日本自治学会 共通議題Ⅱ「道州制」パネルディスカッションでの知事発言要旨

最終更新日 2010年2月4日ページID 000529

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このページは、平成19年11月4日(日)、地方分権と地方自治について研究する日本自治学会に、共通議題Ⅱ「道州制」のテーマで知事がパネリストとして参加した際の発言概要をまとめたものです。

 Ⅰ はじめに
 Ⅱ 現在の都道府県の状況
 Ⅲ 全国知事会の状況

  [質疑応答]

【Ⅰ はじめに】

191104講演写真1  道州制が将来「必要であるか必要でないか」についてですが、私の方からは、話を少し分かり易くするために、対立軸を示して、具体的に話をさせていただきます。そして後半は、全国知事会のお話をさせていただきたいと思います。

【Ⅱ 現在の都道府県の状況】

 道州制を考える場合に、現在の都道府県の様子がどのようなものかというのを一度客観的に見ていただくのがよろしいかと思います。

 まず1点目は、県境を越える活動がどのような状況か、といったものです。県外への通勤・通学の機会が多いのは主に大都市圏でありまして、奈良県だと3割ですね。日本の平均が8.5%ですが、これを超えるのは9府県に集中しております。
 よく、経済圏が広がっている、交通網が広がっている、通勤・通学圏が広がっていると言いますけれども、一方で、県外への通勤・通学率が低い県も、北海道、沖縄を別にしても結構あります。ご覧いただきますと、1%未満もあります。福井県ですと1.2%、富山県、石川県も1%台であります。こういう中で、住民が普通の生活をし、自らの幸せを求めているという状況ではないかと思います。
 福田内閣でも、生産第一の視点からものを考えるのではなく、国民生活の安全・安心など中心に政策を組み直そうじゃないかとしているわけですが、こういうことを考えますと、生活の実態から見て、今のままでも十分な地域として生活できるのではないかと、こういう議論があるかと思います。

 2点目に、都道府県が小さいかどうかということ、大きいことは良いことかということでございます。
 アメリカの州と福井県を比較すると、デラウェア州からワイオミング州までの6州が、福井県より人口の少ない州であります。また各州のGDP、総生産額ですが、福井県よりも小さい州があります。もちろん、日本の平均と比べますと、もっと増えると思います。グローバル化というのも、特定の大企業から見ますと都道府県は小さいとか、狭いとか言われますが、実際には都道府県はある程度のスケールがありまして、決して小さくはありませんし、大きいことがいいことかと言いますと疑問もあります。
 ヨーロッパにおける大国と小国の成長率を比較すると、もちろん英独仏それぞれに成長しているわけですが、むしろベネルックス三国とか、小さい国が頑張っているというのも事実であります。
 地方自治体の規模ということになりますと、政治的な遠さとか、住民自治がどの程度実現できるかとか、その地域で代表者をどのくらい出せるのか等が問題になります。例えば、福井県の県議会の議員は40人ですが、道州制になると5~6人になるかも知れません。それで福井県の状況が道州に伝わるのか、ということも考える必要があると思います。また、そういう状態で社会的な課題に対応できるのかということですね。大都市になりますと、どうしても東京のように、税金の徴収率や失業率、生活の福祉などの問題を抱えるようになります。あるいは学力、あるいは出生率とか。これらは、ある程度、今の地方のまとまりの中で、対応できているのではないかな、とも思います。

 3点目は、中心都市への一極集中の可能性についてです。北海道で道州制の特区をやっておりますが、北海道と九州の昭和55年から平成17年までの状況で、北海道は札幌に、九州では福岡にどのくらい人口が集中するかと言いますと、やはり北海道は周辺部の人口が減少しております。他に核となる都市がありませんとどうしても中心地域に人が集まり、周辺部が寂れる傾向があるかもしれない、と一つの例として挙げさせていただきました。

 最後に4点目は、都道府県に対する県民の愛着がある、ということでございまして、アイデンティティや愛郷心というものがあることを忘れてはなりません。福井県では、今年の7月に東京、大阪、名古屋、福井でそれぞれ各350名、合計で1,400名の方にアンケートをさせていただきました。道州制に関する福井県独自のアンケート結果です。道州制の導入に反対が57.2%、賛成2割、わからない2割です。反対の理由ですね、つまり今の都道府県がいいんだという理由かも知れませんが、愛着や親しみがあるから、きめ細かな行政ができなくなるから、地方分権につながるとは限らないからということでございます。
 参考として、日本世論調査の調査もお示しします。1年前の調査ですが、よく似た傾向にあります。
 我々が「どこの出身か」といった場合、例えばお酒を飲んでしゃべる時とか、甲子園の野球の出場校、紅白歌合戦とかにしても、都道府県で答えているわけですが、そういうことをどのように考えるのかということであります。

 都道府県のスケール、それから人々の思いというのは、大体こういうところではないかと思います。
 

【Ⅲ 全国知事会の状況】

191104講演写真2 次に、全国知事会の状況についてお話します。平成16年3月に、第28次地方制度調査会に「道州制のあり方」が諮問されました。また、国会でも皆さん、精力的に議論されているということでありますので、17年の7月に全国知事会内に道州制特別委員会を設置しました。昨年の6月、島根県の松江で全国知事会が開催されまして、「道州制を導入すべき」という報告書が出されたのですが、賛否両論がありまして、議論が百出しました。その主な意見を紹介します。

 まず、賛成的なお考えの方の意見です。今の都道府県では分権社会には小さいという意見、経済圏や通勤圏、広域的な課題に道州制だと対応できる。それから、自立的な圏域が形成される。もう公共施設をフルセットで整備するだけの投資ができないから道州で対応する。行革のために道州制を導入すべき。これが賛成のご意見です。
 いや、そうではない、という反対の意見ですが、国と地方の役割分担、財政調整については、いま議論していただいているところではありますが、具体的にはなされていない。あるいは道州といったものは、住民自治といった点から見ますと、非常に遠い存在になってしまう、住民自治の面で大きなデメリットが生じるということ。道州制が国と地方の歳出削減のための一律的な都道府県合併につながる恐れがある。それから、道州制のメリットは、今の広域行政の仕組みで対応できる、ということですね。また、道州制の導入によって地方分権が実現すると言っているが、その理由が全く不明である、と。こういった問題が、消極あるいは反対の理由であります。
 全国知事会としては、賛否を決することができませんでした。そういった問題を踏まえて議論を進めていくことはよろしいだろうということになっておりますが、現在、全国知事会としては、道州制導入に対してニュートラル、中立ということになっております。

 今年1月に入りまして、全国知事会で「道州制に関する基本的な考え方」を整理しておりますが、「まず道州制の導入ありき」ではなくて、「もし、将来道州制を導入するのであれば」という仮定の下で7つの基本原則と8つの具体的検討課題をまとめたのであります。どのようなことが論点・課題となり、地方にとって、どのような視点が必要だろうかといったことを整理しようということです。
 道州制について議論するときには、まず、こういうことは考えておかなければならないといったことが7つ挙げられました。
 ひとつは、道州制は地方分権を推進するものでなければならない。
 二つ目は、地方自治体は二層制であるべきであるということ。どのような形にせよ、市町村と道州あるいは都道府県の二層制であるということ。
 それから、国と地方の役割分担を抜本的に見直し、内政に関する事務は、基本的に地方が担うことで、総合的な政策展開が可能となるものでなければならない。
 四点目は、国の出先機関の廃止と「中央省庁」そのものの解体再編を含めた中央政府の見直しを伴うものでなければならない。
 五つ目は、内政に関する事務について、道州に決定権を付与するため、国の法令の内容を基本的事項にとどめ、広範な条例制定権を確立しなければならない。
 六点目は、自主性・自立性の高い地方税財政制度を構築しなければならない
 七つ目は、区域の話は後にすべきでありますが、地理的・歴史的・文化的条件を勘案なければならない。
 と、こういう話の中で、具他的には、国のあり方と国・道州・市町村の役割分担、税財政制度のあり方、大都市圏との問題、市町村との関係、住民自治のあり方、議会議員の選出方法、条例制定権の拡充・強化、あるいは組織・機構のあり方などについて、議論をしましょう、整理をしましょうということになったわけです。

 この知事会の中でも、北陸地方は、どちらかというと消極的な知事が多かったかと思います。日本列島改造論とか首都機能移転問題などがありましたが、枠組みで物事を議論していきますと、本来理想として描いたものが、一方的になるというのが日本の地方政治、あるいは民主政治だと、残念ながら思うわけでありまして、「道州制ありき」という議論も、そうならないよう、まず地方分権改革を進め、行革、大都市問題の解決が必要かなと思います。
 地方自治の問題として、三位一体の改革、これに我々は期待していたのですが残念ながら結果は違っておりまして、交付税の大幅削減など地方の疲弊の一因になっているという気がいたします。市町村合併にしても、当初示されました支援の方策をどのようにやっていくのか、といった課題を抱えております。
 こういうことを考えますと、制度改変というのはなかなか難しく、十分に慎重な議論が必要であると考えます。
 戦前の大きな課題として金解禁というのがございました。これは当時のグローバル社会への対応として、列強に対峙して日本の国益を上げようとしたもので、当時は浜口内閣でしたが、大変な制度改革であります。経済界挙げて、これを実現しなければ、日本のあらゆる問題は解決できない、ということでありましたが、これは昭和恐慌を引き起こしました。大きな改革を考える場合には、よほど考え、整理し、統一して対応なり、実行していかなければ、時として方向を間違うということも大いに考えられるわけであります。我々日本人は時として抽象論に流れやすいわけでありますが、慎重に議論しながら進めていった方がよろしいのではないかと、このように考えます。

[質疑応答]

(問)道州制の導入により、農村の疲弊が解決できるか
(答)道州制と農村の問題は、あまり関係はないと思う。 

(問)行革の観点から見て、道州制をどのように考えるか
(答)道州制の導入により、効率化が進むという面はある。しかし、他にも方法はある。効率化は必要だが、それが道州制でなければならないという根拠にはならない。

(問)市町村合併で県の役割は変わったか
(答)地方自治体には、決定する権限がないだけで、処理する事務は多くある。これらの事務は、市町村が合併しても変わらない。むしろ状況的には増えている。実感としても、市町村合併で県の役割が変わったという実感はない。

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