荒川区役所での講演

最終更新日 2010年2月4日ページID 000441

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 このページは、平成19年8月7日(木)、福井県と交流のある荒川区において区幹部職員約60人を対象に行った講演の概要をまとめたものです。

190807講演写真1 本日は、荒川区政において重責を担っておられる職員の皆さんを前にお話する機会をいただき、大変光栄です。私が荒川区役所を訪問したのは西川区長が当選された時以来で、区長をはじめ皆さんにこうしてお会いできたことを嬉しく思います。
 西川太一郎区長とは国会で活躍されている頃からのお付き合いですが、特に地方税制や地方財源の問題で大変お世話になりました。一般に、政治家と官庁職員とは常に一定の緊張関係があり、官庁の仕事に対しては政治家の方々からよくお叱りを受けるものです。そうした中で、西川議員はいつも広い心で我々に接してくださったし、的確に助言してくださったものです。その後、私は福井県知事に就任し、西川議員は荒川区長に就任され、こうしたご縁もあることから、ぜひ荒川区の皆さんと交流を深めたいと常々強く思っていたところなのです。
 本日、文化・教育、産業等の分野における荒川区と福井県の交流をさらに深めるため、両自治体職員によるプロジェクト・チームを設置しました。このプロジェクト・チームで互いに知恵を出し合い、今後長期間にわたって荒川区民の皆さんと福井県民が継続的に交流を行うことを検討していきたいと考えています。

 さて、福井県のことを少しご紹介していきたいと思います。福井県は県民の平均寿命が男女とも全国トップクラスの「健康長寿」県です。健康長寿は食生活と深い関わりを持っています。最近、「食育」という言葉をよく耳にしますが、この「食育」を最初に使い始めたのは、石塚左玄(いしづかさげん)という福井県の医師です。 また、医師といえば、「ターヘル・アナトミア」を翻訳した「解体新書」で知られる杉田玄白も福井小浜藩の藩医で、荒川区にあった江戸時代の小塚原で腑分け(遺体解剖)に携わった人です。
 さらに、福井県出身の橋本左内、梅田雲浜がいます。橋本左内は、15歳の時に自らの志を著した『啓発録』で知られる福井藩士です。梅田雲浜は小浜藩士ですが、二人とも安政の大獄により志半ばで亡くなり、この荒川区に墓が残されている人達です。今なお手厚くこの地で葬っていただいており、福井県としても大変感謝しています。

 次に、東京とのゆかりで申し上げますと、由利公正(ゆりきみまさ)がいます。由利公正は、「五箇条の御誓文」の起草者であり、元の東京府知事を務められた人です。この「五箇条の御誓文」の草稿は、現在、福井県にあります。平成17年に競売にかけられていたのですが、日本の民主主義、そして福井県政にとって大変貴重な資料だということで、ぜひ福井県として所有したいと考え、時間のない中で県議会議員の皆さんにも了承いただき、オークションに参加して入手したものです。

 次に、福井県の伝統工芸の紹介ですが、眼鏡、繊維、和紙、塗箸などがよく知られています。荒川区も大変伝統工芸の盛んな地域であるとうかがっており、玄関に塗物の展示がありました。こうした分野での交流が図られるとよいと思っています。

 また、福井県は、平成17年に合計特殊出生率が上昇した唯一の県で、本県の子育て環境について全国から注目が集まりました。女性の社会参加も大いに進んでいて、夫婦のいる世帯数に占める共働き世帯数の割合は全国第一位です。労働力人口に占める完全失業率の低さも全国第一位であり、人口当たりの社長輩出数なども全国第一位です。
 このほか、貯蓄現在高も高く、1年前は福井県が1位でしたが、現在は、ここ荒川区を含めた東京都などに次いで第3位となっています。福井県が東京都と、このような分野で競争しているのは不思議ですね。

 先ほど福井県は「健康長寿」県と言いましたが、食べ物のおいしい県であることを示すデータもあります。リクルート社の調査によれば、宿泊旅行者がおいしい食べ物が多かった都道府県として挙げたのは、昨年は福井県が全国第一位でした。荒川区にもウナギや羽二重団子などおいしい食べ物が多数あるようですが、地元の商店街等で福井県の食べ物をぜひ取り扱っていただきたいと思っています。
 食べ物に関しては、福井県は「お米」を沢山食べる県です。1日当たりの米穀摂取量は全国第一位です。日本の米作を見ると、その8割はコシヒカリもしくはこの系統ですが、コシヒカリは福井県で生まれ、全国に広がっていったお米なのです。また、福井県は、米のほか、芋や豆腐などを多く食している県でもあり、こうした食習慣が健康長寿と深い関わりがあると考えられています。

 最後に、安全・安心についてですが、これは、荒川区の皆さんも非常に気にかけている問題ではないかと思います。福井県は検挙率が非常に高く、平成17年には全国第一位になりました。全国平均は3割を切っている中で、福井県は約52%と唯一5割を超えています。
 このほかにも、救急車の出動件数が少ないなど、福井県は様々な社会経済指標でトップクラスとなっています。福井県が「健康長寿」県であることも、これらのデータに示される特徴が複合的に重なり合った結果であり、これが一定の成果につながっているのではないかと考えています。 

 さて次に、私の政治や行政に対する考え方について、少し申し上げたいと思います。190807講演写真2
 私は平成15年に、「福井元気宣言」というマニフェストを掲げて選挙を戦いました。当時は、「元気」という言葉を選挙や政治に使うのはいかがなものかという風潮がありました。しかし、当時の福井県は、非常に景気が落ち込んでおりましたし、失業率も高かったので、ここは「みんなで元気を出していこう」ということで、敢えてマニフェストで「元気」という言葉を使いました。
 最近、全国の知事の公約やプロジェクトなどを新聞や雑誌で見ますと、多くの方が「元気」という言葉を使っておられます。「元気」という言葉が、政治の世界でも多用されるようになり、あたかも標準用語になった感があります。最近、国政の場でも「元気」という言葉をよく見るものです。今年4月の知事選では、マニフェストの名前を「福井新元気宣言」という名前にしました。

 さて、マニフェストとは一体どういうものかと言いますと、平たく申し上げれば、選挙の時に有権者の皆さんと候補者本人が政治に関して行う約束のことです。私は福祉や教育について取り上げた「元気な社会」、「元気な産業」、それから新幹線や道路の整備など県土づくりを取り上げた「元気な県土」など、マニフェストにおいて行政の分野を4つの「元気」にまとめ、選挙を戦いました。
 今回の統一地方選挙からは、マニフェストを選挙中に配布できるようになりました。ただ、福井県の場合は有権者が約65万人なのですが、選挙中配布することができるマニフェストは13万枚が限度ですので、これを遵守しながら選挙を戦いました。
 4年前の選挙では、「マニフェスト」と言っても理解してもらえないことが多かったものですが、今度の選挙では、有権者の皆さんから「そのマニフェストのペーパーを下さいよ」と声をかけていただくなど、かなり普通の言葉になったような気がします。
 マニフェストでは、それぞれの分野について、4年間で何をどの程度進めるのかを数値目標などで記載します。例えば、30人学級を導入するとか、介護施設への入所待機者をゼロにするなどです。そうして約束したことを実行するという仕組みになっています。

 当選後、このマニフェストを具体的に進めるため、各部局長と「政策合意」というものを結びました。「政策合意」とは、マニフェストに基づいて何をどのように実施するかを部局長と文書で取り決める契約のようなものです。要するに、互いに何をやるか、どのような優先順位でやるかを分かりやすくして仕事を進めるということです。こうした手法が日本人の考え方に適合しているか等いろいろな意見もありますが、現時点では、こうした手法が仕事の効率・効果の向上につながるものと考えています。今年度の「政策合意」では4年間の目標数値を掲げましたが、これは100項目近くあります。
 また、この「政策合意」に基づき、部局長と各課長、各課長と職員もお互いに話し合って目標を設定するという手法を講じています。こうした手法により、部局長と各課長、各課長と職員が、目標の達成状況、仕事の進み具合などについて、互いにコミュニケーションを密に取り合うようになっていると思います。これが「政策合意」の意図するところなのです。
 上司と部下が食事をしてコミュニケーションを図ることもあると思いますが、オフィスの中で仕事がどのように進んでいるか、あるいは、最近、部下が何に悩んでいるのかということについて、日本人はあまり話したがらない面もあります。職員同士のコミュニケーション、あるいは仕事の進捗度のコントロール、こうした事をシステム的に進めていこうというのが「政策合意」で意図していることです。もちろん、このような手法がベストとは限りませんが、それぞれの自治体が互いにより良い方法を考えて進めていくとよいと思います。

 それから、行政というのは、どうしてもタテ割りになりがちです。「私の仕事はこれだけだ。これは守備範囲外だ。」と考えがちなものです。荒川区の場合ですと、仕事が住民に直結していますから、このようなことは生じにくいかもしれませんが、県庁だと、どうしてもこのようなタテ割りになりがちなところがあります。このような状況は変えていかなければならないと考え、大きな施策の検討に当たっては、部局横断の10人程度で構成するプロジェクト・チームを組織し、そこで課題解決を図っていくという手法をとっています。
 例えば、福井県では恐竜の化石が多数発掘されています。そこで、恐竜をどうやって観光に生かしたらいいかということで、チームで施策を検討しています。また、本年10月からは、NHKの連続テレビ小説で「ちりとてちん」という番組が始まります。これは福井県の小浜など若狭を中心にした舞台で、若狭塗箸を製作する店のヒロインが大阪に出て落語家になるというお話です。それをいかに観光に結び付けるかという施策を検討しているところです。荒川区の皆さんにも「ちりとてちん」をぜひご覧いただきたいと思います。
 また、「仕事の進め方」に話を戻しますが、職員はどうしてもトップの指示を待って仕事をするという態度になりがちです。自立的・自主的に自分で思いついて仕事をする、そしてとにかくアイデアを出す、それが職員として大事なことであり、いつも職員に向けてそう語っています。

 それから、新しいマニフェストでは、「共動(きょうどう)システム」というものを講じています。財政が厳しい状況ですし、職員が一生懸命仕事をしても、どうしても職員だけでは十分な成果を上げることができないことが多々あるのではないかと思います。極力住民の方々と我々が一緒に行動、活動をしていくことが重要ではないでしょうか。
 例えば、学校教育の質を高めるため、元先生や民間の企業の方に応援に来てもらうということもあると思います。また、福井県では、お母さん方を応援しようとする「ママ・ファースト運動」を展開中ですが、スーパーや病院等で、お母さん方が赤ちゃんを抱いたまま待つことのないようにしようといった運動も、我々と県民の皆さんや企業の方々との「共動システム」としてよりよく進めていけるのではないかと思っています。

 さて、最後に、これからの荒川区との交流の話をさせていただきますと、特に次のことを申し上げたいと思います。

 一つは、荒川区民の皆さんと福井県民との交流です。福井県では高校を卒業しますと、3000人程度が東京や大阪に進学や就職します。彼らは東京などに居住しますが、家賃の高さ、特に女性の場合は地域の安全性など、多くの悩みを抱えているものです。その一方で、悩みがあっても相談する相手がいないという現状もあります。そこで、荒川区で福井県の学生のケアを行っていただく施策が考えられないかと思っています。
 その一方で、荒川区の皆さんが、農業体験をしたいと思ったり、おいしい食べ物を食べたいと思ったりする場合は、ぜひ福井県で体験してほしいと思いますし、こうした人的交流を盛んにしたいと思っています。
 食べ物の話をしましたが、福井のそば・お米、お魚はおいしいという高い評価を得ていますので、食を通じた荒川区と福井県の交流ができるのではないかと思います。今後プロジェクト・チームで検討することになりますが、ぜひ積極的に考えていただければと思います。

 さて、皆さんも「ふるさと納税」の議論について聞いておられると思いますが、これは福井県が最初に提唱した制度なのです。福井県出身で荒川区に住んでいる方もおられると思いますが、こうした方々は居住地の自治体に住民税を納めています。「ふるさと納税」は、そのうちの1割程度を生まれ故郷に寄付していただくという制度です。もちろん寄付ですので、生まれ故郷に寄付するか否かはご本人の自由です。福井県出身だけれども、荒川区が大変いい政治をしているから寄付はしない、そういうことももちろんあると思います。ただ、故郷というものを少しでもいいから考えてほしい、そういう税制があってもいいのではないかということです。
 さらに言えば、税源だけの問題ではなく、地方が大都市の住民に地方としてどのようなサービスを提供しているのか、また、大都市圏の皆さんが地方に対してどのような応援をしてもらえるのかといった、自治体同士の連携をめぐる議論が余りにも少なく互いに勝手にやっている面があると思います。お互いに孤立しているのが現状です。大都市は大都市、地方は地方という考え方はよくありませんし、互いに連携を密にして両方が栄えるということを考えていく必要があります。 

 時間がきましたので、この辺で終わらせていただきますが、これから荒川区と福井県が互いに強い関係をもちながら、交流を進めていきたいと考えています。荒川区の皆さんには、福井県を積極的に応援していただきたいし、福井県も、自然豊かでおいしい食べ物もあり、人情細やかなところですので、そうした福井県の存在をぜひ有効に活用していただきたいと思います。 

 



 

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