「第47回関西財界セミナー第3分科会」での知事発言要旨
このページは、平成21年2月6日(金)、国立京都国際会館で行われた「第47回関西財界セミナー第3分科会」で、知事が「地方分権改革と道州制の是非について」というテーマで発言した内容を若干表現を加え、文章としてまとめたものです。 |
地方分権、これからの地方自治、国と地方との関係、枠組みの問題としての道州制論などを中心にお話します。 |
【Ⅰ 道州制の課題について】 福井県も独自に、東京、大阪、名古屋などでアンケートを行いました。その中で、都道府県については「親しみがある」、「きめ細かな行政ができる」という意見があり、「広い自治体だと地方分権につながらない」という意見もありました。概ね、現在の制度を充実すべきという考えだと思います。 国民は直感的に、新しい道州制の枠組みが自分たちの生活を豊かにするものだとは感じていない、あるいは大きな自治体になると無理が生じるのでないか、ということを意識しているのだと思っています。 また、日本を10いくつかのブロックに分けるということは、その大きさはヨーロッパでいうところの大航海時代の国と同じくらいになります。日本は幸いにしてといいますか、戦国時代の織田信長以後、一つの国家に統一されました。経済規模で比較すると、関西圏は、ヨーロッパではオランダ、あるいはそれ以上の国などに匹敵する地域でありますが、日本は、ヨーロッパの諸国と比べて国家として統一されているわけですから、こういう中で、国を新たに独立的な州や道に分けることは、現代のグローバル化する時代の中で、歴史的に見ても、向かうべき方向が違うのではないかと理解すべきです。 地域間の切磋琢磨や競争というものはある面で大事なものですが、あえてそういう対立を引き起こす必要はないと思います。 次に、地方分権と道州制との関係ですが、道州制はともかく地方分権をなんとしても行うべきで、今まさに、国においてもまた、地方においても、厳しい努力を積み重ねているところです。 今回の様々な分権の課題については、100%実現することはないかもしれませんが、その場合にも、次の段階では実現されるよう、日本全体で絶えず分権に向けた努力をする必要があると考えています。これが、私の国家と地方の間の分権のイメージです。 残念なことに、道州制は、過去の歴史を見ても、中央集権的な方向の発想から提起されています。今回の区割りの案の提示の仕方からも分かるように、地域とは関係なく地図を眺めたような中央集権になりがちだと思います。 現在、都道府県で出来ない、あるいは都道府県が受け皿となりえない、そのような仕事は基本的にないと思います。大阪や京都、兵庫のような都市圏の府県、あるいは福井県のような小さい県でもそうですが、国の仕事で地方自治体ができないものはないと思います。自治体は、必ず事務事業を責任を持って実施するものですから、現在の都道府県制という仕組みの中で、分権を実現できると思います。決して、都道府県は、能力や意欲、情熱に欠けるものではないと思います。 さて、東西の対立、あるいは「資本主義」と「社会主義」という対立軸がなくなりましたので、人々の気持ちの中に、「何か制度を改革しなければならない」という意識と、政治的な制約がないので安易に行動に移そうとする傾向が、残念ながら生まれがちです。 ここで注意しなければならないことは、空想的な改革主義に陥ってはならないということです。絶えず現実を見て、まずは「どこが本当におかしいのか」、「どこを直せば国民のためになるのか」、という議論をすべきです。 その上で「どのように改革を進めるのか」ということが大切になります。その場合にも、道州制論の考え方には、どうしても理想主義でロマンチックなところがありますので、惹かれる方もおられますが、しかし、自分の身近なところから考えてどういう意味があるのか、住民のためにはここはじっくりと構えていなければなりません。将来はどうなのか今は何を行うべきなのか、ということを考えるのが我々の務めであると思います。 また、大きな地域になると、地域間の格差が一層進むと思います。これは、北海道と九州と比べて、中心地と周辺地域と比較をすればよく分かると思います。北海道はより問題点が出ています。格差是正ということは非常に大事なことであり、広域化という方法では、格差のない社会をつくることは困難ですし、また東京一極集中の解決にもつながりません。逆に、より深刻な姿で大きな州間の対立を生むことになると思います。 民主主義の観点で言いますと、道州制の下で、民主的な選挙を行うこともまた非常に困難だと思います。福井県のような小さい県でも17日間かけて選挙活動を行います。人口が数百万あるいは一千万を超えるような地域で、果たして選挙や政治にどのようにして民意を反映できるか、想像してもすぐにわかるような困難な問題です。 そして、政治の統治システムとしても難しいところがあります。例えば、大都市のある府県の実態を見ると、そこの知事は非常に苦労していると思います。やりようがない状態かもしれません。政令指定都市の市長も同様で、困難な問題なのです。だから、大都市のような大きさでは改善をしないと、民主的な統治は無理ではないかと思っているのです。これは、都市の自治体の努力にかかわるのです。 |
【Ⅱ バランスのとれた国土政策について】 「企業の立地についてどうすべきか」、「雇用を確保するにはどうするのか」、といったことは地方でも行うことができます。しかし、地方と都市など国土政策のあり方を今一度考え直し、「今後、東南アジアと日本の地方がどういう関係にあるべきか」など、グローバル化の時代において国土政策を考えなければならないと思います。 その手段として、企業と行政の間には、まず「税制」という明確なつながりがありますので、これを上手く活用することが大切です。 また、これは企業の皆さんからは通常見えないかもしれませんが、今回のような不況になると、自治体と会社や市場との密接な関連が実はあからさまになり、その根っこが分かるようになります。地方と企業は、社員の生活などを通して直接に結びついているのです。市場は勝手に立てないのであって、人と国土の基盤が要ります。 わが国においては、教育、介護、様々なインフラ整備など、様々な分野での投資のバランスが今ひとつ取れていないということが全般的にいえると思います。まさに景気、経済対策を含め、この国土に対する投資の地域間のバランス、あるいは省庁間、同一省庁の部門間の投資のバランスを、これから5年、10年の間に、これをなんとしても変えなければならないでしょう。例えば、道路と鉄道の関係、農業だと様々な作物に関する予算と土地改良など基盤整備のバランス、などがその例といえます。これらを見直さないと、わが国は決して良くならないと思います。 そして、関西エリアでは特に重要なことですが、関西ではこれまで中心地をイメージして戦略を立てがちであるということです。つまり、「梅田駅をどうするのか」や「空港をどうする」、「ベイエリアをどうするのか」などに目が行きがちだということです。 しかし、もう少しエリアを広げて、例えば北陸でいいますと、福井県の原子力発電と関西との関係、あるいは北陸新幹線をどうするのかということを考えないと、関西の力は広がりを持たないと思います。他の周辺の地域との関係も同様です。 東京と比較すると、関西での地域間の時間距離は、東京での2倍かかります。これを面積でいうとπr2ですから、関西では同じ時間で、東京の4分の1か5分の1しか地理的にはカバーできないという実力が実態なのです。この状況をなんとしても、国土政策の一環として、交通ネットワークの整備によって見直すべきだと思います。 |
【Ⅲ 大都市問題について】 福井県は学力とか体力が日本一高いところですが、これに比べて大都市は低く現れがちです。これを解決するには、政策の向きを変えて自らの足元に改革のベクトルを当てると、地域の自治の圏域を細かく区分して、大都市の中でもそれぞれの地域の特性を活かした政治を行わなければいけません。 あまりにも人口が集中して、多くの住民が政治に参加しにくく、また良い行政サービスも受けていないといった現状であると思います。これを何とかして直す必要があります。すなわち大都市改革です。大都市に住む皆さんが考えなければならない問題です。域内の大都市の問題点をそのままにして、外に膨張して問題を解決しようとしても、都市圏のデモクラシーも日本の地方自治も良くなるはずがなく、支持も受けられないと思っています。 いろいろ申し上げましたが、世の中に道州制論のような「万能薬」などというものは決してありません。しかし、一つひとつの問題を解決する「特効薬」はあるかもしれません。「一つひとつの問題にしっかりと対応する」、これがこれからの地方自治における有効なアプローチではないかと思います。 |
Q1 まず道州制から入るべきという考えもあるが、いきなり道州制にすることの問題点などがあれば、意見を伺いたい。 |
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