周辺で武力攻撃があった場合、日本はどうするか、アメリカとどう協力していくかということを定め、その後、日本が攻撃を受けた場合を想定し、昨年事態対処法、今年、国民保護法を含む7法3条約を規定した。

・ 今回のテーマである国民保護法制には、ユニークな特色がある。1つは国と地方の役割のあり方である。自然災害の

場合、まず災害の対応を国が行い、足りない部分を地方が補うことになっているが、国民保護の場合、自衛隊は侵害排除、国家防衛をしなければならず、国民保護に全員を使うわけにはいかないため、地方に国民保護の責任をおまかせするというコンセプトに基づいている。法では自衛隊の派遣を要請できることになっているが、実際自衛隊は余裕がないのではないか。
・ 2つめは、有事の際、住民を避難させる、または保護するため、アメリカのFEMAのような民間防衛組織を別途新しく作ることを民主党は要求したが、政府は取り入れなかった。そこで、災害対策基本法の防災組織をそのまま使えるのかという問題が生じてくる。真に正しいかどうか検討しなければならないが、一番現実的な方法であると思われる。もともと防災のために作られた組織に、有事における避難という新しい重大な任務が兼ね備えることになる。このような別の目的で作られた組織が、効果的に国民保護に当たるにはどうすればよいのか考えていかないといけない。

・ どこに何が起きるのか不安定な情勢のため、県や市はもう少し広域的な観点から考えて対応していかないといけない。一番いいのは、シミュレーションや訓練をすることである。県や市、自衛隊、警察、消防、市民の代表が集まり、有事を想定し、国民保護をどうすればよいのか検証していくと、問題点を一度に洗い出すことができる。また、それぞれの地域の特色を最大限に生かして最も効率的な方法を考えていき、その後近隣の県を集めてさらに議論を進めていく必要がある。
・ 防災訓練を兼ねて訓練を実施するなど、シミュレーションすることにより、ノウハウを積み重ね、問題点を洗い出し、計画の見直しを行う。実際に有事を体験しなくても、自分達で学習して、新しい事態に対応できる措置をとっていくことが大事である。

・ 阪神大震災の記録には、行政がどのようなミスジャッジメントをしたのか、そのためにどれだけ救えるはずの人が救えなかったのかということが記載されていない。こうしたことをはっきり記録に残す勇気がなければ、人間の知恵は積み重ならず、今後同じ誤りをおかすことになる。知恵を寄せ集めて、それを最大限に活用するのが行政の行うことであり、行政は知恵を集めて、よい計画を作り、それを実行に移し、県民の安全を確保するための努力を続けてほしい。

・ 国民保護法制とは、初めて法律によって、地方もしくは地方公共団体の長に県民の安全をゆだねる画期的なものであり、かつ重い責任を課したものである。法の重みを理解して、家族、地域社会を守る努力をしてほしい。
・ 現在、日本は社会国家のシステムの再編を行っており、あらゆるところで組織の再編が行われている。国民保護法も、この豊かな日本の社会をどうやって生き延びていくかという、ある種の新しい改革になると考えている。

質疑応答

(質問)
・ 日本は現在、北朝鮮の拉致問題という大きな問題を抱えているが、アメリカだったら、どのような対応をするのか。
・ 弾道ミサイルが飛んできても、しっかり防衛してくれると思うが、その点について教えていただきたい。
(森本教授)
・ 拉致問題は、大変難しく、拉致の目的、誰の指示によるものか等、日本もよくわかっていない。
・ 拉致被害者には、無事戻ってこられた方の他に、拉致され安否不明となっている方が10人いるが、北朝鮮はそのうち2人について拉致していないと否定している。
・ 政府は拉致されたことを認定するために、拉致された以外に考えられないという客観的な背景があること、何かしらの理由で拉致されたと思われる日時、場所にいたという状況証拠があること、帰国された方々が失踪された人達の写真を見て、向こうで見た覚えがあるということを要件として、チェックしている。こうして認定されたのが先程話した10人の方々である。
・ 北朝鮮は、横田夫妻を納得させることができれば、拉致被害者の家族全体の納得が及ぶと考えている。もともと今回5人を帰したのは、横田夫妻を納得させるためである。今回帰国した人達は、横田めぐみさんを知っているという点で共通しており、そういった目的があって帰国させたという背景がある。 それほど拉致問題は、たいへん難しく、いろいろな背景があるということであるため、長い時間をかけて突き詰めていかないと、家族や世論は納得しない。
・ アメリカもベトナムや北朝鮮と、長い間交渉を続けてきた。国際法上、軍事的圧力をかけることはできない。忍耐強く、問題を解決していかなければならない。

・ 北朝鮮はミサイル(ノドン、テポドン)を開発している。問題なのは、開発中であるテポドン2という中距離ミサイルで、このミサイルはアメリカの西海岸、グアム、ハワイに到達する能力がある。アメリカはミサイルの開発を止めるために、3週間前からイージス艦を日本海に送っている。これは仮に北朝鮮のミサイルが発射されると、大気圏に上昇するときミサイルで迎撃する防衛システムを持っている。結果として日本の防衛に役立っている。
・ 核とミサイルを結びつかない努力をする必要がある。軍事的に解決を行うことは、相当危険なことである。引き続き外交努力をしないといけない。
 

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