ふるさと納税推進フォーラム パネルディスカッション

最終更新日 2010年10月6日ページID 013475

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 このページは、平成22年10月6日(水)に砂防会館(東京都千代田区)で行われたふるさと納税推進フォーラムにおいて、「いきいきふるさとづくり」というテーマで行われたパネルディスカッションの内容をまとめたものです。
 コーディネーターおよびパネリストは次の方々です。

 ◇コーディネーター
  ノンフィクション作家・獨協大学経済学部特任教授 山根一眞氏
 ◇パネリスト
  (株)ふるさと回帰総合政策研究所代表取締役 玉田 樹氏
  スポーツプロデューサー・筑波スポーツ科学研究所副所長 三屋裕子氏
  福井県知事 西川一誠氏

【山根】
 ふるさと納税は、国そのものをよみがえらせる一種の知恵、すばらしいアイデアだと思います。これをどのように普及・発展させていくか。221006発言要旨写真1
 「ふるさと」という言葉がキーワードで、東京の一極集中が進み、一方で産業の高度成長が終わり、少子高齢化時代を迎える中で、今までとは違う、新しいふるさと感を持たなければいけないという時代が来て、ふるさと納税が新しい国づくりの口火を切ったのではないかと思います。

【三屋】
 私にとってのふるさとはクリアキーみたいな存在。パソコンや電卓についているクリア。オールクリアではないが。ちょっと前の忙しさや普段自分が乗っかっている肩書きなどは、ふるさとに帰ると瞬く間に消されます。何の肩書きもない、ただの三屋裕子になれる存在。ふるさとはいつまでもそういう温かい存在であってほしいと思います。
 これは東京に住んでいてふるさとを見る人間のわがままかもしれませんが、いつまでも変わらないでほしい。福井は東京や大阪、金沢を目指すのではなく、福井のままであってほしい。都会に住んでいる者からすると、いつまでもエネルギーチャージをしてくれる場所であってほしい。そのために私は何ができるだろうかと考えています。
 私は15年しか福井に住んでいませんでしたが、頭のどこかに福井という文字があります。何かに触れたときに「あ、やっぱり私の中のDNAは福井なんだ」と感じます。だから、「ふるさと」というと、どうしても自分のDNAを感じる部分もあるし、クリアキーという存在でもあります。

【山根】
 三屋さんが思っている「目指してほしくない東京や大阪」というのはどういうところですか。

【三屋】
 慌しく時間が過ぎていくとか、建物が画一的であるとか……。情報は日本全国どこでも均一に来る時代なので、これからはいかに独自性を出していけるかがキーワードだと思います。皆が十把一からげ、同じようなカラーになったらつまらない。

【山根】
 例えば、福井県出身者が都会に出てきたときの思いと、実際に福井に残っている人の思いにはギャップがあるはず。玉田さんはどのように考えますか。

【玉田】
 私は青森県生まれ、正確に言うと弘前の生まれです。よく人から「おまえは弘前出身と言うが、生まれただけではないか」と言われます。いつまで過ごしたら弘前出身と言えるのか。これは非常に重要な問いかけです。私は赤ん坊のころに弘前で過ごしただけで、後は千葉で過ごしました。そういう意味では「おまえの出身はどこだ」と言われたら答えようがありません。しかし、弘前生まれというのはものすごく誇りがあります。東京で津軽弁をしゃべっている様子を見かけると、もう心がじんじんします。
 福岡県の甘木市の駅前にある宮崎湖処子の碑に、「帰省」というタイトルで「このうるわしの天地に、父よ安かれ母も待て、学びの業の成る時に、錦飾りて帰るまで」と書いてあります。何よりに気に入ったのは「このうるわしの大地」。やはり「ふるさと」というのは「このうるわしの大地」そのものであります。要するに、心の居所、自分の気持ちをいやしてくれる場所。
 しかし、20年ぶりに地方を回り始めたとき、20年の歳月ってこんなに地方をだめにするのかと、愕然とした気持ちになりました。この落差は一体何だろう。私はこれを復活させるために何とかしたいと今の仕事を始めています。私にとって「ふるさと」とは弘前だけではありません。全国各地が「ふるさと」で、「このうるわしの大地」という田舎がふるさとになってほしい、そういうことを願っています。

【山根】
 私は東京生まれの東京育ちで、私のふるさとは東京。でも東京都は好きではありません。中野区の生まれで、今は杉並区に住んでいますが、中野区や杉並区が好きで、そこが私のふるさと。東京の人間にも東京というふるさとがあるということを、皆さん思っていていただきたい。
 実は、このふるさと納税制度も、もっといろんな知恵があると、私たちの払う税金がうまく活かされていくのかと思っています。そのベースにある大事な「ふるさと」という思想、あるいは日本列島を覆っているもう一つ別な世界、そういうものに西川知事は気づかれ、そこから論理構築をされて、地域を活性化させる、福井県を活かしていく、日本中をよみがえらせてくれる、新しい思想のようなものをつくられたのかと思います。知事はどういう「ふるさと」というもののイマジネーションを得られましたか。

【西川】
 戦後、高度成長期が始まる中で、田舎から出てきて故郷に錦を飾るとか、あるいは集団就職で東京に出て何とかしてお母さんに会いたいとか、そういう時代であったと思います。しかし、高度成長期を経て、ふるさとは、山口百恵さんや五木ひろしさんの歌の「日本のどこかに」、「だれにも故郷がある」という歌詞のように、特定性を失い、誰にでも、どこかにあるものに変容しました。
 そしていよいよ21世紀になり、むしろそういうタイプではなくて、さらに自分たちが、もちろん生まれたところはふるさとということになるかもしれませんが、何か関係のあるところを自分でふるさととして選んでいこうという時代になりました。そこで生きがいを見つけるとか、友達をつくるとか、つながりをつくっていこうとか、そういう感覚ですね。それをいかに制度としてつくり上げるかというのが、ふるさと納税の考え方です。
 行動で表すためには、まず思うことが大事ですが、思うだけでは何もならないので、まずは寄附という形を考えました。
 究極的には、みんなに来てほしいという「ふるさと帰住」。今は、その方向に動かす途中の段階だと思います。ふるさと納税制度にいろいろ課題がありますが、大きな流れはそのように感じています。

【山根】
 西川知事は、福井駅におりたら星空しか見えないような、そういうふるさとであってほしいと思いますか。

【西川】
 東京も一つの大規模な地方、田舎です。これに中央政府としての機能が加わり、情報、市場などが集中しているのです。田舎は共通だけれども、その役割と地方との関係をどのように構築し直すかということが重要です。
 福井県は、毎年約3,000人の高校生が東京や大阪の大学に進学し、4年後には1,000人しか戻ってきません。これは市場の力というものが加わっているためで、同じような現象が全都道府県で起こっています。

【山根】
 西川知事がふるさと納税のようなシステムで力をつけていきたいと考えていることに対して、三屋さんは何か思うことありますか。

【三屋】
 少し前までは、田舎から都会へどんどん出て行き、地方が空洞化し、寂れていきました。今では、中国やインドなど、どんどん海外に出て行き、日本の国が空洞化しています。日本はどうするのか、地方はどうするのか。
 そうしたときに、そこに行かないと買えない、そこでしか手に入らない、そこでしか体験できないなど、地域の独自性をこれからもっとつくっていくべきだと思います。そうすれば人はきちんと動きます。そうした独自性が、これからの日本の国全体の再生の鍵になると思います。

【山根】
 米子市に出版文化を普及させる活動をしている有名な書店があります。そこで地方出版文化賞というものを設け、毎年地方で出版された出版物の中から優秀作品を選び、賞を与えています。例えばふるさと納税をこの賞のために活用することにより、日本中の作家を目指す人たち、あるいは文化活動をしている人たちを元気づけることになります。単にふるさとが元気になってくれればいいというだけではなく、知恵がすごく求められているのです。

【玉田】
 西川知事は『「ふるさと」の発想』の中で、「ふるさと」とは何かということを述べられています。「つながり」と書かれており、これはものすごい重要な考え方だと思います。
 今の都市と地方の問題を端的に申し上げますと、17歳人口の20%は東京に行って戻ってきません。地方の人口は毎年0.23%ぐらいしか減っていませんが、17歳人口が減少しているのです。これがボディーブローのように地方に効いているというのが現実です。この奪還をしない限り、とんでもないことになります。
 私は2012年には10%の人がふるさと回帰をすると予測します。移住したり、二地域居住を行う人が増えるということで、こうしたことを追い風に、人を戻す努力ができないかというのが私の考え方です。
 もう一つ、ふるさと回帰をする人は、団塊の世代を中心にして田舎で悠々自適をやると思っていましたが、実は田舎に行く人は田舎で働きたいと言っています。つまり、ふるさと回帰というのは労働力の移動。だから、400万人が動けば、そのうちの300万人が労働力になります。
 先ほど17歳人口の20%が東京に行って戻らないとお話ししました。地方は公的費用を含め、若者一人を高校卒業まで育て上げるのに数千万円のお金を投資します。これをどう取り戻そうかということがないと、田舎はもちません。一つは地方交付税、このままでいいのかという問題意識があります。今の基準財政需要額の仕組みは人口が減った現在を評価しています。人口が減った現在を是認して、地方交付税が配られています。これはおかしいと思います。仮に東京に子供たちが出て行くことがいいという前提で考えますと、出て行くことはやむを得ませんが、たくさん東京に人を出した地方ほど多くの交付税が受けられる仕組みを考えないと、地方はリバウンドできません。過去の実績、これからの取組み、そういう意味で、財源復元機能として地方交付税を位置づけないといけません。
 もう一つ、20%の子供たちが東京へ行ってそこで住民税を払いますから、地方に住民税は落ちません。これをどうやって奪還するか、その手段の一つが西川知事がお考えになった「ふるさと納税制度」で、これは非常にいい仕組みとだと思います。特に、所得控除ではなく税額控除にしているというのが非常に大きい。これは過渡的な措置であると考えており、願わくば住民税の2割を奪還したい。これを計算すると、大都市から8,000億円引き出す計算になり、そのときのやり方は何かというと、合理的な理由がないとだめですから、二地域居住したときに二地域居住先で住民税を払ってもらうといったことです。
 私は第二の住民票をぜひつくってほしいと思っています。本居と兼居で案分しろというのが私の考え方で、ふるさと納税制度は1割を限度にしていますから、2割戻さないと地方は割が合わないという考え方です。
 ふるさと納税制度について10万人アンケートで聞いたら、「既に特定地域に寄附をしている」というのが1%。ところが「どこに寄附したらいいか適切な情報が得られれば、ぜひ寄附をしてみたい」が31%。残りの7割ぐらいの人が知らないという状況で、とりあえず住民の3割の人が何かやりたいと言っています。ところが適切な情報先がなかったり、また手続上の問題もあったりします。これは重要な問題で、一つの考え方として、目的税化するということがあります。一般財源になっているというように誤解している住民の方もたくさんいます。市役所や町役場の人件費になってしまうと思っている人がたくさんいますので、ぜひそのようなことはやめていただきたい。
 そういう中で、田舎の300万戸ある空き家を何とか維持管理したいと思っています。田舎に行きたいと思っている人が住むわけですから、ふるさと納税をして市役所に管理をお願いしたいということです。
 それで、もう一つはふるさと回帰者の誘致補助金をつくってほしいというのが私の希望です。皆さん方の自治体は今まで企業誘致条例を制定し、誘致した企業は十分に雇用が増えますから、補助金を与え、税金を免除するということを行ってきたのですが、この企業が逃げてしまうなどグローバル化でとんでもないことになっているのです。
 私は再三申しているように、ふるさと回帰者は自分で事業を興す人です。ふるさとで起業するという趣旨です。この人たちに補助金を与えてもおかしくないというのが私の持論であり、試算いたしますと、1人当たり80万円補助してもおかしくありません。
 最後になりますが、投資環境を整備してほしい。これも先ほどと同じで、田舎の起業家に投資をしたいかというと、今やっている人は1%ぐらいですが、32%の人が投資環境が整備されればふるさと起業家に投資をしてみたいと言っています。いずれにしても、こういう環境が整備されることが、冒頭に述べました、2割がディスカウントされ続けていることを取り返せる手段であります。こういったことを、ぜひふるさと納税とあわせてやっていければと考えています。

【山根】
 ふるさと納税という新しいシステムが日本中で動き出していることは大変すばらしい。
 ふるさとに戻って働く、起業するという方が、実は思いのほか多いということになると、ふるさと納税の目的税として、そういう都会からUターン、Iターンしてきた人たちを支援するようなシステムの資金を、皆さん協力してください、とやると、これは相乗効果になってくるのではないかと思います。そういうIターン、Uターンのための政策をふるさと納税で考えることがありますか。

【西川】
 先ほど各自治体からふるさと納税の使い道について話がありましたが、実際にはふるさと納税について目的を定めた使い方をしている自治体は多いと思います。いろいろ議論はありますが、今言われた使い方も、1つの分かりやすい方法だと思います。
 一方で、そういう方にどのようにして地方に来ていただくかというのも、また課題であります。それで、今年の春から、全国の田舎と言われる11の県(青森県、山形県、山梨県、長野県、石川県、福井県、奈良県、鳥取県、島根県、高知県、熊本県)で横の連携を結び、いろんな提案をしたり、新しい時代の研究をしたり、あるいは自治体だけではなくて農協や商工会議所、大学など、民間で横の連携をする動きを行っており、その中でさまざま議論が出ています。
 例えば、地方で企業が立地した場合に、40%の法人税率を30%にするといった議論があります。
 また、介護では、東京では場所がとれず、お金を地方に持ってくるから地方で面倒を見てほしいという議論も起こりつつあります。
 そして、単身赴任の慣行をやめたらどうかという議論もあります。少なく見積もって30万、40万人の単身赴任者が日本にいます。健康の問題、教育の問題、あるいは家族の問題など、いろいろありますので、これを何とかできないかと考えています。
 そういったものを組み合わせながら、何とかして新しい人の動きをつくっていくということだと思います。

【山根】
 このふるさと納税で障害になっていること、あるいは国との関係でこれはちょっと困っているということがありますか。221006発言要旨写真2

【西川】
 3つあります。
 一つ目は、確定申告をしなければこの制度の恩典を受けられないということ。年末調整で何とかできないか、これはかなり制度的にクリアしなければならない問題です。
 二つ目に、事務費として5,000円の負担があり、寄付金全額が生きてこないという問題です。
 三つ目に、住民税でふるさと納税を受けるのは、その人の税金の1割までということで、それを例えば2割ぐらいにすることで、1割とか15%といった心配をせずに寄附ができるということです。
 この3点について、国に対し、関係都道府県と要請を行っています。制度が発足してから約3年経ちますが、制度を改正するというのは大きな課題です。

【山根】
 ふるさと納税というシステムが始まっているわけですから、あとは自治体の知恵の出し合い、アイデアの出し合いです。お金を集められる道ができたわけですから、もう「お金がない」とは言えません。これは大変いいことだと思います。



 

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