平成21年度新規採用職員研修での講話

最終更新日 2010年2月4日ページID 008413

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 このページは、平成21年4月6日(月)に行われた平成21年度新規採用職員研修での講話をまとめたものです。

 Ⅰ 高浜虚子、ゲーテ、荻生徂徠の言葉から
 Ⅱ 時事評論(時事通信社)への寄稿から
 Ⅲ 西川一誠ホームページ「ISSEIエッセイ」から

 本日は、4月1日の辞令交付式の際に皆さんにお話しした内容を、少し詳しく述べる形でお話をしたいと思います。 

【Ⅰ 高浜虚子、ゲーテ、荻生徂徠の言葉から】

 まず、皆さんのお手元に、それぞれ時代も国も違う3人の方
210406講演写真1 の考えを記した資料をお配りしています。

〔1 仕事について(高浜虚子が娘立子へあてた文章から)〕

○「如何なる仕事でも十年かじりついておればもう根底はなったといってよい。」
→これは、高浜虚子が娘に十年間頑張れということを伝えた言葉です。皆さんは採用されて間もないですが、十年ぐらいは少し落ちついて勉強して頑張ってほしいと思います。
 所属はいろいろと変わると思いますが、それでも余り気を散らかさないで、十年間はきちんと仕事をするとものになると思います。
 今回配属となった部署については、様々な思いがあると思います。期待どおりの人や、そうでない人もいると思いますが、これは巡り合わせですから、十年間ぐらいは気にしないでしっかり腰を落ちつけて勉強してください。

○「たまっておった仕事を片付けた時の気持ちは爽快なものである。-何でもかんでも片付けてしまうという、気易い事務的な心持になっていいであろうと思う。」
→これからは、皆さんが大学や高校で勉強していた頃に比べると、当初は雑用と感じる事務的な仕事が色々あります。パソコンでの資料の作成、計算、書類の整理など、様々なことをしますが、それを片付けると気持ちがよくなるとともに自分自身もよくなるということです。

○「何でもいいから- 手に当たったものから、あるいはなかで最も処理しやすいものから手をつけ始める。そうすると山のように滞積しておった仕事の一角がともかくも崩れ始める。それから仕事にはずみがついて来て、終にその山を片付けることが出来るというようなことをよく実験したものである。」
→仕事というのは非常に難しい部分があり、どこから手を付けていいか分からないというところがありますが、この手を付けたところからやってみるということです。
 皆さんはまだ新人ですから、何を処理していいか分からないかもしれませんが、取り掛かったところから処理すると、仕事全体が見えてきます。手当たり次第は困りますが、易しいところ、身近なところから仕事をしてほしいということです。

○「幾ら考えても好ましい処のない仕事は断然やめるべきだ。」
→好ましくないものは止めるべきだということです。よく考えて、つまらないことはやらないということです。上司から指示された仕事で、どうしても変だと思ったら理由を聞いたりして、それでもおかしかったらやめるということです。自分自身が企てた仕事でも、おかしいと思ったらそういう仕事はやめるべきです。つまらない仕事をしていると、良い仕事をする時間がなくなってしまいます。

○「構想ばかり骨を折って、つまり骨格ばかり出来て、血や肉が通っていないものよりも、骨格がばらばらでも血の通っている方がいいということになる。大いにやってみたらどうか。」
→いろいろな構想といいますか、計画ばかりに骨を折って、血や肉が通っていないものは仕事としては値打ちがないということです。多少骨格はばらばらでも血や肉が通っている仕事の方がいいということです。
 これは普通の仕事でも同じです。ちゃんと血や肉が通って、県民の気持ちが個々に通じているような仕事をやるべきであり、格好を構えすぎないで仕事に取り組んでほしいと思います。

○「実際から来た人の説は辻褄の合わないところがある。なぜもっとはっきりしないのかと思うことが多い。しかしなるほどと合点する場合が多い。」
→皆さんはこれから県民の声をじかに聞くことになりますが、中には辻褄が合わないような話をされる方もおります。それでも現実のことを何か訴えたいということを皆さんに言われるでしょう。実際から来た話は辻褄が合わないところがあるかもしれませんが、いろいろやっていくと、なるほどと思うことがありますので注意してほしいと思います。

○「種々の力が働いているのである。落ち着く処に落ち着くのである。但し自分の力もその種々の力の中の一つである。」
→皆さん一人ひとりが県庁の力であり、私も県庁の一つの力です。
 皆さんのベクトルの方向と長さはまだ小さいかもしれませんが、自分は県庁の中の一つの力であることを忘れないで下さい。自分はまだ入って1年や2年だから、まあこんなもんだろうと決して思ってはいけません。
 辞令交付式の際に「ふくい2030年の姿」についてお話したと思いますが、これは県の若い職員たちが作ったものです。若い力は今は小さいかも知れませんが、自分たちで福井の25年後の姿を描こうということで作りました。そういう力を大事にしてほしいと思います。

○「自分がこうしようと思うからする、こういう事をしなければならないからするという積極的な方がものがてきぱきと運んで自分でも結局気持ちがいい事になるのではないかと思う。」
→仕事については、積極的にやってほしいということです。人から言われてするというのではなく、まず自らが積極的に取り組んでほしいと思います。

○「世評を気にかけないで行動する人は快い。私はそういう人を好む。」
→自分の細かいことを気にするなということです。誰も気にもしていません。恥をかかないようになどと細かいことを第一にしないで、自分で思う事を思い切って行おうということです。

○「今日の私たちにあってもその祖先の習慣をにわかに軽蔑して破壊することは好ましい事ではない。自分というものを離れて、唯、物その物のために研究した意見になると少しも無理がなく匠気がない。」
「祖先のした仕事をふりかえってみると自ずから私たちの進んでいく道は明らかになると思う。」
→古くからあるものを闇くもに、よく考えもしないで、知りもしないで直してはいけないということです。県庁にも良い習慣と悪い習慣があります。良い習慣は維持しなければなりません。皆さんがこれまで二十数年培ってきたライフスタイルの中で、いいものをきちんと自覚して、大事にして残してほしいということです。
 福井県の学力や体力、食育については、全国上位であります。日本一と言っていいかもしれませんが、これは今いる人たちの力だけによるものではありません。皆さんのお父さんお母さん、おじいさんおばあさん、あるいは会社や現場でやってきたことがその成果として上がっているわけです。
 そういうものを尊重して、それを基に我々は次にどこへ進むべきかを考えて行動しなければならないと思います。

○「人間はその日その日の出来事で、だんだんと運命づけられて来るものである。-安んずるとは安心して眠っておるという意味ではない。その境遇に立ってその境遇より来る幸福を出来るだけ意識することだ。」
→毎日起こる出来事で、運命とか境遇というのはそれぞれ積み重なってくるわけですが、そのことを前提に仕事をするのであれば、その上で単に眠っているわけにはいきません。その境遇に立って、その境遇から来る幸せあるいは次のチャレンジ、そういうことを意識すべきだということです。

○「自己嫌悪に陥ることはよくない。これは往々にして秀才型の人に見ることである。自己批判をして自己の短所過大に感じた結果である。自分に十の欠点があっても一点の長所があればその点に全幅の信頼を自ら寄せてよい。」
→自分は駄目だとか、私はこんなものだということを決して思わないでください。勉強家の人には往々にして自分の短所、欠点を過大に評価して、落ち込んだり閉じこもったり、そんなことが起こりがちですが、余り考え過ぎない方がいいということです。
 また、自分に十の欠点があっても、一つの長所があればその点に全幅の信頼を自ら寄せてよいと思いますし、そういう気持ちで仕事に取り組んでほしいと思います。

〔2 ゲーテ(1749-1832)の格言から〕

○「生きて働き続けているものだけを表現せよ。いっさいの否定的精神、いっさいの悪意や悪口を、そして否定しか能のないものを、まさしく排除せよ。というのも、そうしたものからは何物も生まれてこないからである。ひとつひとつの詩について、それが体験されたものを含んでいるか、その体験が自分を進歩させたかどうかを、自分に問うてみるがよい。」
→否定的精神、悪意、悪口、否定からは何も生まれてきませんから、積極的に仕事に取り組んでほしいと思います。

○「私たちは他人の好意にふれる時にこそ、本当に元気溌剌となる。他人からよい助言をもらえるということは、自分でそれを考え出すことができるのと同じである。」
→他人から親切にされたり、あるいは感謝されたりすると、自分も元気が出るということです。家族、仲間、友達、上司など、皆で好意を持ちながら行動すると元気が出ます。
 また、他人から助言をもらった場合、それを活用できるのであれば、それは自分で考え出したのと同じことだということです。本当は自分で考えたものが最も使い易いのですが、人から言われて何か使えるものは自分の考えだと思って役立ててほしいと思います。

〔3 荻生徂徠(1666-1728)の考え方(「問答書」から)〕

○「聖人の道においても、知・仁・勇は三達徳(「中庸」)といわれ、君子たるもの「勇」がなくてはならない。
 しかし、人間は自分の知らないことには恐れ、慣れないことには用心をする。しかしまた、理屈を知りさえすれば怖くないものと思っても、理屈を知るだけでは知るほどに疑いが増して気遣いが多くなる。
 であるから、初めは怖いのを我慢し慣れる、『理屈を離れて、ただ何となくそのことに慣れるのが一番よろしい』。
 大体以上のようなことであるが、しかし又、世の中には人間の知力に及ばぬこともあり、慣れぐらいのことでは、必ず勇気がくじけることになるだろう。そのような人知・人力の及ばないところでは『天命にまかせる』よりほか、どうすることもできない。であるから、勇と怯との根本というのは『天命を知るか知らぬかに落ち着く』。」
→これから仕事をすると、シュリンク(萎縮)したりする機会が出てくると思います。勇気が出ない原因には幾つかあるのですが、まず知らないということは勇気が出ない原因の一つですから、よく勉強し、経験を積んでほしいと思います。初めは怖いかも知れませんが、我慢して、出来るだけ早く仕事に慣れてほしいと思います。しかし、知っているだけでは勇気が出ないこともたくさんあります。我々の知識や体験に及ばぬことがどんどん出てくる場合もあります。
 このように人知や人力の及ばないところでは天命に任せるということしかありませんが、全てをやってみた上で、あとは一生懸命やったのだから何とかなるだろうという気持があると、勇気が湧くのではないか思います。

○「政治を論じる人のほとんどが、ただ方法の善悪ばかりを吟味するのは、「道」をわきまえないところの間違いである。方法よりも、それを行う人物の如何が最も重要なことである。たとい方法は悪くても、行う人が立派であれば、それ相応の効果が出ることになる。また同じ方法でも、行う人物の如何によって、違いが生じる。人物の吟味を忘れて、方法の吟味ばかりをするのは、要するに自分の知恵、才覚で万事をはかろうとするところにその病根があると思われる。」
→政治の方法とそれを行う人の区別ということです。これは行政の方法とそれを行う人の区別と言い換えても同じです。あらゆる制度を直すのも重要ですが、それを行う人が立派でないと効果は上がらないということが書いてあります。
 行政を行う場合には色々なシステムの中で行いますが、皆さん自身が県民のために一生懸命やるという気持ちになっていただかないと良い結果は出ません。また、システムが不十分でも、皆さんが一生懸命やれば、その中身も多少良くなると思います。

【Ⅱ 時事評論(時事通信社)への寄稿から】
 次に、昨年10月から今年3月までの半年間にわたり、時事通信社の「時事評論」という雑誌に私が寄稿した内容についてお話します。皆さんのお手元にそのコピーをお配りしております。
 まず「『ふるさと納税』をしよう」ということで、全国に訴えております。「ふるさと納税」は福井県が提唱した制度です。制度の提唱者として、全国のモデルになるよう、この制度が理想的な形で定着していくよう取組みを進めています。
 二つ目は「大都市問題、地方からみると」です。最近、道州制、新自由主義、市場主義、効率主義など様々な考え方が出ていますが、まず大都市の政治や行政、地方自治をもう一度見直すことによって様々な議論が解決するのではないかと思っています。
 三つ目は「地域の誇りと自信を抱く人間像を」です。人々が地域を支える気持がなければ地方分権は実現しませんし、地方自治は決して良くなりません。今後の人の価値観や満足がどういう性格のものなのかということも書いてあります。 
 最後に「『平均の力』と自治体の発展可能性」です。福井県の小中学生が学力に加えて体力でも日本一であることが明らかになりました。学力や体力は平均の力です。健康長寿、長生き、合計特殊出生率も平均の力です。日本一人口当たりの社長の数が多いというのも平均の力です。福井県は人口が八十数万ですから決して大きい県ではありませんが、他の自治体から小さくても頑張れるんだと思われるような県にしたいと考えています。
 地方自治体が内に発展の可能性を持ち、生き生きとした活力を発揮し続けるためには、まず「平均の力」を高め、時には何かいいものを特別に打ち上げなければなりません。皆さんにはそういうことを目指してほしいと思います。

【Ⅲ 西川一誠ホームページ「ISSEIエッセイ」から】

210406講演写真2 最後に、私のホームページのエッセイから特に仕事に関わるものを抜き出したものについて、説明を加えながらお話をします。 

(公務と私事)
 公務はすべての人に奉仕する目的のものですから、これを行う者は、私事を離れて公平に仕事をしなければなりません。しかし、すべての人に奉仕するという考えは、観念しづらいものです。
 公務を遂行する場合は、逆に自分の家庭あるいは自分の部屋に当てはめて行ってほしいということです。自分の家でよく似たことを行うときに、どのような注意・関心を払うかを考えてほしいのです。自分の事だと思うと全体の奉仕者の意味がより明確になるのではないかと思います。

(アイディアの固定について)
 どんな仕事でもそうですが、ちょっとしたアイデアというのが非常に重要です。皆さんも仕事をする場合、絶えずさまざまなアイデアが頭の中に浮かんでくると思います。放っておくと心の中に沈んでしまって、何だったか忘れてしまいます。
 出来るだけ皆さんの日記あるいは手帳に、思ったこと、気になったこと、助言されたことを文章にして客観化してください。他の人にとってはつまらないものかもしれませんが、皆さんにとっては宝ですので、大事にしてください。これを積み重ねて、実際の仕事に役立ててください。

 皆さんは、これから県庁で働いていただくわけですが、どうか心身の健康に留意され、勇気や意気を大事にして頑張ってほしいと思います。

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