近畿商工会議所連合会総会での講演

最終更新日 2010年2月4日ページID 006122

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 このページは、平成20年6月16日(月)、福井商工会議所で開催された近畿商工会議所連合会総会で、「地方と都市の問題について」と題して行われた知事の講演をまとめたものです。

200616講演写真1 近畿地方の各商工会議所のトップあるいはリーダーの皆様には、ようこそ福井へおいでくださいました。心からお礼申し上げます。また、皆様がそれぞれの地域で商工もしくは産業行政などにご尽力いただいておりますことに敬意を表します。皆様のご努力がわが国の政治や経済の安定と発展につながるものと思っております。

 最近、何かと改革とか、地域を見直す、国の形を変える等々さまざまな話題が出ております。そこで、お時間をいただいて、地方と都市の問題について話をさせていただきます。

 本題に入ります前に、福井のPRをさせていただきます。「ブランドハンドブック」をご覧ください。これは、現在1,375人にお願いしている「福井ブランド大使」の方々に、福井の宣伝をしていただくために作ったものです。

 まず、全国の平均寿命と比較し、福井が健康長寿な県だということを紹介しております。平成17年の調査では女性が順位を落としましたが、いずれにしても全国トップクラスの長生き県であります。

 この健康長寿の理由について、紹介させていただきます。

 まずは、福井の食事、食生活です。ある旅行雑誌の調査で「食べ物がおいしい県第一位」の評価をいただいたことがあります。コシヒカリのふるさとで、米の摂取量も全国第一位です。学校給食での米飯給食の回数も最も多い県です。食物繊維の摂取量も多く、豆腐づくりが盛んで豆腐や油揚げがおいしい県です。

 私も家庭菜園をやっておりまして、二十数種類の野菜を作っております。この時期には、ナスやピーマン、スナックエンドウなどがとれます。このように、生活環境が良く、ボランティア活動が盛んです。

 がん対策に力を入れていて、2年後には陽子線ガン治療施設を県立病院に併設いたします。関西では、兵庫県西播磨でも受けられると思います。まだ、保険の対象外ですので200万円くらいかかりますが、命にかかわることですので、ぜひご利用いただきたいと思います。
 ゆとりのある生活をしていて、最もストレスを感じない県民です。1世帯当たりの貯蓄額も全国第3位で、生命保険の掛け金も高い県です。このように紹介しますと、福井県民はお金の使い方がわからないのではないかと思われるかもしれませんが、いざという時のために備えながら、賢く使っているということです。

  「食育」という言葉を日本で初めて使ったのは福井出身の石塚左玄という医師ですので、食育の発祥の地とお考えください。杉田玄白は「解体新書」を翻訳された方で、若狭小浜のご出身です。
 昨年、即位1500周年にあたる継体天皇は、最も古い福井の偉人です。幕末から明治維新の頃には松平春嶽や由利公正が活躍されました。橋本左内や梅田雲浜はいずれも安政の大獄で夢半ばで倒れた幕末の志士です。岡倉天心や近松門左衛門も福井県の出身です。このように歴史上さまざまな分野で努力された先人を輩出している県です。

 さて、「地方と都市の問題」について話をしたいと思います。

200616講演写真2 毎年、福井県の高校生は3,000人くらいが県外の大学などに進学します。しかし、4年後に就職するときには1,000人くらいしか福井県に戻りません。残りは、大都市で就職されるということです。これが日本の構造的な問題です。このような状況を何とかしたいという考えから「ふるさと納税制度」を提唱し、この春から導入されています。

 本県は、全国に先駆けて子育て支援策に力を入れています。特に、3人目以降の子どもについては妊娠されてから3歳までの医療を無料化するなど、重点的に支援しています。

 一方で、福井県は共働き率が日本一高い県です。女性の社会進出が盛んだということです。そして三世代同居率も高い県です。おじいちゃんやおばあちゃんに子どもを預けて、安心して働きにいけるということです。病児デイケアなど、ちょっとしたことが心配になったときにサポートする体制を整えています。

 このように、子どもが0歳から18歳まで成長する間に、福井県の自治体は1800万円くらいお金をかけています。しかし、就職して福井に戻ってきていただけないと還元されませんので、何とかして地元に還元してほしいということで、住民税の税率の1割程度をふるさとに戻してほしい、10万円納める方なら1万円だけふるさとにというのが、ふるさと納税制度であります。

 当初、東京や大阪の知事は、そんな提案はしないでくれとおっしゃっていました。しかし、最近の新聞に、新しい大阪府知事がふるさと納税を財政再建に役立てたいとおっしゃっていると新聞で拝見いたしますと、大都市圏の知事も考え方を変えられたのかなと思い、うれしく感じます。

 ふるさと納税で、大都市と地方の財政状況が大きく変わるものではありません。しかし、大都市で暮らしている人に田舎のことを想ってほしいとか、地方が良い施策をしていたら納税者が選択して応援してあげるとかというような制度を、できるところから導入していこうということがまず一つにはあります。
 そして、もう一つには、日本に寄付の文化を育てるということがあります。日本では1兆円に満たない寄付の額が、アメリカでは年間30兆円に達しています。日本に寄付の文化をもっともっと広めていきたいということが、ふるさと納税の思いです。

 寄付文化について調べてみますと、アメリカやイギリスでは寄付は盛んですが、フランスでは盛んではないようです。困ると国に要求する傾向はフランスは日本以上だそうです。

 また、三位一体改革は、あまり成果がみられなかったと思います。東京圏の域内総生産額は3割ぐらいだと思いますが、それに対して国税収入は5割くらいあります。ふるさと納税を利用していただいて、地方に税金が戻るようにしなければならないと思います。これだけでは、まだまだ不十分です。

 大都市の側からは、地方は国に甘えすぎで、公共事業などもばらまきすぎではないかというかもしれません。しかし、あと10年くらいは、道路とか新幹線とかのインフラ整備を完結させる必要があります。例えば、北陸新幹線は、現在、金沢までで止まっていますが、福井、敦賀そして大阪まで通じなかったら大阪は発展しないと、みなさんには思っていただきたいのです。

200616講演写真3 地球儀を見ると、日本列島はアジアといっしょになって見えます。平たい地図で見るのとは違って日本海はあってないようなものです。
 中国、ロシア、韓国、東南アジアなどは、豊富な天然資源と人的資源を有する経済地域であります。関西を中心に、こうした地域と力を合わせて経済活動を行う時代です。日本が一体となることが、まずは重要だと思います。

 ふるさと納税は、お金をやりとりして地域格差を少し解決しようというものですが、これから先は、人口など地域資源を各地にバランスさせることが重要だと思います。大都市に集中させたほうが効率的だという意見もありますが、これまで何十年もかかって積み上げたものが、災害により一瞬にして台無しになるということもあります。私は、各地域がバランスよく発展することが大事だと思っています。

 過去のデータを見ますと、昭和37年が、地方から三大都市圏に流入した人口が最も多い年でした。この年の1年間で三大都市圏では65万人くらい人口が増えたそうです。そのうち東京が40万人でした。そして、バブル期に第二の波があり、一時衰えましたが、最近また、第三期の増え方をしています。平成19年には、また地方から15万人の方が大都市圏に移動しています。これは、人的資源の適正配置としては問題があると思います。

 戦時中の満州に、昭和14年のピーク時で64万人の日本人がおられたそうです。現在、日本に在住している中国人は56万人ですが、不法入国者を含めますと約60万人になるということです。また、今年はブラジル移民100周年という記念すべき年ですが、これまでに日本からブラジルに移民された方は24万人だそうです。しかし、その間、日系人は140万人に増えているそうです。人口問題、特に外国人労働者を今後どう扱うのかという問題もありますが、この小さな日本列島の中では、大都市と地方とが協力し合うことが大事だと思います。

 桑原武夫さんという方がいらっしゃいました。敦賀市のご出身で、「第二芸術論」を唱えられ、ルソーの研究などをされていた文学者です。
 昭和35年ころ、「日本のような小国」と誰もが言っていた中で、日本は小さい国では決してないといっておられた学者であります。「国土は狭いが植民地を持っていないから」、「核兵器を持っていないから」とか、1950年くらいの日本の人口は9000万人ほどで世界5番目位だったかと思いますが、「国民はみな字が読める。卑下することはない。鉄道の事故がほとんどない。こんなところが小国か。」と書いています。

 最近、日本を卑下するような感じが、みなさんの思いの中にあるのではないかと思いまして、このようなことを持ち出したのです。内向きにならずに、大都市と地方とが力を合わせて、日本を良くすることを考える時期にきていると思います。

 ところで最近、道州制にという議論がさかんに行われています。いわゆる区割案が勝手に示されていますが、残念ながらなぜか福井はみなさんと同じ近畿ではありませんでした。経済界の方々の中には、道州制に賛成の方もおられると伺っていますが、道州制は何か実態と合っていない気がしております。
 地方のさまざまな課題を論じるのに、道州制ということで考えるのが果たしてよいのか、地方自治に携わる者として案じております。近畿や中部で、大きい組織で経済政策を決定し、行政改革を進めようという考えかと思いますが、国を小国に割ってブロックごとに独立した経済圏を作って、中国や韓国に勝てるのでしょうか。よく、EUを引き合いにしますが、EUは国を割ってはいないのです。逆にいくつかの国が一緒になって経済や政治課題に対応しようというものです。一方、道州制で提案していることは、例えば近畿は外国のどの国ぐらい経済力があるから、近畿だけでできるのだということなので、EUとは逆で方向が違います。このように国内での独立圏域を大きくすると、地方はますます疲弊するでしょう。

 私は83万人の県の知事です。人口が1,500万人や2,000万人の州知事の選挙は、いったいどうなるのか見当もつきません。地域住民の声を聞くことが原点である民主主義はどうなるのだろうという気がします。

 大都市にどのような問題があるのかと申しますと、大都市と田舎では投票率が2割違います。地方が6割ならば、大都市は4割です。有権者の行政への関心が1.5倍違うということです。

 人口数百万人の大都市の地方自治は、これからどうなるのでしょうか。むしろ地域を細かく割って身近な政治を進めていくのではないか、そうすると議員の数は逆に多くなるのではないか、ではデモクラシーと効率は、など、このような議論を大都市でしてほしいと思います。私たちの子どもや親戚などが大都市で暮らしています。大阪や京都にも福井出身の方が大勢生活しています。その人たちが暮らしやすくなるような政治を大都市でも進めてほしいと思います。

 関西全体の電力消費量の5割を福井県の原子力発電所が提供しています。滋賀県の琵琶湖が同様に関西のほとんどの飲料水を供給しています。
 人材の話をいたしましたが、これも長期的には地方が支えています。大都市では出生率がものすごく下がっています。平成19年の合計特殊出生率では、福井県は第6位でしたが、40位から47位まではみな大都市でした。
 大都市が独立してやっていけるわけでは決してありません。田舎と都会との連携の仕方を考えながら制度を作っていかないと、日本は決して良くはなりません。世の中には万能薬、何にでも効く薬というものはありません。行革もできて、官僚制をなくすことができ、中央集権も解消でき、地域振興も何もかもが、道州制で解決できるということはありえません。
 地方は地方なりに、大都市は大都市なりに問題を解決し、地方と大都市とが産業などで結びつきを強めていくことが大事だと思います。



 

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