平成21年度課長級研修での講話

最終更新日 2010年2月4日ページID 009310

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 このページは、平成21年7月23日(木)に行われた平成21年度課長級研修での講話をまとめたものです。

 Ⅰ 公務の性質について
 Ⅱ アイディアを出すことについて
 Ⅲ 仕事の仕方について
 Ⅳ 人の育ち方について
 Ⅴ その他

 本日は、私のホームページのエッセイから特に仕事に関わるものを抜き出し、今の時点での新しい感想も加えてお話をします。

 【Ⅰ 公務の性質について】

(公務と私事) 210723講演写真1
 一般に、公の仕事は公的に考えて、自分のこととして考えてはいけないと言われていますが、私は逆だ
と思います。公務を行う者は、もちろん私事を離れて公平に仕事をしなければなりませんが、本当に全体のために役立つには、自分のことだと思って考えて仕事をしないと駄目だということです。
 例えば、この会場の天井のたくさんある電灯の1つが切れたとします。皆さんあまり気にならないのではないかと思いますが、これが自分の家であったらおそらく気になるでしょう。
 それと同じで公務を行う場合にも、自分の家のこと、自分の子供のこと、庭のこと、書斎のこと、のようにして考えてほしいということです。そうすればきめ細やかな仕事ができるはずです。
 県民のために皆でなんとなく公と思って仕事をしているという感覚でいると、配慮が行き届かないことが多いのであり、職員一人ひとりがあたかも私事を実行するかのごとく、仕事に取り組んでほしいのです。

(すれちがい)
 私は小さい頃は映画が大好きでした、小学生の頃です。その頃の映画は、すれ違いの場面が非常に多かったことを記憶しています。ヒロインがこちらを向くとその瞬間に間に電車が入ってきたり、階段を上がると男性の方がエレベーターで降りてしまうとかですね。
 そのようなことが、映画のようにはっきりと目には見えなくても、皆さんの仕事の場面でよく起こっているということなのです。
 皆さんが部下に対してある指示を下し、期限を1週間内としたとします。期限が来るまであまりうるさく言うのは悪いと思い黙っている。部下が何も言ってこないとどうなっているか少々不安になる。皆さんは、部下からは期限前に進行状況を報告してほしいという気持ちがあると思う。スタッフは上司からもっと色々な指示をしてほしいと思っている、そういう状況なり心理上のミスマッチ、これはすれ違いであり、できるだけ無くしてほしいということです。
 お互い意識的にコミュニケーションを取り合うと、映画のようにはならず、良い仕事ができるのではないかということです。
 私の経験ですが、式典の挨拶のためにある会場へ行き、そこに前から会いたかった方が基調講演の講師として来られていた。事前にそのことを教えられていなかったため、結局その人に会うことができず、残念な思いをしたことがあります。場所的、人的、タイミング、気のきかなさ、都合をつけられないというのは、非常にストレスも溜まって残念なことです。
 複雑な仕事を行う場合は、そのようなことはもっと多くあるわけです。できるだけお互いのミスマッチ、情報のミスマッチを避けてほしいと思います。

【Ⅱ アイディアを出すことについて】

(「関心」について)
 体調が悪いと、車に乗っていても病院の看板がよく目につくでしょう。お腹が減っているとレストランの看板に目が行くのと同じで、「関心」というのは、主観的にいろいろ思っていることによってある方向に向かうものです。
 皆さんもそれぞれの所管に対する関心というもの、これを絶えず力強く持っていないと立派な仕事はできません。ぼんやりしていては駄目です。関心をいい方向にできるだけ強く持つということです。
 一つのことに対して、皆さんの関心というのがまずあります。部下も少しズレた形で別の関心があります。それぞれの関心が違うから、相手が言っていることが思いつきに聞こえます。「知事は思いつきで何でも言う」とか「言うことがころころ変わる」というようなことがあるとすると、それは関心の違いと速さの違いなのです。
 おそらく、皆さんも部下から同じように思われていると思います。指示がないとか、何を思っているのか分からない、もっと良くないのは部下に放りなげることですね。それは、関心の違いから来るもの、もっと云えば意欲の強さによるものですので、皆さんは自分の関心事を部下によく伝えてほしいと思います。
 こういう見方で自分は考えている、どうだろうと部下の関心も聞きながら合わせていくと、良いアイディアや政策も生まれると思うし、先ほど話したミスマッチも改善されるでしょう。

(アイディアの固定について)
 色々なアイディアをたくさん出してほしいのですが、残念ながらあまり出てきません。良いアイディアというのはもともと少ないものだと思います。少ないからアイディアなのです。
 そこで一日起きている間に、どんなタイプのことが頭に浮かんでくるのか、一度振り返ってください。仕事のこと、家庭のこと、来週の予定など、さまざまなことがありますが、それぞれ思い浮かべる自分の分量をよく考え、勤務時間中はできるだけ仕事の分量が増えるようにしてほしいと思います。
 また、良いアィディアが頭に浮かんだら、メモに残してください。新聞を読んだりテレビを見た時に何か「ああそうだ」と思うことが出てきたら、自分の頭の中だけに置くのでなく、メモをとってアィディアを外に固定してほしいと思います。
 昨年、南部陽一郎先生がノーベル賞を受賞されました。ずっと以前には福井謙一先生という方がノーベル化学賞を受賞されています。この方は、アイディアが頭に浮かぶと、とにかくメモをするとおっしゃっていました。寝床の横に紙と鉛筆を置いて、寝入る前や夜中に思いついた数式をメモにされたそうです。福井さんは真っ暗な暗闇の中でも字が書けた人なのです。
 記憶すべき人の名前でも、あるいは数字でも、そのような習慣をつけると、皆さんの考えが継続性を持って次のレベルに達すると思います。

(ものの見方について)
 人間は、誰でもいろいろと勘違いもし、間違いも起こします。部下もよく間違ったことを言うと思いますが、そこで大事なことは、駄目だとか違うとか、そういうことを言うのではなくて、どういう見方で間違ったのかを相手に納得させてほしいということです。部下が言っている考え方がその物事をどの方面から見て言ったのかをよく聞いて、「その方面から見れば間違いではなく正しい。しかし、こういう見方でみると違っており、こうやるべきではないか」というように注意してあげてください。

(物をいえいえ)
 「物をいえいえ」とは、「遠慮なくしゃべれ」ということです。これは、蓮如上人の『蓮如上人御一代記聞書』という聖典に書いてあるのですが、その頃の時代の人たちは、あまり物を言えなかったのではないかと思います。当時はコミュニティが強い時代だったので、身分の低い人は遠慮があったり、女の人は喋れなかったり、いろんなことがあったと思います。仏様や神様の前ではみんな平等だが、もっと人に対して物を言いなさいということを、この上人は一向宗の門徒に向かって言ったと思うのです。
 また、蓮如上人は「物を言わぬ者は恐ろしい」とも言っています。物を言わない人は何を思っているか分からないからです。信じているのか信じていないのかも分からないし、どんな程度で信じているのかも分からないということで、注意も十分できないのです。恐ろしいということですから、よほど気になったことだと思うのです。
 「信、不信ともにただ物を言え」という言葉もあります。信じていても信じていなくてもどちらでもいい、ともかく今思っていることを口に出してみなさい、なぜそうなのかを言ってみなさいということです。
 これは今の我々に対しても言っていることです。物を言うことによっていろんな間違いも正せる、職場において議論する時は、仕事を一つの対象にしてざっくばらんに自分の気持ちをはっきり言えということです。
 

【Ⅲ 仕事の仕方について】

(事柄の原因)
 エレベーターが満員になってブーと鳴ったら、最後に乗った人が降りなければなりません。原因は平等だと思いますが、最後に乗った人が何か責任があるように思われます。上司が乗っても同じです。実際に世の中ではよくある話だと思います。
 原因を探すのが人間の性格です。何かつまらない事があると、あれが悪いとかあそこがよくないとか、原因と結果の関係が正しくなくても、必ず結び付けてしまうことを人間はやります。
 あるプロジェクトを行う際に、あらかじめ責任者を決める方式は、仕事を効率的に進める一つのやり方です。はじめから成否を問わず原因者を決めてかかっています。我々の行政であまり結果主義とか成果主義というのはとりたくないですが、ある程度は責任者を決めておき、皆で支え合って組織を盛り上げてほしいと思います。

(数について)
  「自己評価2割増の法則」というのがあります。皆さんが自分の持つ実力や優れた点を10と考えたら、実際は8であるということです。客観的に見るとそういうことで、自分を客観的に見つめる必要があるということです。自己像と写真うつりとの差です。
 落語家の故小さん師匠の話ですが、他の噺家の落語を聞いて、あいつは下手くそだなと思ったら、自分も同じ程度と思ったほうがいい、ということを読んだことがあります。逆にまあまあかなと思ったら、自分よりもかなりうまいのだと語っています。実際そのとおりではないかと思います。
 それから、「大入り満員7掛けの法則」というものもあります。ある催し物を行う際には、定員700人の会場だったら1,000人動員をすると70%でちょうど満員になるということです。
 皆さんがイベントを行う場合、来場者が500人予定となっていても、よく見ると200人程しかいなくて、その殆どが県庁職員といったケースもあります。担当部に「来年はちゃんと頼むよ」と言っても、翌年もあまり変わらないことが多い。イベントをただ開催しているだけになる。皆さんの家で同じようなことをしていたら大変でしょう。法事で10人呼んだら5人しか来ない、そんなことありませんね。そういうことに気をつけてほしいと思います。
 次に「6%の原理」というのがあります。人間は、あるものが大体6%ぐらい変わると何か変わったというように意識するらしいということです。皆さんの仕事が他の誰かよりも6%違わないと、周りの人からは違うなと思われないということです。6%が12回で全体として2倍にもなってしまいます。これが0.2%だって差が出るのです。何でも少しずつの違いと積み重ねなのです。少しぐらいの違いだと全然意識されません。みんなドングリの背比べになります。これも覚えておいていただきたいと思います。

(よい仕事のむずかしさ)
 管理職になると特に、それぞれの職場で一生懸命に、よい仕事を目指してやっていただいていると思いますが、よい仕事は残念ながら周りの人に感じられません。
 よい事や仕事は原因が詮索されないのです。天気がいいと天気がいいということですし、自然に電車が動いているとそれでいいし、何も問題ないのです。
 しかし、仕事を一生懸命やっているから良い状況なのですが、ちょっと失敗すると、誰のせいか等の文句を言われます。普通に仕事をしているととくに尊敬もされませんし、褒められもしませんが、公務というのはそういう性質かと思います。
 ですから、仕事の良し悪しというのは大変かと思いますが、しっかり進めて、あまり人に感じられなくても我慢していい仕事をやってほしいのです。
 注意しなければならないのは、派手なことをやろうとすること。いわゆるパフォーマンスですね。時には派手にやってもらうのも悪くないですが、あまり平生なことに足を着けないで仕事をするのはよろしくありません。
 誰も褒めてくれないかもしれないし、目立たないかもしれないが、地道に一つひとつ問題を解決する。それをベースに、時には気晴らしの派手さはいいですが、地道に粘り強く仕事を行っていただきたいと思います。

【Ⅳ 人の育ち方について】

(助言社会)
 これからは、あらゆる分野で助言をし合うということが大事であると思います。
 どういうことかというと、助言の必要さはとくに教育に関わりますし、県庁の仕事にも関わります。ご家庭でも同じなのですが、意外と正確な助言はしないものです。
 自分の部下に「あそこは駄目だな」と心で思いながら一言も言わないと、これは助言社会ではありません。部下に対して、具体的に注意点を伝えないといけません。部下は自分で悪いところは気がつかない。うるさく言う必要はないのですが、本人の将来のためにも、ここを直すと良くなるよ、ということを言ってあげてほしいのです。
 例えば、所属に職員が20人いるとします。その一人ひとりに、あなたのこの点は優れているが、この点は改善した方がいいというようなことを伝えているかどうかです。これは極めて大事だと思います。時には仏心を鬼にしてやらなければなりませんが、そうすることにより皆が繋がるのです。是非、職員に言ってあげてください。
 私も知事になってから、人からはっきり批判を言われるようになりました。選挙があるからです。ここが駄目だとか、公務員時代には殆ど言われませんでした。
 頻繁に言うことは必要ないですが、物事をはっきり、これはこうだとか上司にも部下にも意見を言うことが、これからの福井県を良くするために必要なことだと思います。是非実行してください。

(助言者のいろいろ)
 アメリカの元プロゴルファーのジャック・ニクラウスは「良いコーチは、どのようにすべきを教えるのではなくて、何故そうなるのかを教える。これが良いコーチだと自分は思っている」と述べています。
 ニクラウスほどの天才ですから、あまり「どのようにすべきか」ということを気にしたことはないと思いますが、ここに大事な点があるのです。
 例えば、ゴルフでショットをした時にスライスをしたとします。そもそも貴方のスイングは腰が曲がっていないとか、体重移動が悪いとか、そういうことを教えるのではなくて、「いまスライスしたのはこのためだよ」を教えられるのが良いコーチであるという意味なのです。
 「こうなるのはこのためだよ」と教えることが大事で、一般的に物事を論じて終わってはいけないということです。210723講演写真2
 助言者にはコーチとメンターという2種類のものがあるようです。経営学の学問的な区分もあるでしょうが、コーチは技術的、メンターはどちらかというと心構え的、精神的といえるでしょう。メンターは必ずしも社会的に成功したと外面的にみられる人のことではありません。
 皆さんも困ったり、悩んだり、壁にぶつかったりしたときに親身に相談相手になってくれるメンターを見つけ、いろんなことを学んでください。

【Ⅴ その他】

 仕事というのは大変難しく、心を込めて行わなければなりません。さまざまな仕事にどうやって突っ込んでいくかということですが、まずこの仕事の中へ身体を一回入れてください。仕事の中に身を入れなければ良い仕事ができないと思います。しかし、一回突っ込んだら出て、外から自分の仕事を眺めてほしいと思います。これは仕事をやっつけるためです。
 このときに大事なことは、頭の中にその仕事をずっと入れておくと、身体に悪くストレスも溜まるので、一回没入して頭に残さないで、仕事を客観的に眺めながら、その仕事にアタックするということです。それが本当の「没頭」という意味です。
 いろいろ苦しみや悩みもあると思いますが、そのように自由な気持ちで仕事をやってみてはどうでしょうか。
 仕事を進めるに当たり、失敗することもあると思いますが、そんなことは気にせず前向きに取り組んでください。福井県を皆の力で良くしていきましょう。

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