福井県中学校長会研究大会での講話

最終更新日 2010年2月4日ページID 005862

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 このページは、平成20年5月9日(金)、鯖江市嚮陽会館で行われた福井県中学校長会研究大会での講話をまとめたものです。

200509講演写真1 今日は、中学校の校長先生の研究大会です。昨年の全国学力・学習状況調査などにも見られますように、福井県は教育内容や水準の点では全国的にも高い評価を受けています。これも、皆様のおかげだと思います。それぞれの学校で様々な課題があると思いますが、各先生方を通じて子どもたちの学習状況などを把握していただき、信念を持って、今年より来年、来年よりまた次の年と良くなるように進めていただくことが重要です。

 ところで、私は知事に就任して以来、中学校の校長先生方に、これまで数年間に4回お話をしております。どのようなことをお話ししたかと言いますと、次のとおりです。

 1点目は、幼稚園、小学校、中学校、高校および大学のトップの「長」と言われる仕事の中で、私は中学校の校長先生が一番難しい仕事だと思っているということ。
 2点目に、校長先生によって学校は良くもなるし悪くもなるということ。
 3点目に、校長の在任中に、何をどこまでやる気なのかということを、ハッキリさせないといけないこと。
 4点目に、内向きにならず外向きになるべきだということ。
 5点目に、子どもたちを教えたり指導するわけですので、ついつい文句を言ったり、お説教をされるかもしれません。しかし、あまり小言を言わず、きちんと大事なことを「助言」してほしいということ。これを「助言社会」と私は言っておりますが、人に助言をするとともに、逆に人からの助言を素直に受け入れる先生になってほしいと思います。「助言社会」としての学校ということです。
 6点目に、良い意味での競争をしていただきたいということ。素晴らしい成果をあげている学校を見習ったり、近隣の学校とはここが違うけれど、自分の学校はこの部分を伸ばしていきたい等、目標に向けて競い合う気持ちを絶えず持たれて、励まれることが大切なことではないかということです。

 本日は限られた時間ですが、今申し上げた話の中で、いくつか具体的にお話をいたします。
 まず、校長先生は何を成すべきか、あるいは何がやれるのかということです。
 知事の場合、原則4年間、場合によっては2期8年間実行することができます。一部上場の企業などは、間もなく6月に社長が交替するケースが多いようですが、短くても2期6年間は社長に就任する場合が多いかと思います。一方、校長先生の場合は、同じ学校に4年とか6年という期間、校長として勤務されることはあまりありません。どうしても同一校には2、3年という期間になります。
 この2、3年で何がやれるか、ご自身が在任中に責任を持って成果をあげるためにどの程度までできるか、という見極めが必要です。そして、数年間ではできないことでも、次の校長先生でも実行可能な内容に着手していただければ良いのではないかと思います。
 知事の経験から申し上げますと、実行する項目は2つくらいが大きな柱となります。ご自身が着手して実行できること、または次の後輩の校長先生が皆さんの意志を引き継いで実行していただけることを是非やってください。そのことによって、学校はより良くなっていくと思います。

 次に、校長先生は子どもたちと直接接する機会は少ないということです。校長先生の中には、朝に校門の前に立たれて、生徒が登校する時に、「おはよう」とか「がんばれよ」というような声かけをされる方がいらっしゃるかもしれません。日ごろのお忙しい中では、いつでもこのようなことができるわけではありません。やはり、子どもたちの様子は、担任の先生や教務の先生、教頭先生を通じて、間接的にお知りになることが多いと思います。そうなりますと、やはり担任の先生などへの指導が重要になります。各担任の先生は忙しいでしょうから、この忙しい担任の先生をどうやって指導・助言していくか、時にコーチとなり、メンターとなって、うまく学校経営をしていくことが大切です。これは先ほど申し上げた「助言社会」に関係します。
 直接にお子さんたちと接触する機会が減ってきているので、朝礼とかいろんな機会に子どもに直接お話する際に、「あれもこれも話さなくては」となりがちです。これはなかなか難しいことです。私も時々、大学生相手に講演をするときがあります。先日も立命館大学へ行きましたが、「教えにくい」「話しにくい」「通じない」と感じました。ですから、校長先生が朝礼などでいろんなお話をされても、なかなか話は通じないだろうと思います。
 私の経験からもそうですが、行政からいろんな情報を発信し、「みんなに分かってもらえたかな」と思っても、2割程度しか分かってもらえません。分かってもらえ、さらにそれを実行するということになると、さらにその1割です。ですから、2%の人しか理解し実行できないのです。
 ですから、皆さんが子どもたちに何か良いことをおっしゃっても、なかなか伝わりにくいと思います。かなりの取捨選択をし、話をされることが大事だと思います。校長先生と担任の先生は1世代違います。お子さんたちとは2世代違うと思います。年齢で言うと40歳くらい違います。2世代も違う子どもたちに、皆さんがお話をしたら、どれくらい通じるかというのを考え直していただくことが大事だと思います。諦めることはないのですが、あまり長い話をしても通じませんし、昔の話をしても分かってもらえないと思います。子どもたちというのは若い先生が好きなのですね。私たちもそうでしたが、年配の先生は接触しにくいですので、やはりしゃべりにくいですね。そのようなことをわきまえて、学校管理をしていただければと思います。

 ところで、本日参加されている校長は、お聞きしたら、社会科の先生が多く、30名近くおられます。他に、国語、数学、英語などが10名弱ずつぐらい、その他、体育の先生も多いようです。音楽、美術、技術は合わせて4、5人ですね。
 そこで申し上げたいことは、教え方の改善・改革を、少しずつでも、学期毎にでも実行してほしいということです。具体的には、「なぜそうなるのか」ということを教えてほしいのです。
 またテストは、目的でなくて、手段だとか、考え方はいろいろあると思いますが、「答え」を子どもたちに詳しく示してほしいと思います。特に高校などでは、数学の問題集を渡すときにあらかじめその答えも渡してほしいのです。以前、このことについて先生方の意見を聞きましたら、反対の方が多かったです。3対2、あるいは4対1くらいかもしれません。子どもたちに答えを渡してはいけないという考え方のようですが、この方法が絶対かどうか検討してほしいものです。

 ここで、提案ですが、皆さん方はそれぞれ御専門の学科があるわけで、これまでの経験を踏まえ、ご自身の学科について、こういうことを直したら良いのではないかということを、1年か2年かけて具体案を提示していただきたいと思います。
 社会科の話になりますが、白地図上で都道府県の位置を示す問題を出した時、宮崎県の正答率が一番低かったという記事が最近出ていました。以前は、福井県が地図の調査で日本一場所を間違う県であったこともありますが、最近の結果では35番目になったそうです。調べましたところ、都道府県名は小学校では教えてもよいが教えなくてもよいそうで、中学校の教科書を調べましたところ、中学1年で都道府県の名前を覚えるようになっていました。しかし、教えるべきことは、もっと早い時期に教えた方が良いのではないかと思います。新学習指導要領では4年生で教えることになったようです。中学校の教科書を見ましたら、県庁所在地を覚えるためのロックンロールを聞いて県庁所在地という歌まで載っていました。いろんな御苦労をされながら教えておられるのですが、先ほど述べました「なぜ」という疑問を持つ等、こういうことを少しでも後輩の先生方に残すために提案していただきたいと思います。県の教育研究所や他の機関でも研究していますが、お願いします。
 先日も教育委員会の皆さんと英語のことで雑談しました。三人称単数には動詞に「s」がつきますが、これはどうしてか、「good」の比較級は「better」ですが、「beautiful」は何故「more」を付けるのかなど、それぞれの学問に「なぜ」ということがたくさんあると思いますので、その「なぜ」を子どもたちに分かるように、少しずつでも校長先生方の経験を生かして、若い先生方の授業の改善につなげてほしいのです。

200509講演写真2 次に、都会の情報に惑わされないということも大事だと思います。メディアを通じて日本全国に東京あるいは大阪などの情報が流れています。それによって、保護者の方も誤解しますし、場合によっては先生もそんな気になるかもしれません。
 例えば、最近は、東京で「吹きこぼれ」を出さないための「夜スペ」という塾を学校で開いております。詳しく見ますと、「私立学校に行かずに、受験サポートを全国の公立中学校に先駆けて行う」というようなことが書かれています。一方、福井県は、公立学校の先生方がそんな難しい理屈を唱えないで、日々教えておられるわけです。だから、そのようなことを気にすることはないのですが、若い先生は、ついついそういったことをしなくてはいけないのではと勘違いしたり、自分のやっていることに疑問を持たれるかもしれません。その際には、校長先生はそうではないということをはっきりおっしゃってほしいと思います。

 「いじめ」問題についても同様です。調査をしましたところ、福井県は「いじめ」問題の出現件数は全国2位です。福井にはこんなにたくさんいじめがあるのかと思いがちですが、そうではなくて、子どもたち一人ひとりをきちんと調査しているから、そのような数値が出ているわけです。大阪や東京に比べていじめが多いのかというと、そんなことはありません。そういうことを校長先生自身は分かっていいただいていると思いますが、先生方にもそうおっしゃっていただきたいと思います。

 私自身に言い聞かせることでもあるのですが、一人ひとりの先生の様子を、例えば大変だとか、頑張っているとか、あるいはちょっと疲れているようだ、ということを校長先生にはよく分かっていただきたいと思います。「ああ、校長先生にわかってもらえているな」ということを先生方が感じられるようなことが大事だと思います。先生方の仕事ぶりを見る目を養い、注意して見ていただきたいということです。

 先ほど「助言社会」ということを申し上げましたが、私の体験について話をします。現在、通知簿の中に「あなたの良いところ」や「あなたの悪いところ」を書くようになっているでしょうか。一学期よりは二学期の方が良くなったねというだけでは、励ましではありますが、助言ではないのです。私の通知簿に、子どもながらに先生に書いていただいたことを記憶しています。四年生の通知簿に、こんな内容が書いてありました。「あなたは物分かりは早いが、早のみこみをする癖があるから注意しなさい」というような、私への「助言」が書いてありました。それ以外の通知簿に「助言」というものが書かれたことがありません。単に点数が書いてあったり、AだとかBだとか書いてあるだけです。この助言は、子どもながらに「なるほど、自分で注意しないといけないな」と納得し、今でも時々それを思い返します。大事なことは、その子にとって、ここを直すと将来良くなるというようなことを、客観的に言っていただきたたいのです。そうすることで、その子はきっと伸びると思うのです。単に褒めるだけでもいけませんし、叱るだけでもいけません。「助言」を行っていただきたいのです。

 逆の話を申し上げます。日ごろ、先生方の中で、若い先生あるいは子どもたちと日々接しておられることから、「子どもたちから元気をいただいています」とおっしゃる方がいます。どう思われますか。以前、私は、先生は自ら子どもたちに光を当ててほしいということを申し上げたことがあります。子どもたちに向けて、言葉でも行動でも光やエネルギーを出し、子どもたちをエンカレッジしてほしいのです。いろんな考え方がありますが、「子どもたちからエネルギーをいただきました」「元気をもらいました」ではなく、逆にエネルギーを与えてほしいのです。校長先生は、担任の先生方などにもエンカレッジをしてもらわなくてはなりませんし、それを通じて担任の先生方が子どもたちにエネルギーを与えてほしいと思うのです。

 2年ほど前に、与謝野晶子さんのお話をしたことがあります。100年ぐらい前の話ですが、教育というのはあまり変わらないというお話です。ちょうど大正デモクラシーの頃ですね。あの頃日本中に、師範学校、旧制中学、新しい高等学校などがどんどんできて、いわば教育のルネサンスの時期でした。その時代に、与謝野晶子さんは、今で言うと男女共同参画のはしり、先頭に立った人です。女性の社会参画をもっとしてほしいということだったのです。しかし、この人の本の中に、自分の子どもは男の先生の方に教えてほしいということが書いてありました。女の先生に頑張ってほしいということだったと思うのです。当時小学校の先生の3分の1は女性だったそうです。今の小中学校全体に当たります。女の先生の問題点をいろんな例をあげております。また、規則に従うような教え方しかしない、これから世界に羽ばたかなければいけない時代に、もっと大きな気持ちで教育をしていかなければならないということが書いてありました。今とは時代も違いますよ。でも、教育の局面はあまり変わらないのです。そんなお話も以前講話でさせていただきました。平成17年の11月にお話をしていますので、詳しくはホームページでご覧ください。

200509講演写真3 先日、物理学の先生で元東京大学学長の有馬朗人先生のお話を聞く機会がありました。大学入試のお話をしておられました。有馬先生の考えは、大学のセンター試験に過去に出題された問題を出すべきだというお話でした。福井県の高校入試も、皆さん苦労して作られていると思いますが、試験問題というのは昔の問題で良い問題などは大いに出題すれば良いのではないかと思います。もっとも、予備校などで過去の問題を全部解くというようなことをすれば弊害になると思いますが、大学の教養学部などが出題する問題は大体決まっていますので、そこに労力をかけるのはいかがなものかとおっしゃっていました。これもひとつの考え方かと思います。
 先ほど数学のお話をしましたが、数学の答えを、子どもたちに分かりやすくつまずかないように作って子どもたちに渡して、学校では何故そうなるかといったものの考え方を教えたらどうかと思っていましたので、有馬さんのお話を紹介しました。様々な学習の中で子どもたちがつまずきやすいところをなくす工夫を、先生方と相談していただき、取り組んでほしいと思います。

 白川文字学もそうですね。小学校で漢字1006文字を教えることになっていますが、「別にそれにとらわれず、もっとたくさん教えてもよい。また、1年生から6年生までの漢字の配当表はあるが、学年を超えて指導してもよい。」という回答が文部科学省からありました。それも30年近くできなかったことなのです。福井県で提案してできるようになったわけですが、あらゆる教育上の教え方の核心を研究していただきたいと思います。

 スポーツでも、あるいは音楽でも、技術でも同じことだと思います。何故だとか、どういう原理になっているのかとか、そのようなことを子どもたちに伝えてほしいと思います。

 以上で講話を終わります。



 

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