内外情勢調査会知事講演~交流新時代への福井の飛躍~

最終更新日 2017年8月1日ページID 037385

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 このページは、平成29年8月1日(火)にザ・グランユアーズフクイにおいて行われた、内外情勢調査会知事講演「交流新時代への福井の飛躍」の内容をまとめたものです。

 今日は「交流新時代への福井の飛躍」というテーマでお話をしてまいります。
 「人口減少」という大きな流れの中で、福井県としてどのような対応策を講じていくべきかということです。
 福井県では5年後(平成34年度)に予定されている北陸新幹線の敦賀開業、またその頃の全通を目指す中部縦貫自動車道開通、さらに平成42年度末の北海道新幹線札幌開業より早い全線開業を目標とする新幹線大阪開業など、これから交通基盤の整備が最終段階に向かい、立地条件が飛躍的に向上する時代を迎えます。これにより東西南北のゲートが大きく開き、県境を越えての優位なまちづくり、隣接県や大都市圏との時間短縮、さらには海外との人やモノの交流をより活発にできる環境が整うことになります。
 しかし、交通基盤や立地条件をいかに有効に活かし、今申し上げた人口減少問題に対応し、県勢の発展につなげることができるかが肝心であり、福井県にとって、以後の5~10年は極めて重要な局面を迎えるわけであります。
 今日はこのような状況下における福井県の対応策を取り上げて、少子化・人手不足対策、交流人口の拡大策、大都市と地方の格差是正といった人口減少に関係する施策を中心に話をしたいと思います。

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1 人口減少という大きな問題

 まず「人口」という言葉ですが、ある国の人口が何千万あるとか市町の人口が何千人だという使い方は昔からあります。江戸時代であれば何万石の御城下などと石高でこれを表していたわけです。ただ、人口をどう増やすか、あるいは減少しつつある人口に対してどのような対策を行うか、といった政策的な意味合いでの人口を正面に捉えた考え方は、そんなに古くからあるわけではありません。もっとも、増加人口の抑制が戦後も食糧との関係でかなりの間、課題であったのです。今日ご出席の皆さんも、戦後から高度成長、そしてバブル崩壊などこれまでさまざまな経験をされておられますが、人口を今のように、つまりGDPの成長率に対するようにして、敏感に捉える思考性はおそらくお持ちじゃなかったと思います。
 あまり馴染みがない学者の名前かもしれませんが、フランスのフーコーという思想家は、人口という問題を本格的に論じた人物です。1970年頃に、国家が人民あるいは国民を、主権国家の立場で国家経済としてどうマネジメントするかという考え方をし始めました。こういった新しい考えの中での人口問題が今さらに普及してきて、日本の人口あるいは地方自治体の人口をどう増やすかという考え方に実際につながっているのではないかと考えます。啓蒙時代とかフランス革命の頃にはまだそういう捉え方はしておらず、むしろ領土をどう拡張するか資源や交易拠点をどう確保するか、ということに主眼を置き、人口は当然ある程度増えるものであり、国は人民に対して国家の立場からできるだけ平等に扱わなければいけないといった点が考え方として多くを占めていました。そして今われわれの目の前では、人口をどう管理するか、つまり生物学的に国民を見るという独特の考え方が現れたということであります。かつ現在このことが難しいテーマとなっているのは、人口自体が受け身の目的物ではなく、生き物のように国家の経営に対して全体として無言の主張をする、といった新しい状況が生まれてきていることがまさにフーコー的な問題なのであります。

(人口減少の状況と対策)
 さて、日本あるいは地方の、そして福井県の人口がどのように推移しているかということですが、昨年2月に公表された平成27年版の国勢調査において、日本全体の人口減少が改めて確認されており、国勢調査としては1920年の調査開始以来初めてのことです。もとより福井県は2000年ごろをピークに、すでに減少に転じています。今なお増加しているのは、東京など大都市部のみであり、その東京も2025年ごろにはピークを迎えるといわれています。さらにこのペースで進みますと、2100年には日本の人口が今の半分になるという長期の予測もあり、しかも高齢者が多い。人口減少問題はこのような大きな流れの中にあります。
 これに対し、福井県としていろいろな対策を考えて実行しています。今日は大きく3つに分けて申し上げます。
 まず1点目は、「定住人口」をいかに減らないようにするか、できるだけ出生率が上がるようにするか。結婚を応援する、あるいは子育て環境をさらに向上させ、さらには労働の生産性を向上させるといった少子化対策や雇用面では人手不足対策です。
 2点目は、「交流人口」をどう拡大するかという対策です。これは人口そのものをどうするかということではなくて、県外の人たちを県内へ誘致するといった人口の短期・長期の移住の話になります。直接的な対策ではありませんが、実際の効果を考えるとそうせざるを得ない部分があります。
 その場合、福井県の交流人口をどう増やすかという点で、福井県は他県に比べてアドバンテージがあるといいますか、有利な条件を持つようになっていると考えています。詳しくは後ほど説明しますが、この条件をうまく活かして、交流人口をいかに増やすか、併せて少子化対策などをどう進めていくかということです。その場合に注意すべき問題点としては、大都市と地方の間にさまざま格差が生じており、日本国内の人口減少問題の流れに好ましくない影響を与えていることをどうするかです。
 対策の3点目は、この「大都市と地方の格差問題」、つまり制度上の改革に関連しますが、地方自治体としての対処です。
 それではこの3つの対策について、具体的にお話しいたします。分かりやすく興味を持っていただくため、順序を変えて最初に、大都市と地方の格差のお話から申し上げます。

2 大都市と地方の格差問題の是正
 わが国では現在、若者が地方から東京に吸い寄せられるという構造になっています。これを改めないと人口問題は解決しないのですが、国土構造やさまざまな制度と深く関係しているため、国の責務の実行が重大であると考えています。
 また有効求人倍率をみますと全国で一番高いのは福井県ですが、二番目は実は東京なのであります。若者を集めている東京においても人材不足であるということですから、決して日本として良い状態ではありません。大学に関しましても東京の大学は定員を増やし充足しているのに対し、地方の私立大学は定員割れで経営危機の状況にあります。多くの学生が東京などの大学に進学し、そのまま東京で就職できるだけの求人があるというのが今の情勢です。この流れを断ち切るため、国として政府機関の地方分散など根本的な行動が必要なのですが、そのほかにも税制や選挙制度など大都市中心の視点から設計されている制度が多いことも問題であると思います。
 そこでまず、一極集中是正のために国が見直すべき制度としまして、(1)税制、(2)選挙制度、(3)最低賃金の3点について私の考えをまず述べたいと思います。

(ふるさと納税)
 まず「ふるさと納税」についてお話しいたします。
 私が提案した「ふるさと納税」は、制度化されてちょうど10年目になりますが、このふるさと納税は今申し上げた人口減少問題に深く関わっています。大都市に偏ってしまっている人口の現状を国民がいかに認識し合うか、そのための国民の行動にどうきっかけを与えるか、こうした考え方が制度を創ろうとする根底にありました。最近ではいわゆる返礼品の問題なども発生しており、今年5月、全国の自治体の首長、今日ご出席の県内の市町長の皆さんと一緒に「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」を設立しました。
 「ふるさと納税」は、大都市に移動した人たちがふるさとへの気持ちを通じて、出身の地方を寄付によりバックアップするという仕組みです。もちろん、ふるさとのさまざまな産業の振興にも役立つ制度です。制度が始まった頃は80億円の寄付額でしかありませんでしたが、現在は約2,800億円にも上っています。大きく成長したのは良いのですが、一方で今申しました課題も出てきているわけであります。そして、人々の交流あるいは大都市と地方のお金の流れなど、私自身もあまり想像していなかったような出来事がいくつか起こってきております。地場産業の振興や従事する人たちの元気につながっているという効果も出ているようです。「ふるさと納税」を健全にさらに発展させるという課題は、大都市と地方の問題を皆んなで考える場合に、ぴったりしたテーマであり、提案した福井県としましては、何とかこの制度をうまく発展させて、大きな良い流れにしたいと考えています。
 話題の大きさに比べますと意外なことに、「ふるさと納税」は国民の2~3%しか活用していない状況なのです。裾野を広くし10~20%ぐらいの納税者が使っていただきますと、寄付総額が1兆円ぐらいになります。この制度を多くの国民が使うことにより、大都市に移住した人たちが地方のことを考えるようになれば良いと思います。返礼品の上限を3割までなどという細かい議論ではなく、もっと多くの国民の皆さんが広く浅く活用し、継続して応援をしていただく制度にする、これからの10年の方向かと私自身は思っています。そういう運動を広めてまいりたいと考えています。そして、大都市と地方の互いの考え方を見直す際の1つの大きなシステムになるだろうと思います。

(法人税制-コンビニ店とロイヤルティ)
 税制から地方と大都市を眺めるもう1つ新しい話を申し上げます。今どこにでもあり、生活に便利なコンビニエンスストアは、福井県内だけでも300~400店はあるようです。どこの県にもそれなりの数の店舗がありますし、ファーストフード店、ファミリーレストランなども増えています。とても便利ですし、防災の協力、また納税の窓口をしてくれる店舗まであります。
 このコンビニの市場規模ですが、日本全体で約10兆円の売り上げと見られています。福井県内の店舗もフランチャイズ形式の店がほとんどでしょうが、各店舗のそれぞれの荒利益の3~4割程度は、東京の本社にロイヤルティとして払います。これは東京の本社の課税所得になりますので、東京に税金を納める形になります。つまり、せっかく福井で事業をして頑張っていただいているにも拘わらず、それが東京の所得と税収入になっているという問題があります。もちろん営業の指導やノウハウが、ロイヤルティになっているのでしょうが、実態を考えます時、これはむしろ福井県の税収入にしてよいのではないかと考えます。全国で1,000~2,000億円ぐらいが、地方の税収入として戻す計算ができます。福井県でも毎年数億円の税収の大きさになりうるでしょう。
 このフランチャイズ税収の移転は、考え方の一例ですが、とかく最近は、日本全国において大都市拠点の店舗が地方に一律に展開するというスタイルになっています。そういう金の回りが全部、東京中心になって吸収されている問題を、何とか解決できないかという考えによる提案であります。地方では経費であり東京では所得となりますから、会計学的には所得が上がったところの税金という考え方もありましょうが、一種の価格移転的な税制として、地方の税収入につなげてもあながち無理とはいえないという考えであります。大都市と地方とのお金の流れを議論するに当たり、地方での金回りを良くするという政策のモデルとして検討をしていきたいと考えています。

(政治の局面―選挙制度)
 次に、政治の根本に存在する話として、大都市と地方の関係で選挙制度における「一票の格差」の議論について申し上げます。
 先週、全国知事会議が岩手県で開催された際にもこうした議論がなされました。現在、参議院議員は鳥取と島根あるいは高知と徳島では前回の選挙から2つの県で1名の選出になってしまっています。実質的にはどちらかの一県の代表がいないことになるという現実です。私は3年前の全国知事会議においてこういう制度になりかねないと注意を喚起したのですが、その時はあまり反応がありませんでした。ところが去年の会議に至って随分議論になり、今年の会議においては弊害や不満を訴える議論が出たのですが遅きに失しているのです。次は福井・石川などがこの制度の対象になりかねないというおそれがあります。
 こうした議員定数の移動は、戦後ずっと一方的に続いています。地方から東京に人口移動することにより地方の人口が減少し、東京の人口が増加します。すると、1票の価値の平等という議論がこの問題と並行して起こり、すぐ裁判となり、是正すべきとの判決に至ります。戦後ずっとこういったことの繰り返しです。戦後70年になりますが毎年、平均1人ずつ国会議員が地方から減って大都市に移動しており、これまでに相互のバランスで単純に150人程度の差引の格差が生じたことになります。今日では、地方からさまざまな地元の実情を申し上げても、万事が政治の発言力として大都市中心に傾き、大都市型になってしまっているというのが世の現状です。日本全体のために、これを何としても直さなければならないと思います。
 仮の話としてお聞きいただきたいのですが、地方において鳥取・島根、あるいは高知・徳島を一緒にするような冒険を行ったのであれば、大都市である東京・千葉・神奈川・埼玉などを合区にしたほうが、まだしも合理的ではないでしょうか。なぜなら、これらの大都市圏地域の人口を合計して中選挙区を設けるとすると鳥取・島根との格差の計算では1人当たりで平準化するからです。さらに言えば大都市では昼夜人口といいますか、1日のうちに住民が大きく働くために動きます。東京の場合、人口の1~2割は昼夜の人口が異なるはずです。住民の意識も一体化に近く、極端に言えば住んでいる大都市にあまり関心を示さない。一方、鳥取や島根の方において人はほとんど動かないでしょうし、福井県も同じです。ものの考え方を基本的に直して、一票の格差を改善しなければ、人口減少問題を政治的に解決する力にはならないと私は思います。
 今、極端に例をあげて言いましたが、例えば1つの県から少なくとも1名は必ず参議院議員を選出すべきという提案を以前からしています。これについては憲法を直さなければならないという考え方もありますが、私見では必ずしもそうは限らないと思います。選挙制度を見直すことにより、戦後から現在まで議論されてきた人口の東京への一極集中、地方の人口が減少し消滅する、大都市では介護もできないといった課題が解決できるのではないかと思います。

(賃金格差―最低賃金)
 次に経済や労働に関わりますが、働く人たちの賃金の話を申し上げます。
 最低賃金は毎年決定されるのですが、例えば、福井県の最低賃金(平成29年で時給778円)は東京の最低賃金とどれぐらい差があると思われますか。実は200円も違います。同じ全国のコンビニで働いても賃金水準が異なるということです。最低賃金は全国を4つのランクに分けランクごとに目安額が決定されています。福井県は2番目に低いランクの県であり、その中でさらに金額でも富山県や石川県よりも低いという状況です。また、やや不思議ですが、石川県は富山県より低くなっています。この制度においては一般的にランクの高いグループの方が引き上げの目安額も、大きくなる傾向にあります。このような形で毎年続けていきますと、ますます格差が広がっていくことになります。さらに基本に立ち返ると、なぜ最低賃金に差が生じているのか、その理由はあまりわからないというのが実情です。
 2013年に出版されベストセラーとなった「21世紀の資本」の著者であるフランスの経済学者・ピケティ氏も、賃金と地域格差に関するさまざまな研究をしていますが、最低賃金の考え方には、理論がなく決め方については世界的に見てもいろいろな方法があると書いています。多くの国に水準は全国統一制ですが、アメリカのように連邦で基準額を決め、各州の裁量でより高い額を設定できるやり方もあります。しかし、日本のように全国を4つのランクに分け、異なる額を設定している国はないのであります。
 さきに述べましたが、有効求人倍率は東京よりも高い福井県であり、その最低賃金が東京より低いという事実に対し、経済学的に見てどういう理由が成り立つのか議論が必要です。いずれにしても、最低賃金をはじめとして、働く条件によって東京に人が自然に集まることになるインセンティブは避けなければなりません。フランスにおいては人口がパリに一極集中するという議論があり、現在は全国一律の最低賃金制度になっています。こうした問題をもう少し真剣に考えてみてはと思います。
 また、最低賃金とは別に平均賃金という見方で東京と福井県を比較しますと、4割ぐらいの差があります。この差は何かということについて調べますと、ほぼ土地代に相当するということが分かります。つまり衣食住の中でも、住宅家賃などの経費といった住居費に関して、大都市と地方で特に差があるということです。
 さきに述べたピケティ氏は、この土地代に関しても、大都市の地価の上昇と地方の地価の下落は、結果としてほぼ均衡しているのではないかと見ています。銀座など大都市のキャピタルゲインは、地方都市の商店街のキャピタルロスに見合うという考え方です。逆に言いますと人口を大都市に集めることによって、こういう事態が起きているのであり、これを解消する政策をもっと進めれば地方と大都市の所得格差はなくなり、人口も大都市に集まらなくて済むという議論になります。また、東京に出た子どもたちの下宿代など地方からの仕送りも相当な額になります。しかし、この考え方による改善を具体的に政策としてどう展開していくかということは決して容易ではありません。
 これまでは、税制、一票の格差、賃金問題という3つの分かりやすい代表的な個別問題を例にして冒頭のお話を申し上げましたが、いずれもこれからの人口減少問題に深く関わることになると思います。なぜなら基本的に、人々はお金の動きや賃金の動向あるいは税制によって動いたりするわけです。こういう問題に目を向け一つ一つ議論していくことが、これからの日本にとって解決の糸口を見出すことになるでしょう。

3 定住人口の減少抑制

 では次に、いわゆる「定住人口」を減らさずにどのように増やしていくか、という基本的な問題に戻って話を申し上げます。
 実は我が国の人口は、最大限の努力を行ったとしても、長期的に減少していくことが避けられない状況にあります。これは母親となり得る若い女性の人口自体がすでに減っているためです。そして、人口が増減する要因は、出生や死亡による自然増減と転入や転出による社会増減に分けられるわけですから、対策に当たってもそれぞれに応ずる施策が必要です。
 定住人口の減少を止めることは必ずしも容易ではないですが、少しでもその進行を緩やかにし、かつ影響を和らげることは重要であり、福井県においてはすでに全国的にみて先進的なプロジェクトを進めてきました。そして平成27年10月に策定した「ふくい創生・人口減少対策戦略」に基づき、少子化対策、人手不足対策として今回新たに、子育てや結婚応援、女性の活躍、あるいは熟年世代の労働参画などによる生産性向上といった課題に1つずつ取り組んでいます。

(少子化対策と定住対策)
 まず少子化の現状を申し上げますと、近年、我が国の合計特殊出生率はやや改善の傾向にありますが、生まれてくる子どもたちの数自体は一貫して減少しており、昨年1年間に全国で生まれた赤ちゃんの数は、初めて100万人を割りました。合計特殊出生率についても改善傾向にはあるものの、全国平均は1.44、1位の沖縄でさえ1.95であり、人口維持に必要な水準2.07には程遠い状況です。
 このような状況の中、福井県における少子化対策(自然減対策)として、これまで、結婚応援と子育て環境の充実を並行して進めてきました。結婚応援については若者の出会いを応援する「めいわくありがた縁結び」などにより、一昨年度は74組、昨年度は100組を超える結婚がなされています。また、子育て環境を充実させるため、平成18年度から第3子以降の保育料を無料化する「ふくい3人っ子応援プロジェクト」による子育て支援を先駆けて実施しています。さらに、子どもが1歳になるまでの育児休業の取得を促進する企業に対して奨励金を支給するなど、結婚から出産、子育てに至るまで切れ目のない支援を実施してきました。この結果、本県の昨年の合計特殊出生率は10年前の1.50から1.65に上昇しています。
 次に、福井県における人材不足対策(社会減対策)としまして、平成27年度に福井Uターンセンターを設置し、市町と一体となってU・Iターンを進めてきました。一昨年度は460人、昨年度は623人が新ふくい人として本県にU・Iターンしています。この結果、本県の社会減については平成26年当時の約2,200人から昨年度は約1,800人となり400人以上改善しました。なお、昨年、転入者が増加した県は本県と北海道だけであります。

(女性の活躍・子育て支援)
 私はかねてから「女性の元気が福井の元気」と訴えてきました。平成19年に全国に先駆け「ふくい女性活躍支援センター」を設置しました。また、平成26年度末から出産後の再就職支援や保育所の紹介機能を加えたことによって、昨年度はセンターを通じて約100名の女性が就職しています。このほか、さまざまなプロジェクトにより、女性の活躍を応援してきた結果、今年4月に発表された平成27年版国勢調査によれば、本県の共働き率・女性の労働力率・就業率がいずれも全国1位となりました。
 このように、女性の社会進出が進んでいることは1つの成果であると考えていますが、その一方で女性の潜在労働力の余地が福井県では小さくなっているとも言えます。人口減の影響もありますが、実際にこの10年間において、本県の女性就業者数はあまり伸びていません。数字にははっきり表れませんが、その背景には子育てや介護のため、短時間の勤務しかできない、急に仕事を休まなければならない、こうした事情により非正規やパートタイマーで働かなければならない、さまざまな状況があるのではないかと考えます。
 そこで、家事と仕事の両立など働く女性の負担を軽減するため、新たな支援制度をスタートさせております。具体的には3つのメニューがあります。まず、病院等のスタッフが仕事中の保護者に代わって病児を病院まで送迎するサービスです。昨年11月から福井市内の病院でモデル的に実施しており、現在174名のお子さんが登録されています。このほか、福利厚生制度として社員が家事代行サービスを利用できるようにする企業への助成や、夫婦が一緒に楽しみながら買い物や料理をする「共()家事()」の促進などにより、本県女性のさらなる活躍を応援してまいります。

(生産性の向上)
 さきほど、本県の有効求人倍率は全国1位と申し上げました。この指標はもちろん、雇用環境の良さを表すものですが、最近では逆に人手不足を表す指標と捉える見方も出てきています。
 この人手不足を補い経済成長を目指す方策として、IoT(Internet of Thingsの略。あらゆるモノがインターネットでつながり実現する新たなサービス、ビジネスモデル等のこと)や、さらにはAI(Artificial Intelligenceの略。人工知能のこと)などを活用した生産性の向上が大きな課題となっています。
 そこで、IoTを活用した効率的な生産体制の構築を支援するため、昨年度から県・IT企業・地元大学などで構成するプロジェクトチームを企業に派遣しています。昨年度は製造業5社に派遣しました。また、この成果をもとに製造業におけるIoT導入のモデルプランを3月に作成しており、関心のある企業の皆さんにぜひ活用してほしいと思います。また、今年度、県工業技術センター内に「ロボット研究開発拠点」を整備することとしています。製造現場でのロボット導入を促進するため、ロボット操作の技術を習得していただく、新たにロボットを開発して新規市場を開拓しようとする企業の皆さんと共同研究や実証実験を行うといったことを予定しています。

(教育政策)
 中長期的な人材確保策といいますか、将来の福井県さらには日本や世界で活躍できる人材の育成に向けた教育政策についても触れたいと思います。
 これから人口減少が進んでいく中で従来の教育に加え、「ふるさと教育」と「外国語教育」をバランスよく強化していくことが必要です。
 ふるさと教育については、昨年作成した「ふるさと福井の先人100人」を活用していきます。福井のように歴史的に偉人、先人の多い県はあまりないと思います。また、職業教育として、専門的資格を取得する際の受験料などを支援する「フューチャーマイスター制度」を同じく昨年から開始していますので、これらを並行して進め、県内外を問わず、ふるさとを想いながら活躍できる人材の育成に力を入れていきたいと考えています。
 外国語教育について、英語はグローバル化の進展などにより、大都市で就職する生徒だけでなく、将来県内で働く学生たちにとってもますます重要となります。英語は言葉であり早い時期から慣れて積み重ねていくことが、結果的に子どもたちの学習の負担を軽減することにもなります。福井県においては、国の小学校の英語教科化を2年前倒しで実施することとし、来年度から段階的に進めてまいります。
 また今年4月、旧春江工業高校跡地に「教育総合研究所」を開設しました。この研究所を拠点として、教員の指導力を系統的に高めていき、学力・体力全国トップクラスの福井の教育を前進させていきたい。なお、この研究所には「教育博物館」も併設しており、福井の教育の歴史が分かるほか、明治時代から現在まで約5,000点以上の教科書も取り揃え、また県内学校のほとんどの校歌が聞けますのでご利用いただきたいと思います。
 以上、定住人口の減少抑制について課題と対策を申し上げました。
 「万策尽きた」という日本語がありますが、この定住人口の減少対策は、国が本腰を入れて万策尽くさなければならない、という分野であると考えています。地方自治体は互いに競いながら万策を尽くし、一方で国は消極に安んじて自治体任せにせず、主体性をもってより骨太の政策をしっかり進めるということが、人口減少問題の解決につながると私は思います。キリがない部分もありますが一つ一つを長い目で見て、これから十年単位で時間をかけて取り組んでいくべきことと考えます。

4 交流人口の拡大

 次に「交流人口」の拡大について申し上げます。これにはさまざまな課題がありますが、福井県の最近のプロジェクトを例にお話いたします。
 交流人口の拡大を目指すのは何故か。これは定住人口の減少抑制だけでは効果が不十分であるということです。人口減少の中で地域経済の活性化にいかに取り組むかということを考えますと、人の移動をより活発にして経済的な活動も盛んにする、このことが重要であるという議論になります。そうした観点でこの交流人口の拡大に取り組まなければいけませんし、政策的にも重要です。

(交流基盤の進展)
 そこで、交流人口に関して福井県が置かれている他県に比べて有利な条件について申し上げます。もちろん定住人口の確保にも併せて効果が発揮できることは言うまでもありません。
 1つ目は、人・モノの交流に重要な基盤である「高速交通ネットワーク」が5~10年程度の間に整備されることです。全国の道府県を見ても、こういう条件にある所はあまりないと思います。人口減少問題など地方が厳しい条件下にある時、このタイミングでこういう立地環境が揃っていくと見た方が希望になると考えるべきでしょう。
 高速交通基盤の整備に当たっては、これから5~10年の間に1兆円余りの資金が福井県内に投入されます。福井県の1年間の予算が5,000億円余り、うち公共事業は1,000億円程度ですから、この10倍のお金がインフラ整備に費やされることは大きいことが分かります。時間が過ぎると、この投資ボーナスはなくなるものですから、今が大事な時期でありまして、タイミングを捉えて事業をいかに確実に取り込むかが重要です。
 石川県や富山県においてはプロジェクトがほとんど終わっていますので、幸いなことにその経験は本県にとりましても参考になります。また、準備もできますので、既に整備された地域との格差が広がらないようにしながら、しっかり事業を進めることによって、福井県の立地条件やステータスを確保すること、これがわれわれの戦略上考慮すべき事項ではないかと考えています。
 2つ目ですが、北陸新幹線の意味です。例えば北海道新幹線あるいは九州新幹線長崎ルートと大きく異なる点は、大阪、京都といった大都市に直結する、また名古屋ともアクセスが出てくる新幹線だということです。その意味では中部縦貫自動車道も同じです。北陸新幹線がまず敦賀までつながれば、大都市への日帰りが可能になりますし、さらに十数年後に小浜を通って京都、大阪までつながるわけですから、時間距離が飛躍的に縮まり、通勤・通学が可能な地域になります。こういうことを念頭に置きながら仕事を進めることが大事でしょう。
 3つ目は、福井県が「幸福度日本一の評価」をすでに獲得していることです。他県はおそらく追いつこうとしているのでしょうが、本県にはそのレベルの発想は必要ないわけです。教育環境、子育て環境、おいしい食べ物、豊かな自然など幸福度日本一の優れた素材をベースに、街づくりなど次の事業にチャレンジできる環境が整っているということです。そうした意識をはっきり持って、問題に取り組むことが重要でしょう。 
 以上、福井県が置かれている有利な条件を3点申し上げましたが、このチャンスをなんとしても活かして行かなければなりません。国内外との積極的な交流を拡大し、県民が互いに気持ちをオープンにし取り組む必要があります。このことが本日のテーマを『交流新時代』とした私の気持ちでもあります。
 国勢調査の項目の中に、全国の移動人口調査があります。生まれてから現在までずっと同じ場所に住んでいる人の割合を都道府県別に調査したものです。平成27年版の国勢調査によれば、同じ都道府県にずっと住んでいる人の割合が一番少ないのが北海道です。生まれも育ちも同じ場所という人は全道民の8%台しかいません。東京、神奈川、鹿児島がこれに続き、いずれも約10%です。逆に、同じ都道府県にずっと住んでいる人の割合が一番多いのは山形県であり、23.6%です。福井県がそれに次いで23.2%です。以下、秋田、新潟、富山と続き、富山は20.7%、石川は17.6%です。
 つまり、福井県は人の移動が相対的に少ない県であるということです。こういう現状を踏まえて、人が移動しないような政策を進めるべきなのか、もっと人の移動を促してふるさとのことを思うという政策にするのか、分かれ目であります。さまざまなご意見をお聞きしなければいけませんが、私としましては、いろいろな動きをしながら、福井で多くの人たちが長く活動してほしいという欲張った気持ちがあります。

(北陸新幹線)
 それでは、交流人口拡大の基盤となるインフラのお話を申し上げます。
 まず、北陸新幹線の進捗の様子などについて申し上げます。
 敦賀開業まで5年余りとなり、用地買収は9割まで終わりました。現在の基本的な大きな流れとして、まずは敦賀開業に向け全力で取り組んでいます。また、敦賀開業後すぐには大阪まで直結とはなりませんので、敦賀駅における利便性向上策を同時に検討しなければなりません。現在の案では、新幹線駅舎の最上階の3階部分に新幹線が入って来ますから、新幹線到着時には待ち時間がほとんどないように駅舎の1階にエスカレーターなどで降り「サンダーバード」と「しらさぎ」が同時に待っていて、京都、大阪、名古屋への利便性を確保したいと考えています。また、現在の在来線敦賀駅と新幹線駅舎とは200メートルぐらい離れることになりますので、この点に関しても利便性を確保します。
 福井駅や芦原温泉駅、南越駅(仮称)のそれぞれの駅についても、駅舎のデザインやハード面の整備などが必要です。特に福井駅については駅舎部分を計画よりも拡張することとし、観光案内所や待合スペースなどを設けて利用しやすい構造にします。
 次に、フリーゲージトレイン(FGT)について話します。これまでの方針では、車輪間隔を変えることにより線路幅が異なる新幹線区間と在来線区間を直通できるFGTを導入し、敦賀で乗り換えずに同じ車両で京都・大阪に行けるようにする計画でした。しかし、九州新幹線長崎ルートでの導入がかなり難しい状況になってきました。一番大事な土台の車軸の部分に課題が多く、JR九州は7月末に導入困難という結論を出しています。北陸新幹線は長崎ルートに比べて降雪の問題、FGT区間の走行距離が2倍もあり、乗客数も1.5倍くらい多いわけですから、このFGTの北陸新幹線への導入は普通に見ても厳しい状況にあると思います。ただ、国は最終的な方針をまだ出していませんので、その方針を受けての必要な対応を急ぐことが重要です。FGTありきという考え方ではなく、乗り入れに向けたいろいろな議論が必要ですので、そのタイミングをうまく見計りたいと思っています。
 さて、敦賀から先の京都・大阪までの整備については、財源の確保が必要です。整備に20年以上もかかるようでは意味がありません。北海道新幹線が約15年後に札幌まで開通予定ですので、関係者はそれまでに完成したいという強い決意を持っています。整備費に関しても、例えばJRからの税収入が増えていることによる公共事業費の増額、整備新幹線施設の売却、貸付料の算定期間の延長など財源を探しながら、2兆円余りの事業を十数年の中で完了できる工夫を要請してまいりたいと思います。国土交通省にもこうした提案をしており財源としては概ね可能と考えています。一方で、全国的には山陰あるいは四国地域に新幹線をという話もあります。また長崎ルートはFGTがだめならフル規格の新幹線でといった計画外の話も出てきておりますので、そういう事業と明確な定義づけをわきまえながら、北陸新幹線については予定どおり早期に整備できるよう取り組んでまいります。
 それから、中京圏とのアクセスもこれから重要な意味をもってきます。5年後に敦賀開業があり、10年後にリニア新幹線が東京-名古屋でつながるという見込みになりますと、名古屋までどのように結びつけるかは北陸にとってとても重要な関心事となります。先日、滋賀県知事とお話しする機会がありました。これまでさまざまな事情がありまして、滋賀県とはあまり議論ができずにいましたが、敦賀から京都・大阪までのルートの方針もはっきりして、このところ随分と議論しやすくなりました。ただ、われわれが数十年来、新幹線のさまざまな議論に取り組んできた経験やそれによる県民意識の高まりがある一方、滋賀県においてはこれから同じような意識の取り組みとなるには、ある程度の時間や相談のベースが必要であります。滋賀県の湖北地方の各都市の発展方向、そして岐阜・名古屋に向け鉄道の高速化をどう進めていくかは、どうみても両県にとっての重要な課題であると思います。

(中部縦貫自動車道)
 高速道路については、中部縦貫自動車道がこの7月8日に大野市まで開通いたしました。工事着工から27年を経ての開通であります。そして、岐阜県境まであと一息というところまで来ました。さらに大野市から油坂峠(東海北陸道)までの区間については、測量や用地取得が始まっており、一部は建設工事に着手しています。整備費は残り1,100億円ぐらいかかりますので、これから5年間という意気込みとなれば毎年200億円余りを国庫として確保しなければなりません。舞鶴若狭自動車道は民間の高速道路株式会社が事業をしていますが、中部縦貫自動車道は県が整備費の一部を負担している国直轄事業であり、ずっと無料で利用できる高速道路です。このため、毎年の200億円の事業費を政治的に何とか確保して、5年後に新幹線が敦賀に到着する頃には東海と北陸が中部縦貫自動車道で結ばれるようにしたいというのが国政の場での議論です。これにより、初めて福井県内の高速道路網はほぼ完了することになります。
 また、3年前に開通した舞鶴若狭自動車道は現在2車線であります。現在、毎日約7,000台が走っていますが、4車線化するためには1万台程度の交通量が必要です。そうなるように施策を講じながら、できるところから4車線化することが次の課題になります。

(高速交通開通アクション・プログラム)
 先ほどの交流人口の議論に戻りますと、集中的に整備されるインフラを、地元としていかに活用するかが大きなポイントになります。新幹線であれば、駅前の整備、関連道路の整備、そして地元のまちづくり、観光、産業振興、企業誘致、農林水産業の振興など、さまざまなことを地域ごとに進めなければなりません。これが遅れますと、交通は便利になったけれども期待外れ、通過地点になったといった元気のない話になりますのでこの戦略は急務であります。
 このため、事業に参加し実行するプレーヤーは、県と市町との連携は当然のこととして行政だけではいけないのであります。民間を含めてすべてのセクターの人たちが力を合わせなければならないことになります。昨年3月に県・市町・民間企業を主体とした「高速交通開通アクション・プログラム」をまとめ、これに基づき各地域で事業を行っています。現在、このアクション・プログラムの改訂作業を進めていますが、特に若狭地域については新幹線が小浜を通ることに伴うプロジェクトの追加が必要になってきました。
 また、この中に原子力の問題をいかに位置づけるかも重要です。福井県は原子力施策に関して安全第一に何十年にもわたって努力してきました。若狭地域の環境や農林水産業をしっかり守ってきた地域ですので、原子力のモデルになる必要があります。北陸新幹線やインフラの整備をどう関連づけていくか、新しい原子炉研究、大学の立地、地域振興などいろいろな課題に対し、ここで一挙に方向づけをし、さらにこの後の人口減少問題をどうするのか、定住人口や交流人口などあらゆることに関わる問題だと思います。もう一度申しますが、アクション・プログラムは行政だけでなく、あらゆる人たちが参加しないと対応できないというタイプの計画です。県民あげて、市町、団体、さまざまな人たちが自分たちで考えて活動や情報を共有しながら取り組まないとうまくいきません。
 以上は、交流人口拡大の基盤となるハードに主として関連したお話でしたが、少しソフト面について、新しい取り組みをご紹介いたします。このことは定住人口とも関連してきます。

(県外在住者の福井への呼び込み)
 交通基盤が整備されることによって、通勤・通学圏が拡大し、都市部との二地域居住も実行しやすくなると考えられます。この絶好の機会を捉え、定住や定住に準ずる人たちを増やすことを目的として、移住定住を進める施策を実施しています。
 まず学生向けの施策としまして、本年度から県外学生に本県の企業や暮らしに興味を持っていただき、ひいてはU・Iターンにつなげるため、新たに2つの事業を始めています。
 1つ目は「経営参画型インターンシップ」という事業です。これは企業に関係した事業であり、起業マインドを持った都市部の学生が、県内企業において企業の責任者の右腕となってインターンシップを行ったり、市町において地域課題の解決を提案する事業です。学生が企業や地域で実務を体験し、新規事業の立案や経営課題の解決などを実践する内容となっています。主な受け入れ先は、製造業や小売業、まちづくり会社などを予定しており、約1か月、若者のアイデアや行動力を発揮することを期待しています。大学生らしい知見を活かしながら地域に活力をもたらす、いわば学生版「地域おこし協力隊」のような新しい仕組みをつくっていきたい。
 もう1つは、「福井版ワーキングホリデー」です。これは地方での暮らしに興味を持つ都市部の学生が、アルバイトなどをしながら休日には地域のイベントに参加したり、伝統工芸体験などを行ったりする内容となっています。学生は県内に2~3週間滞在して、ブランド野菜の収穫などの農作業体験、旅館・ホテル、観光業、製造業の実務体験、お祭りやイベントスタッフとしての地域住民との交流などさまざまな活動を行う事業です。こうした事業を実施することにより、福井の良さを実感してもらい、U・Iターンや将来的な移住を促進していきたいと思います。
 また、シニア活躍層の移住促進にも取り組んでいます。福井県においては10年前と比べて、65歳以上の就業者が約1万4千人増加しておりますので、15歳以上65歳未満の生産年齢における就業者が減る中で、高齢層への活躍の期待は大きいものがあります。また現在、企業に勤めている方の中には、定年前に退職したり定年を迎えた後、自己実現や社会貢献のためにもう少し経験を活かして仕事をしたいという方が増えているのではないか、こうした中高年層の移住を促進する施策を行ってまいります。
 具体的には、新たな交流スタイルであるロングステイの誘致を進めます。今年度は県内4地域(勝山市、鯖江市、越前町、美浜町)において、中長期間滞在できる環境整備や滞在者をサポートする人材の育成を支援します。9月からは福井の暮らしを体験する6泊7日のロングステイツアーなどを行い、県内におけるロングステイ人口の拡大を図るとともに将来の二地域居住や移住につなげます。

(魅力発信―おいしいお米の決定版「いちほまれ」)
 人を呼び込むためには、福井のブランドイメージをさらに高め、県外や国外に魅力を発信していく必要があります。本県の場合、幸福度や学力・体力全国トップクラスなどの他県にはないブランド力を既に持っていますので、これを活用し、目に見えるおいしい食など具体的で分かりやすいものをPRすることが効果的だと思います。「越前がに」をはじめ多くのものがありますが、今日は本年4月に命名した新ブランド米「いちほまれ」についてお話します。
 「いちほまれ」の開発は、平成23年から農業試験場において、コシヒカリを超える新たな品種の開発プロジェクトとしてスタートしました。お米の20万種の候補の中から、60年以上蓄積してきた水稲育種の経験や最先端の技術を駆使し選抜してまいりました。また、消費者やプロの料理人などへの食味調査を行い、消費者が求める「おいしさ」を開発に反映させながら6年の歳月をかけて1種を選定しました。そして、日本穀物検定協会による食味評価においても、評点が群を抜いて高く、例えば特Aを獲得している本県コシヒカリをさらに大きく上回る味の評価を得ています。
 また、「いちほまれ」の命名に当たり、ブランド化の第一歩として名称を全国に公募したところ、10万点を超える応募をいただき、他地域のブランド米を上回る関心の高さを実感しました。その結果、日本一おいしい誉れ高きお米になるようにとの願いを込めた「いちほまれ」という名称が決定したところです。今年は限定的に、県内の120ヘクタールで生産が始まっており、600トンの生産を見込んでいます。
 ただ、ブランド米については近年、他県でも次々に発売されており、産地間競争が激しい状況にあります。このため県では、「いちほまれ」がコシヒカリの正統後継種であることをアピールしながら、首都圏の高級料理店における特別メニューの提供やいちほまれ誕生秘話の漫画化なども検討しています。また、農薬の使用量を減らした安全・安心な基準の設定、栽培マニュアルの作成、生産者への研修を実施するとともに、米の集荷から乾燥、貯蔵、品質維持、出荷といった流通経路についても厳正に管理することにより日本一のお米にふさわしい体制を整えます。そして、こういった営業活動と品質管理を同時に行っていくことによって、トップブランドの地位を確立していきたいと考えています。そして来年からは本格的な生産、販売と進めることになります。

5 原子力・エネルギー問題

 次に、原子力・エネルギー問題についてお話を申し上げます。
 世界的な動きを見ますと、世界のエネルギー消費量は過去50年で年平均2.6%増加しており、今後も新興国の経済成長に伴う消費拡大が予測されます。つまりエネルギー確保はわが国のみならず、世界各国の共通課題であると言えます。また日本においてもエネルギー政策が経済・産業に与える影響は大きく、政府は平成26年4月に「エネルギー基本計画」を策定し、原子力発電を重要なベースロード電源にすることや、エネルギーミックスの目標などを定めています。現在、同計画の見直しを予定していますが、3年経った今も未だその道筋は明確になっていません。
 この見直しに関しては、本年6月に開催された「もんじゅ関連協議会」の席上において、担当である世耕経済産業大臣に対し、再稼働、40年超運転、廃炉、さらには安全性を高めた新型炉への転換などについて国の基本的な方針を明確にし、エネルギーミックス達成への確固たる方針を示す必要があると申し上げました。
 私は日頃から原子力のさまざまな課題について、地元まかせにしないで国がもっと全体性をもって明確な方向性を国民に示しながら、原子力政策を進めるべきだと考えています。そして、原子力の重要性、安全性について、立地地域はもとより電力消費地に対して、国が前面に立って説明を尽くし、世論に訴えていかなければ決して信頼は得られないと言ってまいりました。
 さきに述べましたが、我が国の原子力政策は、もんじゅと核燃料サイクル、再稼働、使用済燃料の中間貯蔵の対応、40年超運転、廃炉などさまざまな課題があり、これらは全て全国に先駆けて福井県で同時に起こり、相互に関連もしています。今後も国の対応状況をしっかり見極め、関係自治体と連携して国に強く働きかけてまいります。
 それでは、もんじゅをはじめ、原子力のそれぞれの課題について順にお話をしてまいります。

(もんじゅ廃炉と地域振興策など)
 もんじゅについては、平成27年の原子力規制委員会による運営主体変更の勧告以来、政府の一方的な廃炉方針決定がなされるといったさまざまな経過がありました。本県としましても機会を捉えて考え方を強く申し入れてきました。これに対し、今年6月に開催されたもんじゅ関連協議会において、菅内閣官房長官から「地元からの意見・要望は政府が一体となって対応する」といった発言があり、また、使用済燃料やナトリウムを含む放射性廃棄物の県外搬出、地域振興策具体化の協議会設置などの回答を得ましたので、当方からは使用済燃料の県外搬出を相当な覚悟をもって実現すること、早急にエネルギー基本計画を見直しエネルギーミックス達成の方策を示すことを強く求めた上で、廃止措置への移行はやむを得ないと申し伝えたところであります。
 もんじゅの廃止措置は概ね30年の長期にわたる事業となりますので、継続的かつ安全に作業を実施していくためには、実施主体である原子力機構そのものにおいて計画的な人材育成を行うことが重要です。何より、現場の経験に基づく技術力と人的な力が大事でありますので、政府がどのように組織の具体化を進めていくのか、国内外の専門家や電力・メーカーの支援、評価専門家会合の意見の反映といった状況を厳正にチェックし、県民の安全・安心を確保していくこととしています。特に、使用済燃料について政府は、再処理に向けた搬出方法、期限などの計画について、燃料取り出し作業終了までの約5年半で結論を得て、速やかに県外に搬出するとしておりますので、県としましては政府の検討作業をさまざまな段階でしっかりと確認してまいります。
 また、地域振興については地元の産業界が期待し、もんじゅを中心に進めてきた「エネルギー研究開発拠点化計画」の見直しが必要な状況となっています。このため、地域振興策を具体化するための協議会は、文部科学省、経済産業省だけでなく、内閣官房も関与した政府全体として責任ある対応が約束できる組織体制とするよう求めています。地域振興策の内容については、大学の誘致、LNGインフラ整備、電源三法交付金などの財政措置、地元である敦賀市のハーモニアスポリス構想への支援などさまざまな事項がありますが、多方面に渡りますし長期的な課題もあります。短期的に対応可能なものについては、8月の国の概算要求に極力反映し、中長期的な課題についてはスケジュール感をできる限り明らかにした上で、協議を行うよう求めているところです。
 このエネルギー研究開発拠点化計画については、これまで進めてきた原子力研究と人材育成、産業の創出・育成を敦賀や福井の地で更に発展させていく必要があると考えています。このため、敦賀エリアの原子力研究・人材育成拠点で実施する政策について、平成30年度中に国が具体化する内容を見極めた上で、拠点化計画の見直しに向けた検討を進めてまいります。

(再稼働と使用済燃料の中間貯蔵)
 高浜3・4号機については、今年3月、大阪高裁において運転差し止めの仮処分を取り消す決定がなされまして、7月から運転を再開しています。今年1月にはクレーン倒壊事故もありましたが、事業者はこれを教訓として油断、不注意に陥ることなく安全運転に専念し、実績を積み重ねることが重要だと思います。県としては、運転再開に先立ち、事業者に対し、情報を共有して慎重に作業を行い、あらゆる情報を県民・国民にオープンにするよう求めたところです。
 また、大飯3・4号機については、今年5月に原子炉設置変更許可を受け、資源エネルギー庁から地元の理解を得て再稼働を進めていきたいとの政府方針の説明がありました。今後、工事計画認可、保安規定認可の2つの手続きが残っていますので、県としてはそうした手続き全体を見て判断したいと考えています。
 原子力発電の重要性や安全性について、電力消費地に対して国が説明を尽くし国民理解を深め、使用済燃料の中間貯蔵施設の県外立地については、国が当事者意識を持ち前面に立って具体的な対策を進めるよう強く求めてまいります。使用済燃料については、原子力発電は引き受けてきましたが、使用済燃料の貯蔵まで引き受ける義務はありませんので、これまで一貫して県外に設置するよう国や事業者に求めてきました。現在、電力事業者は県外の中間貯蔵施設について、2020年ごろの計画地点確定、2030年ごろの操業開始を計画しています。一方、国は一昨年秋に使用済燃料対策推進協議会を設け、事業者の計画を進行管理することになっていますが、依然として、県外立地については具体的な姿がまだ示されていません。このため、高浜3・4号機の運転再開の際には、中間貯蔵施設に関する約束の遵守を強く求めた上で運転再開の手続きをとるよう伝えています。今後の大飯3・4号機の再稼働に向けた安全確認の際にも、同様に計画通りの実行を強く求めてまいります。

(40年超運転・廃炉)
 高浜1・2号機については昨年6月に、美浜3号機については同年11月に運転期間延長の認可を得ました。40年を超える運転延長はこれまでに経験のないことでありますので、より慎重で厳格な対応が必要です。このうち美浜3号機については、今年6月、事業者から安全性向上対策のための工事概要や工程の報告を受けました。その際、県からは概ね1年ごとに工事状況や理解活動の実績について報告するよう求めました。国に対しても運転延長の必要性や安全性についてどういう問題があり、安全上何が違うのかなど、国が一層前面に立って、分かりやすく丁寧に国民・県民への説明を積み重ねるよう引き続き強く求めていきます。
 廃炉に関しては今年4月、美浜1・2号機と敦賀1号機について各事業者が申請していた廃止措置計画が原子力規制委員会から認可されました。県では事業者から地元企業の発展と雇用促進に向けた取り組みなどについて報告を受け、その際、安全確保を最優先に廃炉工事への地元企業の参入促進に努めるよう要請したところです。
 また、電力事業者と県内企業による廃炉ビジネスの共同研究が本格化してきていますので、引き続き、県内企業の廃炉ビジネスへの参入を応援し、事業者に対しては、県内企業が廃止措置工事に参入しやすくなるよう、具体的で分かりやすい説明を求めていきます。

6 「福井しあわせ元気」国体・障スポの成功 

 最後のお話になりますが、福井しあわせ元気国体・障害者スポーツ大会がいよいよ来年開催となります。今日ご出席の皆さんには格段のご支援をいただいていることにお礼申し上げます。現在の準備状況などについてお話を申し上げます。
 国体・障スポの舞台となる競技会場は、新築や改修が必要な43施設のうち、9割にあたる39施設の整備が今年度中に完了する予定です。大会期間中は選手・監督など延べ16万人の関係者が本県に訪れる見込みですので、宿泊施設はもとより、バス、タクシー、飲食店、土産品売場、ボランティアなど県全体でおもてなしの準備を進めてまいります。
 本県開催の特色として「国体と障スポの融合」を掲げています。車椅子バスケットボールや車いすテニスといった一部の障スポ競技を全国で初めて国体会期中に開催するなど、県民のスポーツを通じた融合・交流を実施します。また、障スポ会期中も県内9市2町の会場での観戦・応援を県民や企業などに呼びかけ、大会後も障害者の社会参加等が進むよう盛り上げていきます。
 国体における総合優勝を目標に現在、競技力の向上と有力な選手の確保にも努めています。競技力の向上については、指定強化選手の県外遠征の機会を増やすことによる戦術強化や、優秀な指導者を招聘してその指導を受けてもらっています。また、選手の確保について、例えば、アスリートの県内就職を支援する「スポジョブふくい」では180名の有力選手を確保しており、来年までに220名の選手を確保することとしています。なお、「スポジョブふくい」や募金などにおいては、既に多くの企業にご賛同いただいております。あらためまして感謝申し上げますともに、引き続きのご協力をお願いしたいと思います。

 以上、さまざまな話を申し上げました。
 あらゆる地方自治体の活動については、われわれは地元として自助努力でやれることを全力でやらなければいけないわけであります。そうした上で国に対しては、新しい時代に合わせた考え方を、しっかり受けとめていただきたいと思います。最近はともしますと地方任せにして、これはあなたの仕事だということが意外と多いのですが、大事なことは国の仕事として必ずあるわけです。原子力の問題についてもわれわれ地元だけで全部はできません。原子力エネルギーについて国がどう責任を持ってこれから進めるかということが極めて大事なことです。国が態度をはっきりして、国民に信頼ある説明をしなければ、安全・安心の議論にはつながっていかないのであります。

 以上でございます。ありがとうございました。

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