はやぶさで拓く福井のサイエンス教育 パネルトーク

最終更新日 2011年1月9日ページID 013779

印刷

 このページは、平成23年1月9日(日)に国際交流会館で行われた「はやぶさで拓く福井のサイエンス教育」パネルトークの内容をまとめたものです。
 パネリストは次の方々です。

 ◇パネリスト
  宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙教育センター長 中村 日出夫氏
  ノンフィクション作家・福井県文化顧問 山根 一眞氏
  福井県知事 西川一誠氏

【山根】
 みなさんこんにちは。ここ福井県で「はやぶさカプセル」の展示が実現したことを大変うれしく思っています。230109発言要旨写真1
 私は福井県とお付き合いさせていただくようになってから15年が経ちます。また、福井県の文化顧問を10年以上しております。このようなことから東京在住の福井県人と言われており、福井県のためならと思い、今回のパネルトークの出演依頼を引き受けました。
 皆さんにご紹介します。JAXAの広報部長の舘さんは福井県人です。舘さんはJAXAの広報を全て仕切っています。私は長くお付き合いさせていただいていますが、ある時福井の方だと分かり嬉しくなりました。このようなことで、ひいきして福井でイベントが開催されたということではないのですが……。
 今日は、県内の高校生に対し、「はやぶさ」プロジェクトマネージャの川口先生からたっぷりとお話をしていただきました。私は7、8年前から何度も川口先生にお目にかかっていますが、毎回話す内容が違う話題豊富な方です。このあとのタウンミーティングでも、川口先生のお話を聞くことができますので、しっかりと聞いてください。スクープ話もたくさん出てくると思います。
 川口先生が、ある意味では時代の象徴的な存在になっていったということは、日本の多くの人たちが科学技術に対する考え方を変えたということです。日本は科学技術立国と言われながら、科学技術がこんなに大きな国民の関心事になるということは今までありませんでした。「はやぶさ」が変えたということになれば、このはやぶさのエネルギーを使って、はやぶさを日本の教育のニューエンジンにする。少ない予算でできるということではありませんが、小さな力で大きな仕事をするというのがはやぶさですからね。
 今日はまさしく教育がテーマです。福井は日本一の教育県で、子どもたちの学力が非常に高いということもありますので、これを弾みに、この宇宙を、このはやぶさを、これからの福井の次の世代を育てることにどう活かせるかということを考えたいと思います。
 では中村さん、JAXAのような独立行政法人は、他にも海洋研究開発機構とか情報通信研究機構とかありますが、JAXA以外に次の世代のためとなる教育関係の専科を持つ組織はありますか。

【中村】
 大学は別として、こういう研究機構で教育関係の専科を持っているのはJAXAだけです。平成15年に宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が1つになり、JAXAが誕生しました。そして、その2年後に宇宙教育センターができました。学校教育を支援しよう、社会教育を支援しよう、宇宙のいろいろな研究物・成果を子どもたちに大いに生かそうという目的で作られたものです。学校の先生や地域の指導者を支援していこうと頑張っています。

【山根】
 今までJAXA宇宙教育センターで学んだ子供たち、あるいは先生、あるいは一般の方々は何人ぐらいになりますか。

【中村】
 宇宙は全ての教科・領域に関係があります。理科だけではありません。家庭科、技術、社会、国語、道徳にも宇宙は関係がありますね。川口先生のお話でもありましたが、まさに総合的な教育を宇宙教育と呼んでいます。教育へのスピンオフと言いますが、宇宙の成果を教育に活かすことが宇宙教育ということになります。今学校の先生にどんどん浸透してきています。昨年全国で2,000名がJAXA宇宙教育センターで指導者としての資格を取得し、全国で活躍しています。

【山根】
 ということは、そのすそ野はものすごく大きいということになりますね。

【中村】
 学校の先生を例にとりますと、1人の先生は子供たち1,000人を教えると言われています。10人の先生に宇宙教育指導者として頑張っていただくと、
10,000人の子供たちが影響を受けることになります。
 現在、小中高合わせて全国で1,400万人の子供たちがいます。これだけの子供たちに何人の指導者がいれば教えられるのかを考慮し、全国の拠点を構築しながら、学校の先生に対して宇宙教育の研修会を実施したり、資料の提供を行ったりしています。

【山根】
 先程の川口先生のお話にもありましたが、宇宙の小惑星を探査することは、環境や地震、生命の誕生などの研究につながります。JAXAや海洋研究開発機構とか、いろんな機関が一緒になって、JAXAで子供たちに教えるということを、もっと取り組んでいくべきではないかという気がします。

【中村】
 その通りだと思います。定義的には100km上空からを宇宙と呼んでいます。実は私たちが住んでいるこの地球の表面は、非常に特殊な環境です。スポーツにしても何にしても、地球上では重力との戦いです。宇宙空間ではその重力が非常に弱いということです。
 宇宙を探査機で調べることは、実は地球のことを調べているのです。はやぶさの快挙もすべて私たちの生活に密着した教育や科学に繋がっていると思いますね。

【山根】
 西川知事。こういったJAXAの取組みを、福井県としても積極的に活用していってはどうでしょうか。子どもたちのためのメニューになり得ますよね。

【西川】
 福井県の小中学生の学力・体力は日本一です。でも、理科や算数は少し弱いのです。高校生にもそういう傾向が現れています。知事の立場としては、まずサイエンスを強化したいという思いが根底にあります。そのためにノーベル賞を受賞された先生等をお招きして、スーパーサイエンスフォーラムを実施しており、今回はその3回目です。
 それから、サイエンス寺子屋というプロジェクトを進め、公民館等を利用して、先生方のOB、大学の先生、それから企業にお勤めの科学者にいろんな実験などをしてもらって、理科の知識・関心を高めようという活動もしています。
 もう一つは、今日南部陽一郎先生の記念賞を受賞したような理数が非常に得意な人たちをどんどん伸ばして、全国科学オリンピックやコンクールにどんどん出るように努めており、ここ数年で2、3倍の応募者になっています。
 このような事業を行っていますが、やや単発的な取組みで終わっています。ですから、JAXA宇宙教育センターで継続的に教えていただくなり、あるいは参加していくことが、今後の福井県の方向であると思いますので、ぜひともお願いします。

【山根】
 例えばJAXAで今までやっていなかったような力のある新しいプログラムを、とりあえず福井県で2年ほどやってみようか、というのはどうですか。

【中村】
 皆さんご存じのように、福井県は子どもたちの学力が秋田県と並んで全国トップクラスの県ですので、今、全国で福井県が大変注目を浴びています。昨年PISAという、世界65か国が参加したOECDの調査が行われました。新しく参加した上海がすべての項目でトップでしたが、日本も大変成績が良かったのです。それで、文部科学省でも、学力低下が止まったのではないかということになりました。
 科学リテラシーという言葉があります。これも世界65か国で5位になったのです。素晴らしい成績です。日本の子どもたちは大変優秀です。そして、その中でも特に優秀なのがこの福井県ということです。福井県はなぜこんなに学力が高いのかというのを、全国が研究をしているところです。
 一つには、家庭が大変立派で、子どもたちが基本的な生活習慣を身につけているからでしょう。世界でトップクラスの県なのですから、西川知事にはサイエンス教育を更に推進していただきながら、誇りある地域づくりを進めていただければと思います。JAXAは大いに協力します。


【山根】
 東京在住福井県人としては、ちょっと褒めすぎかなと思いますが、これは事実で、「ネコの目で見守る子育て 学力・体力テスト日本一!福井県の教育のヒミツ」という本はベストセラーになっています。
 それからアメリカの若い人たちの宇宙への取組みを見ると、これはかなわないなということがいっぱいあります。例えば、大学生や高校生が、大きなロケットを作って砂漠で打ち上げたり、コーラ缶の中に衛星を詰め込んでそれを宇宙まで飛ばしたりしています。自分たちで宇宙旅行の会社やロケットをつくる会社を興すということにも繋がっているのです。
 日本では難しいことです。例えば、日本海に向かって10メートルぐらいのロケットをつくって飛ばす。その位のダイナミックなものがあってもいいかなと思います。糸川英夫先生による日本最初のロケットの実験は秋田県から日本海に向けて打ち上げられたということですが、このあたりはどうですか。

【西川】
 今、海の話をされましたが、奥越の大野・勝山というのは、日本の中で1、2位を争うくらい、非常に空がよく見える地域なのです。

【山根】
 毎年日本で最も素晴らしい星空が見える地域のランキングを環境省が発表していますが、福井県は大体いつも2位なのです。何もないからというのではありませんよ。大野には天文台の設備があり、もちろん空気もきれいです。それから日本海特有の風などいろんな条件があると思います。そういう意味では、宇宙に最も近い県なのです。1位は与那国島近辺の離島ですから、陸地では福井県がずっと1位なのです。
 ここで私からの提案ですが、今年から他県ではできないような、何かこんなことをというのがないでしょうか。

【中村】
 知事に2点お願いします。
 一つは、今まで日本の教育というのは理念とか、学ぶこと、覚えること、これを重視してきました。これからは、新学習指導要領も変わってきており、言語活動とか表現力というのを強調しています。今、充電式の電池がありますね。この充電された電池だけではどんな能力があるか分かりません。これをモーターに繋いで、はじめてどんな力があるか分かるのです。
 同じように、詰め込みをどんどんやるだけで、それを表現しないとだめです。子どもたちには、ぜひ表現させること、ものづくりをさせること。インプットだけでなく、アウトプットをさせるようにしてほしい。今までの世の中のアウトプットはテストだけでした。ですから、今後は表現や言語活動に重きを置く教育をぜひ進めていただきたいと思います。
 もう一つは、子どもたちに実物体験をさせてほしいということ。きっかけもすごく大事で、中学2年生あたりの時に人生が変わります。毛利衛さんも、高校1年生の時に皆既日食を見て、宇宙飛行士になろうと思ったという逸話がありますが、そういうことはたくさんあります。ぜひ実物を見るとか、貴重な体験をさせていただきたい。そうすると人生が変わります。素晴らしい体験をすると、それに突っ走って世界を動かすような、あるいは貢献するような人材が生まれます。ぜひお願いします。

【山根】
 福井県出身の南部陽一郎先生の言葉の中に、「教育の中で、全く役に立たないというようなことを、のびのびと勉強・研究させてくれる環境の中から、次の時代を変えていくようなイノベーションや素晴らしい人材が生まれる」というのがあります。先程の川口先生の話の中にも「教科書に書いてあるのは答えがあることばかりだ」とありました。福井県で行う新しい宇宙教育の試みには、一切教科書に書いてないことだけやるというくらいのことがいいかもしれませんね。
 最後に一つだけお話ししたい。今、日本ではロボコンなど、ロボットが盛んです。昔、ある競争があって、全員に乾電池を一つずつ渡して30分以内にどうやってパワーを出せるか考えさせたところ、ある学生が電気のこぎりで乾電池を縦に2つに切ったのです。この2つを直列につないだら、この子だけが2倍の3ボルトになって、1位になったのです。こういう発想がすごく大事だろうと思います。教科書には絶対書いてないことです。そういうことを、ぜひJAXAと連携してやっていただけたらと思います。


【西川】
 わかりました。最後に一つだけ、正岡子規の歌に「真砂なす数なき星の其の中に吾に向ひて光る星あり」というのがあります。宇宙の大自然の中で、あの星が僕の星だということですが、宇宙の神秘とか、命の大切さとか、人の繋がりとか、こういう気持ちを持って子供たちが学んでいけるような福井にしたいと思いますのでよろしくお願いします。

【山根】
 ありがとうございました。川口先生もはやぶさに関してたくさんの短歌をお作りになっています。宇宙は文科系の人でも話が通じるんですよね。皆さんも、特に高齢者の方も、これから宇宙を勉強しようということがあってもいいと思います。今日は本当にありがとうございました。



 

アンケート
ウェブサイトの品質向上のため、このページのご感想をお聞かせください。

より詳しくご感想をいただける場合は、までメールでお送りください。

お問い合わせ先

(地図・アクセス)
受付時間 月曜日から金曜日 8時30分から17時15分(土曜・日曜・祝日・年末年始を除く)