内外情勢調査会知事講演 「交流新時代の創造 ―集中から分散へ―」

最終更新日 2018年8月7日ページID 040150

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 このページは、平成30年8月7日(火)にユアーズホテルフクイ において行われた、内外情勢調査会(事務局:時事通信社) の知事講演「交流新時代の創造 ―集中から分散へ― 」の内容をまとめたものです。

  

 それでは「交流新時代の創造―集中から分散へ―」というテーマでお話をいたします。
 本日ご出席の皆さんは日頃から、大都市と地方の問題のほか、それぞれお住まいの市町や福井県をどうすべきか考えていらっしゃる方ばかりだと思いますので、私が申し上げる話を材料にして、さらに考えを深めていただきたいと考えています。
 なお、本日の話には今の段階では結論をはっきり出すことが困難な事柄もありますので、皆さんにもご一緒に考えていただきたいと思います。また、そういうお気持ちでお聞きください。
 先月、北海道に2回出張いたしました。1回目は全国知事会議です。夏に開催することが多く、来年は富山県で開催される予定です。2回目はふるさと納税に関する講演であります。私がふるさと納税を提唱してちょうど10年が経ちますが、返礼品などいろいろな課題が出てきている中、もっと健全にこの制度を育てなければならないということで、全国の自治体の首長、70~80人に集まっていただいて自治体連合をつくりました。その中で模範的といいますか、頑張っておられる町の一つに、帯広の北に位置する上士幌町(かみしほろちょう)というところがあります。今回、この町から講演を頼まれたのですが、ふるさと納税に関する講演は、私としても初めてでした。
 上士幌町は人口が約5,000人で、福井でいうと池田町の人口の2倍ぐらいの町です。町内の広々としたところを見渡しますと、今の時期はジャガイモ畑のほか飼料用のトウモロコシ畑が広がっており、牛のふんを使ってバイオ発電を行うといった活動をしている町であります。一方で、この町のふるさと納税額は、昨年度実績で16億円を超え、人口を見ても最近は転入超過になっており、昨年から71人増えたそうです。また、ふるさと納税のおかげで、乳製品の工場ができたとか、ある有志の女性に無理をして進出してもらったカフェが、大繁盛しているといった興味深い話を聞きました。実際そこにも行きました。
 全国知事会議は札幌で開催され、今回、何十年か振りに札幌に参りました。札幌も人口は増えていますが、一方でかなりの人が東京に出てしまっている状態です。ですから、北海道全体も課題が多いという感じを抱いています。いずれにしましても、人口減少、高齢化が進む中で 出生率が低い東京への人口集中が依然として止まらないわけです。これをどうするか。
 最近、集中を支持する人たちがいます。
 彼らは、東京に人が集まれば日本経済全体の生産性が高まると言うのです。それから、東京に集まる人は、これは学生でも社会人でもそうであって、合理的な経済活動をしている人たちだという見方をしています。最近、新聞やいろいろな雑誌で、高度知識・集約型産業が発展している東京で人材が活躍すると、日本が良くなるのだから、一方で地方は地方としていろいろ工夫されたらいかがか、という風潮が見られます。これをどう理解するか。私はこの種の考え方を一つの課題として捉え、打破したいと思っています。本日はこういう問題意識を持ってお話しいたします。
 東京は待機児童も非常に多い状況にあります。昨年の4月現在で約8,500人の待機児童がおり、これは全国の約3割を占めています。
 それから、いわゆる介護難民についてもあと5~6年後には13万人、全国の3割を東京が占めるといったデータも出ています。こういった点からも東京に人が集まることが果たして合理的な日本国民の行動なのか、あるいは経済成長に役立っているのかという話をせざるを得ないだろうと思い、本日のテーマといたしました。
 その他、県政の重要課題、そしていよいよ9月に迫った国体・障スポについてもお話しいたします。

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  内外情勢調査会で講演する西川福井県知事=8月7日、福井市内(時事通信)

 

1 東京一極集中の様相と弊害

(1)東京一極集中の現状

(人口流入のサイクル)
 まず、東京一極集中の現状についてお話しいたします。
3大都市圏(東京・大阪・名古屋)の転入超過の推移を見ますと、景気のよい時に3大都市特に東京に人が集まる傾向があります。
 私としては内閣の安定した時期に東京に人が集まるような感じがいたします。内閣が安定しているから景気がよいのかもしれませんし、景気がよいから内閣が選挙に勝って、また東京に人口が集まるのかなというような感じもあります。どっちが原因か、あるいは結果かわかりませんが、そうであれば景気がよくないほうが地方にとってはいいのか、というとそうも言えない難しい面があります。
 また、戦後から現在まで東京圏への人口流入の山は3つあります。
 1つ目の山は、1950年代半ば~70年代前半までの高度成長期です。
 これは我々のような世代には懐かしい時代です。この時代にはピークで1年間に40万人近くが東京に流入しています。
 2つ目の山は、オイルショック後の低成長期が明けてからバブル経済期までの間、1980年頃~90年代前半の時期です。
 冷戦が終わる直前であり、このころは各地に延びる新幹線や高速道路などのインフラが整備された時代でした。中曽根首相が比較的長期にわたって政権を担い、プラザ合意などが行われました。また、全国の総合開発計画は「全総」と呼ばれ、これに基づき開発拠点などの整備が進められました。
 3つ目の山は、バブル崩壊後~2010年頃までの間です。
 この時期には、青森や長野、九州などの新幹線の整備が部分的に完了します。それから、岸内閣の頃に制定された法律、すなわち、大都市に工場をあまり作らない、1,500㎡以上の大学の新増設もできない、ということを定めた「工場等制限法」という非常に重要な法律が、この頃に廃止されました。
 これにより東京23区の学部数や学生の数が非常に増えました。なお、このことに関しては、今年度から、首都圏への若者流出を防ぐため、東京23区内の大学について新設や定員増は10年間認めない、新規の学部・学科の設置は現状の定員の範囲内でしか認めない、という内容の法律が施行されています。
 このように、各時代における経済・社会情勢のもとで、東京圏への人口流入が生じたと言えます。

(人口集中と経済成長の相関)
 それでは人口集中と経済成長には、一体どんな関係があるのでしょうか。
 この人口と成長率という2つの指標については、バブル崩壊までの期間は、正の相関がありますが、1990年代後半からは相関がほとんどなく、むしろマイナスのような動きをしています。
 いずれにしても最近は、人口が流入している東京圏においても、一人当たりの都民所得や給与などが、他の地域より伸びていない状況にあります。ですから、東京に人が集まると成長が高まるなどという議論は、もう成り立たない時代ではないだろうかと思っています。
 それではなぜこんな状態で、東京にさらに人口が集中するのでしょうか。国民は合理的な行動をとっているのでしょうか。
 東京と地方の格差は縮まっているように見えますが、東京にそれでも集まるのはどうしてか。
 1つには企業の本社の東京圏への移転傾向が2010年頃から、特に2015年~2016年に強まっているという実態があります。
 2つには都市開発などさまざまな要因によって、東京への投資が増えていることです。地方圏の官民投資も増えてはいるのですが、全国に占める東京の官民投資は2016年には17%ぐらいまで拡大しています。2013年頃は13%ぐらいでしたので、人口比を大きく上回る形でお金が東京に集まっている状況です。
 このように東京への投資が増えることにより、有効求人倍率が大きく上昇しており、工事の人材なども不足気味であるというのが実際であります。これはオリンピックなどの影響もあるかもしれません。
 なお、このオリンピックですけれども、戦後にオリンピックを2回開催した都市を皆さんご存知でしょうか。
 ロンドンは戦後の1948年と2012年に開催しています。ロサンゼルスは1984年に開催し、これから10年後の2028年に開催が予定されています。このほかアテネ、パリだったと思いますが、このように戦前を含めても2回開催した都市は限られています。そして東京は1964年、2020年ということですので、オリンピックの歴史からすると近接して2回開催するという感じがします。

(2)一極集中の弊害と持続可能性
(少子化の加速懸念)
 次に東京一極集中の弊害について申し上げます。
 一つは少子化が加速するのではないかという問題です。
 これまでは、地方が教育した人材を都市に供給し、東京はその恩恵を受けて経済規模を拡大してきましたが、こうしたモデルは成り立たなくなっています。
 地方の人口減少は深刻化していますし、東京に人口は集まるけれども、出生率の低い東京においては出生率がほとんど向上しないということであります。
 仮に、この20年間で福井から東京に流出した人口に出生率の差を掛けて福井県の人口が何人増えるかという試算をしたところ、3,500人という結果でした。池田町など人口が比較的多くない町に等しい人口が確保できたのではないか、こうした人口が日本全体としても各地方で失われているということだと思います。

(過密による経済損失)
 過密による経済損失も軽視できません。
 国土交通省によれば、日本の道路交通事情として、渋滞のために移動時間が平均して4割ほど余計にかかっているそうです。人数と時間を掛けた億人・時間という概念を用いますと、日本全体では1年間に50億人・時間、つまり約280万人分の労働力に相当するロスが生じています。東京圏では全国の2割超に当たる11億人・時間の渋滞が発生しているということであり、金額に換算すると2兆6,000億円の損失になるという結果が出ています。

(最大のリスクは首都直下型地震)
 何より問題なのは、経済の問題とはやや違いますが、首都の災害リスクです。
 私は以前、国土庁の防災部局にいたことがありますが、その頃から東京で直下型地震が起きることに対し非常に警戒していました。首都直下型地震は、今後30年のうちに70%の確率で発生すると言われています。先般、原子力委員会の原子力損害賠償制度専門部会に出席した際に霞が関の辺りを通りました。30年後に70%の確率で地震が起きるのに東京湾岸に摩天楼というのでしょうか、これほど人工物を集積させて一体何を考えているのかという問題です。災害のリスクということを真剣に考えなければなりません。
 この地震により亡くなる人は、2万3,000人と想定されています。東日本大震災で亡くなった方は震災関連死を含めて1万9,000人ですから、首都東京がそれ以上の状態になってしまうということです。さらに、土木学会が試算した首都直下型地震による建物等の被害額と20年間の経済活動への影響を考慮した経済被害額は、778兆円であり、GDPを上回る数字になります。
 いずれにしてもこういう状況の中、首都集中ということを呑気に扱うことがそもそも問題だと考えています。ただ、集中是正を主張する論拠、説得力を持たせるかということについてはなお課題があるように思います。

(集中の最適規模)

 それでは大都市への人口集中はどの程度が適当なのでしょうか。
 1955年当時には、東京圏の人口は全国の17%を占めていました。今は30%となっています。世界を見ますと、韓国のソウルは47%と高く、フランスのパリが16%、イギリスのロンドンが16%、ドイツのベルリンが13%、アメリカのニューヨークが7%という状況です。
 海外においても研究がなされています。例えばアメリカのブラウン大学が行った実証分析によれば、経済が発展するにつれて人口集積のメリットは薄れるということです。この考えが全てではありませんけれども、世界の100か国のデータをもとに都市集中と経済の影響などを調べており、その結果を見ますと最適な集中度は2割~3割、特に経済が発展している国は2割程度とされています。これに照らせば今の東京はさらに1割高いという状況にありますので、この東京の集中度を1960年~70年ぐらいの水準にリセットするような議論にしないといけないだろうと思います。


(3)「都市と地方の格差」是正のための制度改革

(税制の課題とふるさと納税)

 都市と地方の格差是正のためには、国が新しい国土計画の発想で政策を講じないといけないのですが、残念ながら今のところそういった動きはほとんどありません。東京23区の大学規制や地方創生などを言っていますが、あまり強い意志を持っているようには見えません。
 私は10年前に「ふるさと納税」を提案いたしました。
 これも地方やふるさとを見直すという趣旨の制度でありまして、ささやかな制度ではありますけれども、日本国民のライフサイクル・バランスを税制や寄付によって少しでも是正しようというものでありました。「ふるさと納税」の寄付額は当初、全国で約80億円でしたが、10年が経った今では3,600億円を超えています。さきほど述べた北海道の町も大きな寄付を受けている自治体の一つであります。
 ここでは詳しいことは申し上げませんが、東京圏が潤っているのだから、「ふるさと納税」を使ってライフサイクル・バランスを少しでも解消しようというのが私の考えであります。今回の全国知事会議には東京都知事がお見えになっていましたが、損をしているなんてことはおっしゃいませんでした。
 東京圏は毎年12万人の若者を受け入れることにより、私の計算では年間の受益額が2兆1,600億円にもなります。細かい計算内容は申し上げませんが、福井県の場合、出生から高校卒業までにかける行政サービスの総額は一人当たり1,800万円であり、これに12万人を掛けた分の受益があるという計算です。この数字を議論するつもりはありませんが、やはり地方から東京に集まっている感じがします。経済合理性という考え方もありますが、リュックにお金を背負って東京に行っているならともかく、実際にこれだけのお金が東京に行っていることが目に見えないのです。これに対し、「ふるさと納税」はお金が目に見えますので、この制度を通して、目に見える形で物事を考えていくことが大事だと思います。

(参議院の合区問題)
 次に参議院の合区の問題であります。
 今回、公職選挙法が改正され、一票の格差の問題を背景に参議院の選挙制度が変わりました。埼玉県の定数を2議席増やし、比例区に特定枠を導入した上で定数を4議席増やし、計6議席増やしました。
 こういう手法には問題があります。徳島県と高知県や鳥取県と島根県などの合区が残ったままだからです。合区の2県から2人分の議員を選べますよ、というだけで何も解決していません。あまつさえ、埼玉県の議席が増えたことによって、都市と地方の政治力格差は広がっており、問題です。
 私としては、特に参議院については鳥取でも島根でも福井でも同じように、地域の代表を3年に1回の選挙において必ず各県1人は出せるという制度にすべきだと考えています。
 こういうことは憲法に書かなければならない、と言う学者の方も一部おられます。しかし、憲法をよく読むとわかりますが、参議院選挙で地域の代表として各県1人を選ぶことはできないということはどこにも書いてありません。憲法を改正して地域代表の制度を設けるなどということは大変なことです。私は以前、全国知事会の憲法問題特別委員会の委員長を務めていましたが、公職選挙法は憲法に関わらず改正が可能と考えており、私の考えは公職選挙法を改正し、地域代表を選ぶことができる制度にするという案です。地方の国会議員の数が減らないように、大都市圏の国会議員が増えないように、ぜひこういうことを考えたいと思います。
 戦後70年間にわたり、毎年地方から国会議員が1人減り、そのかわりに大都市圏の国会議員が増えたことになっています。そういう状況ですので、地方のことを考えるパワーというのがどうしても弱くなります。地方の問題に対して応援してくれる政治力が少ないということです。今回、埼玉県で議員が2人増えたからといって埼玉の選挙区の有権者が喜んでいるかというとほとんど意識がないのではないでしょうか。ですから、こういう制度を毎回続けていくことは大いなる課題であり、政治における地方と大都市の問題を解決しなければなりません。


(ふるさと投票)
 地方から東京に行く学生などは、4年間東京にいても多くの方が住民票を移しません。保護者の方からすれば、福井に戻ってきてほしいから住民票を移さないでほしいという考えもあります。学生の皆さんとしても、旧交を温められる成人式などの案内が確実に届くようにということのために、住民票を移さない方がおられます。そういう人たちが東京だけでなく全国にたくさんいます。また、住民票を東京に移せば選挙の投票権も東京になりますが、誰に投票すればいいのかわからない、興味もない、その結果、選挙にも行かないということになります。こういう状況ですから、特に19歳や20歳の投票棄権率は非常に高いです。
 現在、国政選挙に限らずどのような選挙でも、住民票のあるところでしか投票できません。そこで提案したいのが、国政選挙に限り住所地と本籍地のいずれかから投票する選挙区を選択できる仕組み、つまり住所地である東京で、福井県の選挙に投票したい方はそれを選択できるという「ふるさと投票」制度です。
 その仕組みは不在者投票と同様に、投票用紙の記入は今住んでいる住所地の投票所で行い、その投票用紙を選挙管理委員会が本籍地に郵送する形であります。いろいろな手続や名簿の調整などは多少必要ですが、それが大きな障害になるとは思えません。

この制度には一つだけ工夫があります。この制度を適用することによって上昇すると見込まれる福井県の投票率を、住んでいる東京都の自治体、例えば千代田区民の投票率に換算してはどうかということです。東京都の選挙管理委員会の一番の関心事は投票率を上げることです。投票率が下がりますとそこの選挙管理委員会の人たちは大変だという話を聞いたことがあります。ですから、東京にいる人たちが福井や鳥取など本籍地の候補者に投票してその投票率が上がった分は、東京都の投票率に振り替えるのです。
 そしてこの「ふるさと投票」には個人のレベル、全国のレベルの両方において、政治課題を解決する意義があります。個人レベルでは投票権の権利行使(地域的選択権)の拡大を通して、有権者の政治参加の主体性と投票意識の向上を図ることができます。全国レベルでは都市に住みながら故郷に投票する地方の有権者となる道を開くことにより、有権者数の偏在を是正し、結果として都市と地方の議員定数の格差を是正することができます。
 この「ふるさと投票」制度ができるかどうかです。東京圏に住んでいて住民票を移していない方は全体の1割近く、約420万人と見込まれますので、一票の格差がこれでかなり解消されると思います。


(都市人材による地方貢献)
 次に都市人材による地方貢献についてお話しいたします。
 最近、東京から地方への人の流れを作るものとして、都市部の企業社員などが、一定の期間、地方で働きながら地域貢献を行うことが提唱されています。
 具体的には、都市で活躍しているビジネスマンや若い人たちが、地方において地域資源のブランド化やまちづくりのプロジェクトなどに関わるというものです。
 福井県においても今年度から4市町(福井市、鯖江市、美浜町、若狭町)において、都市人材による地域貢献を促進する事業を始めています。福井に来て各分野のことを経験していただきたいと考えています。
 さきほど述べたように、東京圏に物事が集中することが日本の経済にとって本当に生産性が向上するのかという疑念や、通勤の問題や災害リスクもある中、こういった施策を人口や企業の配置と国土のバランスを取るための端緒とし、東京から地方への人の動きを社会の仕組みとして定着させる方法を考える必要があります。
 以上、東京一極集中の現状と課題、都市と地方の格差是正について申し上げましたが、いずれにしましても人口が減少していく社会において、なおも人口集積のメリットを追求していくのは限界があります。その一方で東京に人口が集中すること、そして大都市と地方の問題には特効薬がありませんので、一つ一つ課題を解決していくべきだと考えます。
 それでは次に、具体的な福井県の今後の課題についてお話しいたします。

2 平成30年2月豪雪への対応
 まず、今年2月の大雪に関する対策について申し上げます。少し季節外れでありますし、むしろ今は西日本における土砂災害などが議論になっています。いずれにしても大災害はどこでどう起きるかわかりません。来年はこちらで大雨、あちらで大雪ということもあり得るという、先が読めない状況でありますので、これをどう解決するかということになります。


(大雪の被害と対応)
 今年2月の大雪は、福井市における積雪が140センチを超え、大野市と越前市では観測史上最大の積雪となるなど、昭和56年の豪雪以来37年ぶりの大雪となりました。北陸自動車道が除雪作業により24時間以上通行止めとなった影響により、並行する国道8号では最大1,500台の車両が滞留し、3日間にわたり通行止めとなりました。また人的被害のほか農業ハウスなどの物的被害も発生し、ガソリンなどの生活物資が一時的に不足するといった事態も生じました。県民の皆さんも大変な思いをされたかと思います。
 ちなみに昭和56年当時と現在を比較しますと、高齢者のみの世帯数が7倍になり、自動車台数が2倍になったほか、総合スーパー、コンビニエンスストアといった店舗が地元の商店に置き換わって増加しているなど、地域社会が大きく変化しています。
 今回の大雪の事態に対し、私自身、菅官房長官や世耕経済産業大臣をはじめ、政府関係者、JR西日本、NEXCO中日本等の交通事業者の社長に業務の対応を要請しました。また、異例ながら県の災害対策本部会議に国土交通省や公共交通機関の責任者に参加いただき、早期の国道の通行止め解除や公共交通機関の部分的な運行再開等を直接求めました。

(次の冬に備えた対策)
 今回の大雪の経験を次に生かすことが重要です。
 このため県では、市町、消防、除雪業者、鉄道・バス事業者、石油販売関連企業などさまざまな関係者から聞き取りを行い、課題を整理した上で、気象予報、道路除雪、物流など9項目にわたり実効性のある対応策をまとめました。
 特に問題だったのは、北陸自動車道と国道8号を止めたことでした。このため、原則としてこの道路を止めてはならないということを国に強く申し入れています。国としても除雪体制を強化した上で、国道8号については牽引車両の配備、車の退避場所の設置、あるいは他の自治体などからの応援を考えているようです。また県としましても、6月補正予算において除雪機械の増強やGPSの導入、道路監視カメラの増設といった予算を計上しましたので、次の冬に備えるべくこうした対策を着実に実行していきます。
 天気予報について非常に大まかな部分までは予測できますが、さらに詳細な予測については今回の西日本豪雨でも指摘されています。雪の場合、雨だけでなく風の状況を一緒に考えないと予測ができないなど複雑ですので、大雨以上に予測が難しいのです。今回の大雪をもとに、時間単位の将来予測ができないか、今、気象庁と議論をしておりますので、今年の冬には、よりわかりやすい予測となるようにしたいです。
 また、県民や企業の皆さんにも実行していただきたいことがあります。
 今回の大雪の際にも私の方から県民に呼びかけましたが、こういった大雪の時にむやみに外に出ますとそれだけで除雪が滞りますので、短期間のことですから、可能な限り外出を控えるようお願いします。また企業の方もいろいろと大変だと思いますが、数日間のことですので企業活動等に関する工夫をお願いいたします。
 大雪の時はガソリンの問題もありました。マイカーはガソリンを満タンにしておくと約2週間もつそうです。ですから、雪が降るおそれがある時はそれぞれがガソリンを満タンにしておくといった備えも大切です。また、ガソリンスタンドには地下にタンクがありますが、満タンにすると4日はもつそうですので、みんなでそういう準備をしてはどうかと思います。もちろんガソリンの輸送に最も関係する道路をちゃんと除雪しなければならないのは当然です。

(除雪対策の費用)
 それから除雪の対策費用のお話を申し上げます。同じ災害でも、除雪費などの大雪対策の費用は、大雨による土砂災害の復旧費などとは形態が異なります。つまり、大雨の場合は土砂災害が起こった後、土砂の除去に幾らかかるといった発生事後の話になりますが、大雪の場合は除雪そのものにお金がかかりますので、大雪が終わるとともに除雪も終わり、お金も使い尽くしてしまっているということなのです。ですから、土砂災害の場合はじっくり考えて対策を講じることができますが、除雪の判断はその瞬間に的確に行わないと無駄になりますし、合理的でないということです。2月には福井市内はこの点が大変でした。このため県や市町は今どこをどの程度除雪すべきか、あるいはこの箇所の除雪は要らない、この箇所は重要といった判断ができないと非効率ですし、除雪費もどんどん嵩んでいきますので、この点をこれからみんなでよく考えていく必要があると思います。
 
 3 北陸新幹線の整備とまちづくり
(1)北陸新幹線の整備

(金沢・敦賀間の建設費増額)
 次に北陸新幹線についてお話しします。
 いよいよ敦賀開業まで4年半となりました。県内においては、この3月までに全区間の土木工事の契約を終えています。新北陸トンネルについては、延長約20kmのうち7割弱の掘削を終えました。九頭竜川橋りょうについては、8基の橋脚等が全て完成しており、その上部に架設する橋げたが全体の7割まで進捗しています。このように事業が順調に進んでおりますので、まず大丈夫だろうと思いますが、これから来年度にかけて工事の最盛期を迎えますから、今後、建設資材である生コンクリートの供給が逼迫するおそれがあります。鉄道・運輸機構、県庁内関係部局による対策会議を設け、需給見通しを確認し骨材やミキサー車の確保などの課題について対策を協議しています。骨材や生コンクリートの増産を業界団体にお願いするとともに、県外からのミキサー車の調達などの対策を講じ、2022年度末の開業に向け、工事の進捗管理に万全を期していきます。
 金沢・敦賀間の建設費は、1兆1,600億円と見込んでいますが、さきほどの話の中で課題として申し上げた、人件費の高騰などにより2,200億円程度増え、1兆4,000億円ほどになります。このことについて、国土交通省と自民党のワーキングチームで議論し、財源が不足するということにならないようにしていただく必要があります。
 北陸新幹線の建設費の財源構成は、国費が755億円であり、その他としてJRによる貸付料などいろいろなものがあります。JRの法人税は数年前の2倍になっていますから、755億円の国費をさらに増やし、また貸付料も増やすことにより、この2,000億円余りの建設費増をカバーするよう要請し、実現したいと考えています。この機会をとらえて一度に国費を増額できれば、次の敦賀以西の建設財源の確保にも寄与するなど、よい方向につなげることが可能ですから、このように進めたいと思います。

(並行在来線の課題) 
 並行在来線については、8月2日に「経営・運行に関する基本方針」を決定し、新たに設立する第三セクター会社が、ダイヤや設備投資等の経営判断を迅速に行える経営形態とすること、増便や快速列車の運行、新駅設置等によって利用者増加を図ることとしています。
 並行在来線に関しては石川県、富山県の先例がありますので、これを見ますと内容が大体わかると思います。石川県では第三セクター方式で「IRいしかわ鉄道」を設立しております。開業前は1日109本の電車が走っていましたが、開業後は117本と8本増便しています。運賃は14%増しとなっていますが、通学定期の料金は変えないという対策を講じています。また富山県では同じく第三セクター方式で「あいの風とやま鉄道」を設立しています。開業前は1日127本の電車が走っていましたが、開業後は148本に増便し、運賃は12%増しという状況です。本県の場合もこういった事例を参考にしながら、便利にしつつ、できるだけ運賃が上がらないようにしたいと思っています。

(関西方面とのアクセス)
 北陸新幹線の敦賀開業後は、関西・中京方面とのアクセスが重要になります。
 特に関西方面とのアクセスに関して、7月に九州新幹線長崎ルートへのフリーゲージトレイン導入が正式に断念されました。
 これは北陸新幹線への導入の前提となっていたものでありますし、さらに雪対策なども含めますと開発は早くても2030年度頃までかかるとされていますので、北陸新幹線への導入は事実上困難な状況となりました。
 フリーゲージトレインが導入されない場合、敦賀駅における乗換えが必要となりますので、関西方面への時間短縮効果が薄れるという問題があります。一方で特急運行を継続することは、新幹線との二重運行により、経費が重複してかかり、新幹線の建設財源にも影響します。また、旅客列車に対する貨物列車の走行割合が相対的に低下し、貨物線路使用料が減少するなど、並行在来線の収支にも影響を及ぼすことになります。
 石井国土交通大臣は7月の会見において、北陸新幹線へのフリーゲージトレイン導入についてあらためて検討すると発言されていましたが、国として北陸新幹線への導入断念を速やかに明らかにし、必要な代替策を講じるべきと考えます。

(中京方面とのアクセス)
 中京方面については敦賀開業の5年後に、リニア中央新幹線が名古屋まで開通する予定となっています。これにより、場合によっては金沢や富山よりも福井や敦賀から名古屋を通った方が東京により早く行けるようになります。これをさらに早くする工夫がこれからの大きな課題だと思います。
 この中京方面のアクセス向上については、昨年度から中部圏6県1市(福井、石川、富山、滋賀、岐阜、愛知、名古屋市)による事務レベルの検討会を設けていまして、特急しらさぎの運行本数の維持・拡大、利用者の料金負担の軽減などについて検討しています。今後も引き続き、北陸と中京の両エリアの課題としてさまざまな方法を考えていきます。

(2)新幹線開業効果を生かしたまちづくり
 北陸新幹線開業に当たっては、観光などにより交流人口を拡大することが極めて重要であります。観光振興に対する市町や民間の期待も非常に大きいものがあります。
 新幹線開業効果を生かしたまちづくりについては「福井県高速交通開通アクション・プログラム」を作っています。全県的な誘客の核となる恐竜博物館の充実や、現在それぞれの市町で頑張っていただいている観光拠点の整備への支援などハード面の充実を図っています。また、恐竜、食、歴史などを「ふくいブランド」として戦略的に売り込み、観光客の増加を図ってきた結果、昨年の観光客入込数は1,600万人となり、観光消費額は県内全体で1,257億円という過去最高額になりました。
 本日の新聞に「じゃらん」という旅行予約サイトにおける福井県の人気度の記事が載っていました。子供が楽しめる、若者が楽しめるなどいろいろな指標で評価をしていました。もちろんこれが全てではありませんが、右肩上がりになるように施策を進めていかなければならないのは事実であります。これから特に北陸新幹線、中部縦貫自動車道などが整備されますので、できるだけ福井県の人気が上がるよう頑張りたいと思います。
 また、各市町において観光拠点となる新しい施設の整備も進んでいます。
 福井市においては、北陸新幹線敦賀開業までの開館を目指し、一乗谷朝倉氏遺跡博物館を整備していますし、永平寺町においては8月11日に既存の参道の右側に位置する旧参道の復元、さらに山際を流れる永平寺川の修景整備が完成します。また、本山の宿坊ホテルも1年後には完成します。奥越地域においては、北陸新幹線敦賀開業の頃に新しい恐竜博物館を整備できるよう県議会と議論を重ねており、今年度のできるだけ早い時期に結論を出したいと考えています。丹南地域においては、昨年10月に「越前古窯(こよう)博物館」を開館しました。越前焼は昨年、日本遺産に認定されましたので、鯖江市の漆器、越前市の和紙・打刃物などと連携しブランド力を高めていきます。嶺南地域においては、若狭町に建設中の年縞博物館を国体開幕前の9月15日にオープンする予定です。特に敦賀市はこれから交通の結節点になりますので、人道の港敦賀ムゼウムの移転やシアターの新設などいろいろなことに対して応援していきたいと思っています。
 こうしたハード整備と並行して、外国人観光客や国内外の会議・大会等の誘致拡大、地域資源を生かした県産品の開発、人材育成などさまざまな施策を総合的に進めていくこととしています。

4 医療・福祉政策   
(全国トップクラスの健康寿命)
 次に医療・福祉について申し上げます。
 本県の健康寿命は全国トップクラスであります。がん検診の受診促進、食生活改善活動など、これまで進めてきた施策が総合的にこの結果に結びついたものと考えています。
 がん検診については、10年前に「福井県がん対策推進計画」を策定し、全国で初めて検診料金を県内で統一し、住所地以外の登録医療機関でも受診できる体制を整備しました。この結果、平成28年度からは県民の半数以上が受診するなど受診率が向上しています。
 食生活改善活動については、平成27年度から食生活の見直しなどによる健康づくりを推進する「わがまち健康推進員」が職場や家庭における減塩を進めた結果、県民の食塩摂取量が平成24年の全国34位から15位と大きく改善しています。
 介護関係では、高齢者向けに社会参加などを促進し、身体機能の低下(フレイル)を予防する事業を県内全域に拡大する予定です。また、県民に運動習慣を身に付けるよう、歩きやすい靴で通勤する「スニーカービズ」を推奨しており、9月16日には鈴木大地スポーツ庁長官をお招きしウオ―キングイベントを行います。それから、最近話題になっている受動喫煙の防止については禁煙・分煙といった対策を進めたいと思います。

(ドクターヘリの導入)
 医療に関してはドクターヘリの導入を検討しています。

ドクターヘリは現場における医師の治療開始までの時間が早くなり、救命や回復の効果が高いと言われています。福井県は県内交通が便利ですので救急要請から病院搬送までの時間は全国第三位と短いのです。しかしドクターヘリを導入するとさらに早くなります。まずは隣県の滋賀県や岐阜県のドクターヘリをお借りして様子を見ながら、福井県として単独で導入すべきかどうかを決めたいと考えています。昨年から両県との協議を進めてきており、嶺南地域をカバーする滋賀県との共同運航を9月下旬には開始したいと考えています。奥越地域をカバーする岐阜県との共同運航については協議を継続していきます。
 なお、滋賀県等のドクターヘリを活用する際には、1回につき20万円程度かかりますが、導入する場合は初期費用に約4億円、毎年の運航費用に約2億円~3億円がかかります。こうした規模感でご理解ください。

(陽子線がん治療センターの利用促進)
 平成22年度に福井県立病院内に整備した陽子線がん治療センターについてであります。これまで公的医療保険の対象は小児がんだけでしたが、今年4月から前立腺や頭頸部等のがんについても対象となりました。センターの利用者数は年間約120人ですが、今年度は7月末の時点で昨年度の38人から57人へと増えています。
 今後も公開講座の実施などにより、陽子線がん治療の効果を広くPRするとともに、治療の効果と実績を積み上げ、他のがんへの公的医療保険の適用を国に働きかけていきたいと考えています。皆さんのご親戚やお知り合いの方で利用したいというお話がありましたら、ぜひご相談いただきたいと思います。

5 教育政策
(学力のさらなる向上)
 次に教育政策について申し上げます。
 先日、文部科学省が毎年実施している全国学力・学習状況調査の結果が出ました。幸いにも福井県は11年連続して全国トップクラスであります。これは、子どもたちの努力はもちろんのこと、教員の熱心な指導や家庭や地域における教育などの結果だと考えています。
 福井県独自の施策もこれまで講じてきました。平成16年から少人数学級制を導入し、平成23年からは小中高の発達段階に応じた教育を行う「福井型18年教育」を実施しています。特に平成20年から実施している中高生対象の「ふくい理数グランプリ」は、昨年の参加者が初年度の約8倍の1,700人になるなど理数好きの生徒の裾野が広がるとともにトップ層の生徒の力も伸びてきていると感じています。
 2020年から全国の小学校において英語の授業が始まることになっており、本県はこれを2年前倒して今年から実施しています。
 この全国学力・学習状況調査については、最近は秋田県や富山県、石川県が頑張っており、いろいろと即効性のある対策を講じています。即効性も基礎力につながれば有効だと思っており、一方で地力をつけるという本県の地道な努力を進めていきたいと思います。
 また、この調査自体が、知識を活用するということから、いわゆる「考える力」を試す方向に徐々に変わってきているようです。この調査の問題は新聞に載っていますので一度解いていただくと、この文部科学省の「考える力」という意味が何なのか、文部科学省が何を目指しているのかがよく分かると思います。私見によれば、やや独断かもしれませんが、意外と「考える力」ということではないのです。何だと思いますか。福井県の場合、特に国語の点数が良くないので問題をちょっと見てみたのですが、最近は日常的な説明書やチラシなどそのものを見て作文するというものでした。
 この「考える力」について私なりの結論を申し上げますと、それは「注意する力」ではないかと思うのです。注意散漫でなく、どこを見てどこに注目すればいいかという力だと私は理解します。もう一つは「確認をする力」です。算数でいうと検算です。答えを出してもう一度答えが合っているか確かめる。これは人生においても極めて重要です。注意散漫で物事は解決しません。「注意する力」と「確認する力」をしっかり教えることが「考える力」のもとになるものと私なりに思っています。

(福井県立大学の新学部・学科創設)
 福井県立大学については、新たな中期目標・計画を策定しています。

 検討段階ではありますが、人材育成を強化するための新学部・学科の創設、社会人の学び直しを促す公開講座の開講による地域貢献、留学生の受入・派遣の促進による国際交流などを進めていきたいと考えています。
 特に新学部・学科については、地方創生を担う人材を育成するため、「農」や「水産」などといった専門分野や、「観光・まちづくり」などの地域の課題解決に必要な力を備えた人材を養成していくこととしています。また、古生物学関係の新学部を設置し、幅広く他の仕事にも採用されるような人材を育て、恐竜や年縞といった本県独自の地域資源を活用した世界トップレベルの研究・教育を進め、他の公立大学と連携協力しながら差別化も図っていきます。

6 産業政策
(人手不足対策)
 次に産業政策について申し上げます。
 県内の経済情勢については、県独自の調査や日本銀行福井事務所、福井財務事務所等の調査によれば堅調に推移しているとのことです。
 中長期的には人口、特に生産年齢人口の減少や、国内市場の縮小が懸念される一方、AI・IoT等の技術革新により産業や働き方に大きな変化が生じるとの予測もあります。
 こういった中、現在、人手不足という課題があります。これは県内企業の皆さんにとって最大の課題の一つだと思いますし、一緒に解決しなければなりません。
 福井県は有効求人倍率が東京に次いで全国2位と高い状況にあります。その要因は、生産年齢人口の減少という構造的要因に加え、共働きが浸透し、女性・高齢者ともに就業率がすでに高いこと、電子部品・デバイス製造業や情報通信など技術力の高い企業が高い雇用意欲を維持していることなどが考えられます。こうした状況のもと、県としては「人材の確保」と「生産性の向上」の両面から県内企業を応援していくこととしています。
 また、企業が抱える課題は業種や規模によりさまざまですので、個別の状況に応じたカテゴリーごとの支援が必要です。このため、今年4月、福井商工会議所とともに「福井県人材確保支援センター」を同所内に開設しました。このセンターでは人材確保はもとより、働き方改革、人材育成、高齢者や女性の活躍などの相談にワンストップで対応していますのでぜひご利用いただきたいと思います。

(AI・IoTの導入支援)
 生産性の向上についてはAI・IoTを導入する必要性が指摘されていますが、大企業に比べて中小企業では費用対効果が十分見えないようなこともあり、導入に消極的になりがちな企業が多いと思われます。
 県としては経営者自らがAI・IoT導入に積極的に取り組んでもらい、これを応援するため、専門家によるプロジェクトチームを企業に派遣するなど実情に応じた提案を行っています。また、「ふくいAIビジネス・オープンラボ」を今年秋に開設する予定です。ここには導入効果を実感できる機器を設置するとともに個別の相談にも対応することとしています。

(新たな経済新戦略の検討)
 県では福井県の産業政策の骨組みを記した「福井経済新戦略」を2015年に改定し、さまざまな政策を進めてきました。しかし、AI・IoTの導入や、高速交通体系の整備に呼応した産業振興、人口減少や高齢化など新たな課題への対応が必要となっています。
 この変化を捉えてビジネスチャンスを生み出し、本県産業が躍進できるよう、2020年に予定していた次期改定を2年前倒して、今年度内に「新戦略」を策定することとしました。
 経済成長と県民一人ひとりの豊かさを増大させるため、福井の産業をどのように発展させていくのか、各分野の有識者等から幅広く意見を伺い、方向性を見出していきたいと考えています。

7 農業政策
(福井県の農業の現状)
 次に農業政策について申し上げます。
 福井県の農業についてはこれまで、高品質な米づくりの追求をベースにしつつ、園芸の拡大による農家収益の確保に向けた多角化へと大きく舵を切ってきました。この結果、米が年間350億円、園芸が年間200億円の産出額となっています。
 米づくりについては昨年試験販売した「いちほまれ」をはじめ、「コシヒカリ」、「ハナエチゼン」、「あきさかり」の4品種が食味ランキングにおいて最高となる特A評価を受けています。これは全国的に稀なことであります。特に「いちほまれ」は今年、昨年の5倍にあたる3,000トンを目標に本格生産を開始し、首都圏だけでなく、関西・中京方面へも販路を拡大していくこととしています。
 園芸については、若手農業者を対象に大規模ハウスの整備や、白ネギなど露地作物の生産拡大が進んできており、年間販売額はそれぞれ10億円近くになっています。特に大規模園芸ハウスについては、これまで嶺南地域を中心に13か所まで拡大してきましたが、嶺北地域でも整備の動きが出てきています。九頭竜川パイプラインも一昨年に全面通水し、冷たくきれいな水を使って農産物のブランド化を進める環境が整ったと言えます。

(これからの農業政策)
 北陸新幹線など高速交通体系の整備により人やモノの流れが変わりますので、この流れを農業分野にも最大限に生かし、農産物の需要を創出していくことが重要な課題だと考えています。また、県内1JA化による生産販売の効率化、福井県立大学の農学系新学科の創設検討など新しい動きもあります。こうした新しい動きを生かして福井の農業を力強い農業に発展させるよう、外部の学識経験者をはじめ、生産者、農業者団体、消費者からも意見を伺い、「ふくいの農業基本計画」を年度内に見直すこととしています。
 また水産業も福井県にとって極めて大事な産業であります。嶺北地域ではカニをはじめイカ、カレイ、サザエ、アワビなどが重要です。さらに嶺南地域においてこれからの観光あるいは新しい産業を考えますと、ふくいサーモン、マハタといった高級魚をきれいな環境の中で提供することが重要だと思います。稚魚の育成や定置網などの環境整備、レベルの高い養殖にしっかり投資する時代であります。福井県の得意なところといいますか、大事なところはそこだと思っています。この夏に北海道や青森などあちこちに行きましたが、あらためて福井の食べ物のおいしさ、特に水産物の新鮮さ、おいしさを実感しましたのでこれを売らない手はないと思います。
 ここで少し話を戻しますが、さきほど「じゃらん」のお話をいたしました。その中においしい食べ物という指標があります。実際の数値を見ますと年によりかなり乱高下しています。もっと右肩上がりで伸びていかないといけないのですが、なぜでしょうか。ここに来る車中で私なりに考えたのですが、例えばどこかで何かを食べた時に料金の中においしい食べ物のコストがどれだけ占めているかということがあります。おいしいと言われるお寿司屋さんで1万円払うと、そのほとんどが材料費など寿司にかかる費用でしょうから当然おいしいと思います。この「じゃらん」の結果には何かそういったデータが入ってしまっているのではないかと思います。ですから、私としては実際の評価とのギャップを感じますし、このギャップをできるだけ埋めることが必要だと思います。例えば、この店にしかないような種類のものはその店で食べる、そこに本当の良さといいますか、払った金額に見合うものを召し上がれるのではないかという感じを抱いています。

8 福井市の中核市移行と県・市町の財政状況
(福井市の財政問題と中核市移行)
 次に福井市の中核市移行、市町や県の財政状況についてお話しいたします。
 福井市の中核市への移行については、今年2月の大雪によって市の財政面の課題が表面化しましたので、福井市が総務大臣に対して中核市指定に係る申出をすることに県が同意する議案については、6月県議会への提案を見送りました。中核市には県から移譲される事務を効率的かつ適正に処理できる行財政能力を備えていることが求められます。このため、まずは福井市において実効性のある財政再建計画を策定し、市民の皆さんの不安がないようにしていただくことが重要であります。
 県としては県都の活力ある発展を力強く応援していくとする基本的な考えに変わりはありませんので、行財政運営全般について今後とも幅広く相談に応じていきます。
 福井市以外の県内市町の財政状況については、全体としては概ね健全な状況にあります。県と市町の関係は、平成12年の地方分権一括法の施行以来、対等・協力の関係に変わっていますので、各市町の行財政運営についてはそれぞれの議会のチェックを受けながら、各市町において適切に行うことが地方自治の本旨であります。さきほど大雪対策の話をいたしましたが、これから市町と協力していろいろな事業を推進しなければなりませんので、県としても必要な助言などを適時・適切に行っていきます。

(県の財政見通し)
 県財政については、四次にわたる行財政改革実行プランに基づいて進めています。組織のスリム化という点では職員数が全国一少ない状況にあります。また公共投資や事務事業の見直しなども積極的に進めており、プランに掲げた財政調整基金や県債残高等の目標を着実に達成してきました。さらに今年2月には今後10年間の財政収支見通しを公表していますし、現在、2019年度からの新しい行財政改革プランを策定中です。
 このように県財政について特に課題はありませんので、そのようにご理解いただきたいと思います。ただ今後、北陸新幹線や中部縦貫自動車道等の大型プロジェクトが見込まれるなど、県として歴史的に類を見ない状況にありますので、合理化・重点化を徹底し、健全財政維持とプロジェクト促進の両立を図っていきます。

9 原子力・エネルギー政策
(新たなエネルギー基本計画)
 次に原子力・エネルギー政策について申し上げます。
 福井県は原子力発電所の再稼働や廃炉、40年超運転、使用済燃料の中間貯蔵、核燃料サイクルなど原子力のさまざまな課題がすべて、かつ全国に先駆けて、同時に進行しています。国はこれらの課題について、全体性を持って明確な方向性を示す必要があると考えています。
 こういった状況の中、今年7月にエネルギー基本計画が改定されましたが、その内容に大きな課題があります。原子力を重要な基幹電源であるとし、2030年時点での電源構成に占める割合を20%~22%と変えていない一方で、原子力への依存度を低減するとしています。こうした国の原子力に対する統一性のない姿勢に課題があると思います。国が真正面からこの問題について国民にその意味や重要性をはっきり伝えませんと、立地地域である我々として、安全性や国全体に果たしている役割を説明できませんし、長年努力してきた意味がありません。このことについては今後もあらゆる機会に訴えていきたいと思います。
 特に東日本大震災に関して、福島第一原子力発電所の事故に関する原因、反省については極めて丁寧に記載されていますが、残念ながら福島の発電所の教訓しか語られていませんでした。女川発電所は事前の安全対策が万全でしたし、住民の避難所にまでなった場所ですから、この2つの存在と相違点を防災史上の歴史的事実として押さえた上で、さらに福島第一原子力発電所をどうするかといったことは、原子力発電への賛否にかかわらず、大事な判断だと思うのです。今回の計画の内容は片方だけの問題を言っていて、何となくそうだなという気分にはなりますが、それは原子力発電の賛否とは別にはっきりしなければなりません。

(もんじゅと地域振興)
 また、「もんじゅ」の廃止については国内初の高速増殖炉の廃炉でありますし、期間も30年の長期にわたります。その中で、第一段階に当たる燃料体取り出しにおいて、7月から行う予定であった作業が事前の点検において機器のトラブルが続けて発生し、作業開始が8月に遅れることとなりました。廃止措置の出だしからこういうことでは、今後安全に廃止措置を進められるのかという点で県民の皆さんに不安を感じさせることになります。そもそも廃止措置の計画は適切に検討されていたのか、国による確認・マネジメントはしっかりされていたのかということになります。もとより、事故・トラブルが起きるのは現場であり、不具合が起きた場合には速やかに状況を把握し対策を取ることが重要であります。原子力機構には廃炉に向けて全力で取り組んでいただく必要がありますので、実施体制の強化に加え、現場における国の指導・監督体制の充実を求めたところです。
 先般、原子力規制委員長とお話をしたのですが、規制委員会は現場ではなく遠方の東京で規制したほうが、客観的に適切な規制ができると、考えられている節を感じさせる発言がありました。しかしそれは違うと思います。アメリカでもフランスでも例えば2,000人のスタッフがいればその半分は現場にいますが、日本の場合、現場には1割ぐらいしかいません。これではいざという時に、どこに何があって何が問題かということが、書類上は時間をかければわかるかもしれませんが、実際の任務は到底手に負えません。ぜひ現場中心に考えを改めてほしいということを申し上げています。
 また、もんじゅの廃止措置に伴う地域振興策としては、新たな試験研究炉整備や廃止措置への地元企業の参加拡大、若狭湾エネルギー研究センターと理化学研究所との新たな共同研究の実施などが国において検討されています。さらに県が平成16年度に策定した「エネルギー研究開発拠点化計画」については、中核的な役割を期待されていたもんじゅが廃炉措置に移行したことから、来年度中の改定に向けて作業を始めています。試験研究炉をはじめ国が敦賀エリアに整備する原子力・エネルギーの中核的研究開発拠点に関する施策、エネルギー基本計画も踏まえ、新たな施策の方向性について国や電力事業者等とともに検討していきたいと思います。

10 「福井しあわせ元気」国体・障スポ
(国体・障スポの融合)
 最後になりますが、国体・障スポについて申し上げます。
 開会までいよいよ50日余りになりました。国体は9月29日の総合開会式をスタートに10月9日まで、障スポ(全国障害者スポーツ大会)は10月13日から10月15日まで開催します。
 今回の大会は史上初めて両大会を融合するということにしており、障害者と健常者が一緒になってスポーツを楽しむ体験会や選手との交流会、プロモーションビデオ作成などをこれまで行ってきましたし、国体の期間中には障スポの競技である車いすバスケットボールや車いすテニスを行います。この大会を機に、障害者への理解と社会参加の一層の促進につなげたいと思います。また福井県が掲げた「融合」の精神は全国のモデルとなり、来年以降の国体や2年後の東京オリンピック・パラリンピックへと引き継がれていきます。

(選手・来県者へのおもてなしと県民の盛り上がり)
 国体・障スポには県外から多くの選手や関係者の皆さんが訪れます。これを機に、福井の良さ、おいしい食、我々のもてなしを味わい、また楽しんでいただけるよう、市町の皆さんや団体の方々と力を合わせてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。具体的には、今年から本格販売する福井県の新ブランド米「いちほまれ」を福井運動公園においてふるまうこととしていますし、本県のトップブランドである恐竜も各競技会場においてPRすることとしています。
 そして、何より県民の皆さんに国体・障スポに高い関心を持っていただくことが来県者へのおもてなし向上にもつながります。そうした意味もあり、一昨年から県内各地においてプレ大会を開催してきました。桐生選手が9秒98を記録した昨年の日本学生陸上競技対校選手権大会もプレ大会の一つでありましたが、県では県営陸上競技場の愛称を「9.98スタジアム」とし、陸上の聖地として県内外にアピールしています。このほか、県民の方々には競技会場やアクセス道路に多くの花を飾る「花いっぱい運動」にも協力をお願いしていますし、延べ4,000人を超える方々から大会期間中の運営ボランティアへの参加の申し出がありました。
 また、企業をはじめとする皆様には国体・障スポのおもてなしなどに活用するための募金をお願いしてきました。この結果、総額7億5,000万円もの寄付をお寄せいただいており、ご協力にあらためて感謝申し上げます。また、企業・団体の方々が自主的に土産品や「はぴりゅう」ポロシャツなどを制作し、盛り上がりをみせていることは大変ありがたく、またうれしく思っています。
 こうした機運の高まりもあり、国体総合開会式の観覧には、定員5,500人の3倍近い方々から申し込みをいただきました。今月終わりには30日前イベントを実施するほか、炬火(きょか)集火式などを実施しますので、さらに機運を盛り上げるとともに式典演技の総合練習やリハーサルなどの準備に万全を期し、大会を成功させたいと思います。

(天皇杯獲得に向けた競技力向上)
 そして、開催県として天皇杯を獲得できるよう、現在約1,400人の強化指定選手が対戦相手の分析や戦術の確認などの総仕上げを行っています。インターハイなどの大会で、連日、福井県の選手が頑張っていますが、そこにも取り組みの結果が現れていると思います。

国体の本番まで50日ぐらいとなり、最後まで粘り強く戦ってほしいという思いで私も自ら激励に回っています。また関係者と結束し、選手のコンディション管理、戦略分析、応援も含め、残りの期間全力で支援していきたいと思います。
 皆様方にも物心両面のご支援を賜っているわけでありますが、この応援が無にならないように私が先頭に立って進めていきたいと思いますので、変わらぬご理解とご協力をお願いいたします。

 以上でございます。ありがとうございました。

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