福井工業大学特別教養講座「地域共生学」~挑戦と創造~

最終更新日 2012年1月11日ページID 016612

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 このページは、平成24年1月11日(水)に福井工業大学で特別教養講座「地域共生学」として、「挑戦と創造」という演題により行われた知事の講義概要をまとめたものです。

○ 講義のテーマについて

 今日の講義のテーマは「挑戦と創造」です。
 今日は、皆さんのような若い人たちの考え方が世の中にどのように影響するのか。また、皆さんはこれからどう行動していったらよいのか。福井県は皆さんをどう応援しようとしているのか。こうしたことをお話したいと思います。あまり深刻に考えずにリラックスして聞いてください。講演

○ 将来に備えた英語のトレーニング

 皆さんは高校、そして大学で英語を習っていると思いますが、これから海外に出て活躍するためには、英語や中国語などを勉強しないといけません。工学を勉強する際にも、外国の文献やインターネットの海外のサイトを調べないといけない時代ですから、外国語は必須の道具です。

 私が最初に外国に行ったのは、30歳の頃です。仕事でOECDの会議に出席するため、パリやロンドンに行きました。

 日本政府のメンバーとして会議に出席したのですが、英語がわからないので会議での発言内容があまり理解できませんでした。会議で自分が発言する機会もありませんでした。また、会議が終わってから次の日の会議が開催される時間や場所を聞くのに苦労したことを覚えています。

 宿泊したロンドンのホテルのレストランでは、朝食の際にホテルのスタッフから「English style or continental?」と聞かれました。それがすごく早いスピードなのです。それが私にとってはじめての英会話でした。はっきり聞き取れなかったのですが、よくわからず、ここはロンドンだからと思ってオウム返しに「English」と答えてみました。そうしたら、コーヒー、パンと玉子焼きが出てきました。
 日本に戻って英語のわかる人に尋ねると、「English style」はコーヒー、パンに玉子焼きの付いた朝食、「continental」はフランスのスタイルでコーヒーとパンだけの朝食とのことでした。
 結局、私は「玉子焼きの付いた朝食にするか。それとも玉子焼きなしの朝食にするか。どちらにするか。」を聞かれていたわけです。

 また、ロンドンには公園がたくさんあるのですが、その中のある公園に行こうとした時のことです。公園に向かう途中で「Show me the way to Kensington Gardens」と聞くと、「Go down this street」と言われました。

 「Go down」だからどこかを下りるのかなと思いましたが、その通りをそのまま歩いて行ったら、目的の公園に着きました。「Go down」というのは、どこかを下りるのではなくて、「向こうに行く」イメージだということがわかりました。「Go down」と言いますが上下とは関係ないわけです。

 今から35年ほど前のことです。私はこうしたやさしい英語がわかりませんでした。それでも何とかなりましたが、今は時代が違うのです。皆さんは、卒業して地元の企業に就職してもこのようなわけにはいきません。

 昨年末に、社員が100人くらいの規模の福井の織物関係企業の社長さんにお会いしました。その企業では「英語や中国語を話せる社員がほしい。」とのことでした。英語を話せる社員が数人いて東京や外国で勤務している。また、インターネットを使って英語でやり取りできるレベルの社員はたくさんおられるようです。

 福井の企業でも外国語のできる社員を求めているのですから、皆さんは国際的な仕事に就かなくとも、大学で研究を続けても、地元の企業に進んでも英語は必要だと思います。
 
 言葉は、特別なものではありません。ただし、幼児から一定の年齢以上になると私たちの日本語の知識が邪魔をするので、英語の文法を習わないといけませんが、まず慣れることが大事です。

 先ほど外国語を「勉強しないといけない」と言いましたが、英語は他の学科のような性質の科目ではありません。勉強ではなく、言葉のトレーニングだと思ってアタックしてください。やさしい英語で普通の生活に関わることをマスターすれば十分ですから、そうしたトレーニングを毎日30分ずつでも始めてください。

 私も1年間くらい車の中でNHKラジオの英語番組を聞いていますが、私だってわかるようになってきました。ですから、皆さんも必ずわかるようになると思います。

○ 最近の若者気質の変化 ~伸び悩む若者の海外渡航者数~

 学生の皆さんは20歳前後だと思いますが、次に、若い人たちの最近のいろいろな様子についてお話したいと思います。 

 日本人が商売、留学、観光などで出国した人数、海外渡航者数は、2000年がピークで約1,800万人です。しかし、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年のSARS、2008年のリーマンショックなどが重なり、また、日本人の所得が伸び悩んだこともあって日本人は外国に行かなくなっています。

 特に問題なのは、若い人が外国に行かなくなっていることです。2000年頃は海外渡航者数全体の23%が20歳代でしたが、現在は17%です。年配の人の割合が増えて若い人はあまり行かない。それだけ若い世代に活力や元気がないということでしょうか。あるいは就職活動で忙しいのかもしれませんが、危機的な状況かなと思っています。

 都道府県ごとの人口に対する県民の出国率(2009年)をみると、大都市圏が高いのですが、福井県の人口当たりの出国率は7%、全国23位と比較的高い方です。これは眼鏡、繊維、機械といった地元の中小企業の方が外国に行く機会が多いためではないかと思います。

 先ほど申し上げましたが、県内の企業に勤められると外国に行く機会が増える。そうすることが企業の発展にぜひ必要になるということです。

 また、留学する人も最近減少しています。今、日本人の学生が最も多く留学しているアメリカへ留学する学生数の割合では、日本が94年から4年間トップでしたが、98年には中国がトップになり、現在はインドや韓国にも追い越されています。皆さんと同年代の中国、インド、韓国の若者がアメリカにより多く留学しているということです。

 皆さんの大学では、専門の工学英語の習得に力を入れており、提携しているイギリスのグルンドゥル大学へ留学する手立てもあるようです。

 留学と言うと、明治時代に伊藤博文が留学したとか、歴史を習うと、留学という大げさな言葉に聞こえますが、外国へ行って勉強や様々な体験をすることです。就職活動が始まるまで、まだ少し間がありますから、留学という言葉にとらわれて大げさに考えず、1週間、1か月、半年でも気楽にいろいろな国に行ってほしいと思います。

 さて、正月の新聞記事をみると、やはり若い人に元気を出してほしいという記事が多かったように思います。日本経済新聞では、日本人の学生の特集記事を掲載していました。この記事では皆さんのことを「C世代」と言っています。「C」は何かというと、コンピュータ「Computer」に関心があり、変化「Change」を厭わず、自分のやり方をつくる「Create」などといった人が多い世代だと言っています。新年だからかもしれないが、前向き的なとらえ方をしており、皆さんもそうであってほしいと思います。

○ 若者を取り巻く環境の変化

(福井県の企業のグローバル化)
 また、外国人を採用する企業も増えています。例えば、先輩が何人か就職されているソニーでは、中国やインドでの採用を始めています。外国人が皆さんの競争相手になっているわけです。

 福井県の企業でも、眼鏡を製造販売している会社では約8割の従業員が海外で働いており、世界10か国にグループ企業を設立し、90か国で商品を販売しています。

 中国での企画開発チームのデザイナーの1人は皆さんの先輩(福井工業大学の卒業生)だそうです。

 また、皆さんはラーメンを食べると思いますが、あるラーメン店の250の店舗のうち、100近くの店舗はタイなどの海外にあるそうです。

 自動車に関連する様々なプレス機を製造しているあわら市の企業には皆さんの先輩も就職されておられますが、北米、中国、マレーシア、インドに営業拠点を設けています。

 県内の企業に就職しても、将来にわたって福井だけで仕事をするということにはならないということです。

 帝国データバンクの調査によると、福井県は29年連続で人口当たりの社長数が日本一です。福井県には多くの企業があるということは社長も多いわけです。福井県の社長さんの出身大学をみると、いちばん多いのは福井工業大学です。新しい仕事の先頭に立ってほしいと思います。

(原子力の安全技術の供与による国際貢献)

 また、福井県には多くの原子力発電所があることはご存じだと思います。

 日本では福島の事故が厳しい状況にあり、福井県の13基の原子力発電所は2月には全部止まります。また、日本全体の原子力発電所約50基のうち、現在は6~7基しか動いていない状況です。

 しかし、世界全体には400以上の原子力発電所があり、今後新興国を中心に増えていく状況です。今後は、例えばベトナムやトルコといった国に日本の原子力発電の技術を輸出することになります。

 日本全体の原子力発電の安全性を強化すると同時に、こうした国の技術者を福井県の敦賀や美浜でトレーニングしたり、海外の原子力関係の研究者との交流を進めたいと考えています。

 地元の原子力関係の企業に勤める方もいると思いますので、こうしたことも知っておいてください。

○ 若者の行動により福井を元気に

 福井県の繊維や眼鏡は、中国や韓国にかなり追い込まれており、新しい技術や新しいデザインの開発を進める必要があります。あわせて海外へ出ていかないといけない。厳しいですが、やりがいのある状況です。若い人ががんばらないと、こうした時代に勝ち残っていけません。聴講者

 これまで福井県では、若い人たちは自分たちでやっていけるので大丈夫と考え、応援にあまり力を入れてきませんでしたが、今年度、「ふくい若者チャレンジクラブ」を立ち上げて若い人たちの地域での活動を応援することにしました。

 12月には趣旨に賛同する代表者30人に集まっていただき、クラブをスタートさせています。

 例えば、菊池先生は高齢者の生活のバックアップ方法、下川先生は新栄商店街の活性化、吉田先生は、私も行ったことがありますが、勝山の古民家の再生・改修を学生諸君と一緒に進めておられます。

 また、村橋先生、西田先生、中尾先生など、電気電子情報工学科と機械工学科の先生が連携して、高齢社会のライフスタイルにあわせた次世代の電気自動車の研究を進めておられ、我々も期待をしております。

 皆さんもこうしたことに積極的に参加してチャレンジしてほしいと思います。

○ 新たな高速交通体系の整備 

 次に、最近の福井県の新たな高速交通体系の整備状況について申し上げたいと思います。

 1つは北陸新幹線です。北陸新幹線は2年後に東京から金沢まで繋がります。金沢から先については、これまではっきりしていませんでしたが、昨年末に敦賀まで整備する方針が決まりました。開通するまでにあと10年ほどかかります。開通すると福井から東京まで2時間30分で行けるようになります。

 高速道路では、舞鶴若狭自動車道が2年後、北陸自動車道と繋がります。兵庫県や中四国など、太平洋側と直結することになります。また、中部縦貫自動車道は、24年度には勝山-大野間、平成26年度には福井北インター-永平寺間が開通します。大野から先、油坂峠付近の道路も10年くらいでできると思います。

 福井県で就職しない人もいると思いますが、福井県で働く人にとっては、日帰りで東京へ行きやすくなるなど、仕事などの面で大きなメリットになると思います。その逆も当然便利になります。

○ 歴史で振り返る福井県の可能性

 また、昨年末に敦賀港がコンテナ船や国際フェリーの拠点港に選定されました。韓国・釜山やロシア・ウラジオストクなどアジアに向かって開かれている敦賀の発展に繋がると思います。

 関連して歴史の話になりますが、東京の新橋から東海道本線経由で名古屋、米原を通って敦賀まで来て、船に乗ってシベリア鉄道でウラジオストク、モスクワを通ってロンドンまで行く「欧亜国際列車」のルートができて今年でちょうど100年です。

 今は飛行機がありますが、このルートは開通当時、今で言うと新幹線のような快速ルートでした。それまでロンドンに行くには、横浜や神戸から船でインド、スエズ運河、地中海を経由していましたが、欧亜国際列車が開通して大幅に期間が短縮されました。

 信じられないかもしれませんが、敦賀は、100年くらい前は全国の中でもとても賑やかな街だったのです。交通の要衝である敦賀をこれからも活かしていきます。大正6年には現在の敦賀高校の前身である県立敦賀商業高校が設立され、ロシア語の学科が設けられました。当時、ロシア語の学科があったのは日本全国で1つか2つでした。

 長浜から敦賀まで鉄道が繋がったのは130年前です。その30年後に「欧亜国際列車」のルートができました。130年前、東海道本線はありましたが、日本の他の地域には鉄道はほとんどありませんでした。福井県は早くから開けた最先端の場所であったのです。

 130年にゼロを1つ増やして、さらに歴史を遡ると、1,300年前の712年は古事記が編纂された年です。福井県は、その頃は「高志の国」、「越の国」と呼ばれていました。古事記には「越の国」に関する記述が数多くあり、越前がにや気比神宮も出てきます。

 また、その8年後の720年に編纂された日本書紀には、福井県出身の継体天皇が出てきます。図書館などでこうした日本の最も古い書物を読んでみてください。

 勉強するときも古い書物つまり古典を勉強することは大事です。工学部で最新の知識を学んでおられますが、科学においても今日の基本となっている古典の考え方を勉強することも大事です。万有引力や物体の運動法則は、ニュートンやガリレオ、パスカルの努力のおかげで今日あたり前のことになっているのですから、こうした人たちの考え方を知ることは大事です。

○ 希望と幸福

 最後に「幸福」、幸せについてお話をします。強く思っているかどうかの差はありますが、幸せになりたい、希望の仕事に就きたい、いい相手を見つけて結婚したいといった思いは誰にでもあると思います。

 年末に法政大学の先生が暮らしやすい、失業が少ない、子育てがしやすいなど、いろいろなデータをみると福井県が「幸福度日本一」であると発表しています。2番目は富山県、3番目は石川県です。先ほど言った「越の国」は幸せだということです。

 また、昨年末にブータンの国王夫妻が日本にお見えになりました。ブータンはヒマラヤにあり、北は中国、南はインドに挟まれた人口70万人の小さな国です。福井県の人口は80万人ですから同じくらいです。

 ブータンはGNPではなく、GNH(Gross National Happiness)、国民みんなの満足を目指しており、国民の満足度も高い国です。福井県とは手紙のやり取りをしており、私も東京で開かれた訪日記念の歓迎レセプションに招待され、国王夫妻とお会いしました。子どもや学生の交流を進めていこうとお話しました。これから仲良くしていこうと思っています。

 ただ、幸福度が高いだけでは満足できません。今が良くても将来どうなるのか。それに向かって行動、アクションを起こそう、人と繋がりをもって盛り上げていこう、目標を達成しようとするのが「希望」です。
 福井県は「希望」を持って暮らせる地域づくりを目指しています。

 「希望」については、数年前から東京大学と協力して研究しています。東京大学は福井県と岩手県の釜石市の2つを研究のフィールドにしています。釜石市は昔製鉄で栄えた街ですが、重厚長大の産業が衰退して失業率も高いところです。福井県とは幸福度が逆に異なる場所ですが、むしろそのために東京大学は2つの地域を比較しながら研究をしています。

 福井県は、奈良、島根、鳥取など12の県と協力して「希望」のコンテスト、地域間競争をしようとしています。「希望」をどのようなデータで表すかというと、「幸福」はあるものの積み重ねですが、「希望」はこれに変化率を加えます。現状に、例えば5年前と現在とを比べてどれくらい良くなったかといった変化率、理系の言葉でいうと微分ですね、これを加味して、2つの観点から希望の度合いを明らかにしようと考えています。

○ まとめ ~「希望」は行動を伴うもの。まず行動することが大事~

 いちばん大事なことは、「希望」は目標達成に向けた行動、アクションを伴うものだということです。毎日15分英語のトレーニングをする、あるいは大学の教科書を毎日必ず読むなど、いろいろあると思います。

 少し先を見通しながらトレーニングをすることは自分のためである。こうしたことが「幸福」や「希望」に繋がります。まず、行動すること、チャレンジすることが大事だと思ってください。

 以上で私の話を終わります。
 



 

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