地方自治経営学研究大会パネルディスカッションでの知事発言要旨

最終更新日 2010年2月4日ページID 006205

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 このページは、平成20年5月22日(木)、日本都市センター会館で行われた地方自治経営学会研究大会での知事の発言部分を要約したものです。
 大会には、自治体職員、地方議員など約600人が参加し、「地方分権、地方交付税、地域格差問題」をテーマとしてパネルディスカッションが行われました。恒松制治 地方自治経営学会名誉会長の司会のもと、西川知事のほか、森雅志 富山市長、坪井ゆづる 朝日新聞編集委員、飯尾潤 政策研究大学院大学教授がパネリストとして参加し、それぞれご意見を述べられました。

 Ⅰ ふるさと納税について
 Ⅱ 地方自治と住民参加について
 [質疑応答] 

【Ⅰ ふるさと納税について】 
 福井県知事の西川でございます。よろしくお願いいたします。

200522発言要旨写真1 今日のテーマには、自立と発展、財政、分権、再生など様々な言葉がありますが、これらを一つひとつ論じていますと時間がないので、今日はこれら全部に関係する材料となる話をさせていただきたいと思います。

 私からはテーマの材料の一つとして「ふるさと納税」を話題にしたいと思います。「ふるさと納税」は、福井県および福井県の自治体が相談して提唱したものです。先月の4月末に例の暫定税率の法律などとあわせて法案が通りました。そして、全国の都道府県や市町村において、ホームページあるいは様々な媒体を通じて、寄付をしていただこうという動きが始まっています。

 そもそも私が「ふるさと納税」を考えた背景には、次のようなことがあります。

 一つには、地方で子どもを0歳から18歳まで一生懸命育てます。福井県は共働き率も高いですし、子育てでは全国をリードしている県だと思います。出生率も2年前に最初に上昇した県です。学力調査でも成績は秋田県とならんで日本一です。それから健康長寿県です。失業率も日本一、二を争うくらい低いです。このように18年間さまざまな応援をして、その子供たちが3,000人ぐらい東京や大阪の大学に行きます。しかし4年後、1,000人あまりしか福井に戻って来ません。計算しますと、その間の(行政からの支援の)総額は一人あたり大体1,700万円かかりますが、いよいよ働く時期になると、福井では働いてくれない。そういう基本的な人的資源のライフサイクルバランスが崩れている。これを何とか是正しないといけないと思いました。

 もう一つは、大都市にいる人達も自分のふるさととのつながりを持ちたい、しかし直ちに帰れないかもしれない、あるいはふるさとと思う所へ移住ができないかもしれない、二地域居住もすぐには難しい、こういう人達のつながりを何とかして回復する必要があるだろうということです。

 ようやく法律も通ったわけですが、戦後、地方団体が提案したものが、具体的に税制なり政策に普遍的な制度として実現できたのは、これが最初だと思います。こういうものは一つひとつ、今日御出席の皆さんの知恵や工夫でどんどん提案されて、全国版の制度として具体化するということが大事だと思います。

 さらに、もう少し具体的に申し上げますと、地域の住民または市民が自治体の行政に関心を持っていただきたい、タックスペイヤーの意識を持つべきだとよく言いますが、これをどうやって具体化するのかということがあります。「ふるさと納税」はそういう意味で一つの実験的なモデル事業になると思います。つまり、日本の租税制度は、あらゆる税がそうですが、一方的に国や地方団体が課税し、納税者の自由がないわけです。ほとんど源泉徴収で徴収されますから、税金を納めるという意識もない。使い道にも関心が薄い。このように受益と負担の関係が非常に希薄なのが日本の税制だと思います。

 「ふるさと納税」は、自分の税金の一部を寄付という形で福井県に帰属させる、そういう選択が働きます。納税者の選択が働く、私はこれを納税者主権と呼んでいますが、タックスペイヤーの意識が働くということなのです。これまではそういうシステムはありませんでした。つまり、東京の行政と福井県の行政を比較する、あるいは福井市と富山市の行政を比較する。そして、こちらがすばらしいと思う地方政府を選択し、一部ではあるが税金を納める。こういう納税者選択の機能を「ふるさと納税」の制度は持っており、各自治体の行政を比較し、選択する仕組みが出来るきっかけになると思います。

 同時に自治体のサイドで考えますと、福井県と他の県の間に競争が生じます。どちらの自治体を納税者が選ぶかということで、よい行政をしなければなりません。この制度の基本は、それぞれの自治体が納税者に評価され理解される行政を進めるきっかけになることだと思います。寄付の形で金額で表示されますので、客観的に評価できるようになり、新しいタイプの自治体競争がここに生まれます。

 もちろん、これだけで自治体の競争が出来るわけではありません。まちづくりとか様々な工夫、都道府県の行政の良さというものもあります。そういう地域間競争の正しい評価、単なるポピュリズムにならない一つの方法論として「ふるさと納税」制度があると思います。

 それから、単に税金だけで仕事をするわけではなく、寄付の文化がこれから重要です。最近、札幌だったと思いますが、何億円かを市の発展のために寄付したいという話がありました。寄付の文化は日本では弱いと思います。アメリカと比べると寄付の額の桁数が違うくらいです。行政と自由度の高い民の力による、いわゆる共動の地方自治行政ということも21世紀の地方自治に重要なことだと思います。「ふるさと納税」が日本における寄付文化やボランティアなどのきっかけになればいいと考え、提案しました。

 こうしたことをきっかけに、さらに大都市をどうするか、地方をどうするか、財政全体の基本的な制度をどう切り込むのか、ということがこれからの課題になると思いますが、そういう議論の一つのきっかけ、出発点としてお考えいただくとありがたいと思い、話をさせていただきました。

【Ⅱ 地方自治と住民参加について】 

 私は、大都市と地方がどう助け合っていくか、東京から地方を見るときに眼鏡の度や遠近がうまく合っているか、地方から東京を見たときもそれらが合っているか、そういう大都市と地方の関係がいつも気になっています。そういうことで、冒頭に「ふるさと納税」の話をしました。

 大都市と地方について、メディアを通じていろいろなご意見を受ける、また地方からも発信するのですが、そこに大きなギャップがあります。これを何とかして埋める必要があると思っています。先ほども道路特定財源の話が出ましたが、これは、40兆、50兆円の議論を突然出して、本来はそれぞれの地域に関係する大事なことなのに、「これはどうなんだ、一般財源か特定財源か」という抽象論や政治論を展開するのはどうなんでしょうか。これは問題だという意見が地方団体や住民の皆さんには強かったのではないでしょうか。地域に関係する問題ですので、もっと具体的に議論すべきと思います。

200522発言要旨写真2  道路もいろいろなタイプがあると思います。日本において道路のネットワークはまだ完成していません。あと5年、10年はかかると思います。まずこれを完成しなければなりません。地域の道路財源はこうした現場の判断があると思います。

 大都市と地方のギャップを埋めて、日本の地方自治あるいは日本の国土政策を論ずる時代がこれからやってくると思います。「ふるさと納税」は、地方と大都市の結びつきを大事にした議論です。

 もう一つ重要なことがあります。それは、地方自治は民主主義の学校と言われますが、日本でなかなかこれが実行されていないということです。

 地域の活動や政治に携わっている活動がどれくらいあるでしょうか。消防団とか清掃活動、自治会の役員など地域で何か活動をやっていると、何が大変で何が問題なのか、そんな生易しい話でないということがよく分かると思います。選挙でもそうです。ある候補者の応援演説をしたり、支持したりすることが地方自治であり、地方の政治です。地域でそういうものを深めていって、自分たちの町をどうするのかということを決めていかなければなりません。

 しかし、何百万の人がいる大都市で、地域ごとに地方自治やデモクラシーが出来ているかというと、なかなか出来ていないと思います。東京だったら23区ごとに公選の市長や議員がおられるから、いろいろ議論がそれなりにあると思いますが、他の大都市で地域の議論、まちづくり、民主主義の活動がもっと深まらないと、大都市から地方を見るときにどうしても抽象的な議論になると思います。大都市自身もよい街には決してなりません。

 競争関係も生じないと思います。大きな町の、ある地域と別の地域の何が違うのか、何が問題なのか、どういう競争をするのか、という議論を大都市も地方も両方で進めていくこと、これが21世紀の地方自治の成熟化のために必要だと思います。それが出来ていない部分に、一つひとつ民主主義を浸透していくべきだと思います。それが地方自治の学校だと思います。そうすれば、あっちがおかしい、こっちがおかしいという抽象的な議論に終始しなくてすむと思います。

 [質疑応答]

Q1 福井県としてのグランドデザインというのはあるのか。

(西川知事)
 2030年の福井の姿を作っている。


Q2 道州制についてどのように考えるか。

(西川知事)
 抽象論であるので、よく議論すべきである。私は基本的に消極的である。
 その主な理由は、次の4点。
  ①東京や大阪への一極集中が進む
  ②道州間の格差が拡大する
  ③地域の個性が生かされない
  ④住民自治が低下する


Q3 道路特定財源の問題に関し、ねじれ国会を想定して予算を組まなかったのか。また、B/Cの見直し、新たな優先順位による道路の計画を見直さないのか。即、道路の事業を復活するのはいかがなものか。

(西川知事)
 福井県では毎日、計10回以上、道路特定財源の動向について会議を開き、対応を検討した。
 また、道路のB/Cについては、もともと福井県では1件審査でB/Cを見て必要なものを整備している。また、他県とのネットワークがまだ完成していないということがあり、地域の振興を考え、基幹道路は急いで整備すべきという方針で臨んでいる。
抽象的な議論ではいけないと思う。


Q4 国、地方それぞれがIT化に多額に費用をかけている。国と地方の共通のプログラムを作ることでもっと安くならないのか。

(西川知事)
 福井県は民間から専門のIT専門官を採用して、コスト縮減を図っている。


Q5 議会のことであるが、執行部側から議会側へ質問できないのはおかしいと思う。首長の立場としてどう思うか。

(西川知事)
 議会の質疑にはいろいろあり、演説、意見を述べる、疑問を述べる、提案をするなどの類型がある。時には私は議員に答弁の必要から質問することもある。



 

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